あやかしの癒し子〜祓い屋の出来損ないは、鬼の王の最愛〜

だから、妖はすべて悪だと教えられても、奈津は信じきることができなかった。

 怯えていた。
 苦しんでいた。
 ただ、生きようとしていただけだった。

 あの子たちと、今、目の前にいる小さな妖の姿が重なる。
 
 現世に現れた妖は、祓わなければならない。
 その力がないものでも、報告は義務だ。
 背いたことが知れたら、罰を受ける。

 けれど――。
 本当は、助けたかった。

(……放って、おけない)

 ゆっくりと、その子へ近づく。
 妖はびくりと体を震わせた。

「大丈夫……」

 そっと声をかける。

「私は、あなたを傷つけないから」

 自分でも不思議なくらい、自然に言葉が零れていた。
 奈津はそろそろと膝をつき、小さな妖へ手を伸ばす。

 細い肩に触れた、その瞬間だった。

 ――ふわり。
 淡い光が溢れた。

「……え?」

 奈津は目を見開く。
 柔らかな光が、奈津の手から零れている。

 月光のように淡く、温かい光。
 それが傷だらけの妖を包み込み、裂けた皮膚をゆっくりと癒していく。
 
 傷が、消えていく。
 血に濡れていた肌が、元の白さを取り戻していく。

「な……」

 奈津は呆然と呟いた。
 こんな力、知らない。

 自分は出来損ないで。
 霊力なんてほとんどなくて。
 祓い屋としての能力も失ったはずなのに。

 小さな妖が、ゆっくりと目を開ける。

 潤んだ琥珀色の瞳が、奈津を映した。

「……癒し子、様」