あやかしの癒し子〜祓い屋の出来損ないは、鬼の王の最愛〜

 か細い声だった。
 けれどその響きには、痛みよりも、驚きよりも、もっと切実なものが滲んでいた。

 ずっと探していたものを、ようやく見つけたような。
 闇の中で、たったひと筋の光に縋るような。
 小さな妖は震える手で、奈津の袖を掴んだ。
 
「どうか……我らの主を、お助けください……」

「主……?」

 奈津が戸惑う。
 妖は縋るように奈津の袖を掴んだ。

「このままでは、紫鬼様が……死んでしまう……」

 紫鬼。
 知らないはずの名前。
 その名を聞いた瞬間、空気が震えた気がした。

 奈津の背筋に、ぞくりと悪寒が走る。
 けれど、不思議と恐怖はなかった。

 それに――。

(癒し子って……何?)

 そんな言葉、聞いたこともない。
 戸惑う奈津を見つめながら、小さな妖は必死に言った。

「あなた様だけが、紫鬼様を救えるのです……!」

 その瞬間、胸の奥で、何かが強く疼く。
 もし、この”出来損ない”に――できることが、あるのなら。

(助けたい)

 その感情だけが、はっきりと浮かんでいた。
 奈津は小さく息を吸う。

「……その人のところへ、連れて行って」

 妖は目を見開き、やがて泣きそうに頷いた。

「……はい、癒し子様」

 小さな妖が、奈津の手を取る。

 その瞬間。
 ――ぞわり。

 空気が変わった。

「……っ」

 奈津は息を呑む。
 廃屋の床に、黒い影のようなものが広がっていく。
 それはまるで水面のように揺らめき、ゆっくりと足元を飲み込んでいった。

 冷たい。
 なのに、不思議と嫌ではない。

「こちらです」

 小さな妖が振り返る。
 琥珀色の瞳には、縋るような必死さと、微かな希望が宿っていた。

 次の瞬間。
 景色が、反転した。