あやかしの癒し子〜祓い屋の出来損ないは、鬼の王の最愛〜

結局、家ではろくな食事にありつく事ができなかった。
 空腹でふらつく足を引きずりながら、奈津は女学院の廊下を歩いていた。

「またあの子、一人でいるわ」
「関わらない方がいいわよ。綾乃さんが言っていたでしょう?」

 奈津と目が合った女生徒が、ひそひそと何かを囁き合う。
 聞こえないふりをして、足を速めた。
 ここでも、同じ。

 私は――誰からも認められない。

 廊下の向こうでは、綾乃が女生徒たちに囲まれていた。

「今期の成績も首席だなんて、さすが綾乃さんですわ」
「祓い屋としても優秀で、お綺麗で……本当に憧れます」

 綾乃は美しく微笑んでいる。
 同じ日に、同じ母から生まれたはずなのに、奈津と綾乃はまるで違った。

 綾乃は美しく、優秀で、誰からも愛される完璧な祓い屋。
 奈津はその隣にいるだけの、出来損ない。
 昔から、ずっとそうだった。


 ――綾乃は特別だった。

 七歳の時、綾乃は誰よりも早く刀を顕現させた。
 九条家の庭先で、青白い霊力をまとった刀を握る綾乃を見て、父と母は歓喜した。

「なんということだ。たった七歳で刀の顕現ができるとは……! 一条家の蔵馬様に次ぐ異例の早さだぞ」

「さすがだわ、綾乃。あなたは九条家の希望の星よ」

 その隣で、奈津はただ立ち尽くしていた。
 何も出せない手のひらを握りしめる。
 そんな奈津へ向けられたのは、ため息だった。

「それに比べて……」
「やっぱりこの子は駄目ね」

 母の声に、幼い奈津は唇を噛むことしかできなかった。
 綾乃は無邪気な顔で笑った。

「しょうがないよ。だってお姉ちゃんは、あやのの()()()()なんだから」

 祓い屋の家系に生まれる子どもの多くには、生まれ持った霊力がある。
 霊力の多さは、そのまま祓い屋としての才能に直結する。

 奈津の霊力は、ほぼ皆無に近かった。
 一方で綾乃は、目を見張るほど高い霊力を持っていた。
 まるで母の腹の中で、本来ふたりに分けられるはずだった力を、すべて綾乃に奪われてしまったかのように。
 
 だから奈津は、綾乃の出涸らしなのだと。
 周囲の者たちは、そう囁いた。