あやかしの癒し子〜祓い屋の出来損ないは、鬼の王の最愛〜

低い声だった。
 その声に、周囲の妖たちが息を呑む。

「紫鬼様……!」

 その瞬間。
 黒い瘴気が奈津へ襲いかかった。
 妖たちが悲鳴を上げる。

「馬鹿な人間だ……!」
「その瘴気に触れれば、骨も残らんぞ!」

 けれど奈津は、逃げなかった。
 苦しそうだった。
 ただ、それだけが胸に刺さった。

 奈津は震える手を伸ばす。
 黒い瘴気が、ざわりと揺れた。

「やめろ!」
「人間ごときが紫鬼様に触れられるはず――」

 その時。
 奈津の指先が、紫鬼へ触れた。

 ――ふわり。
 柔らかな光が溢れる。
 黒い瘴気が、一瞬止まった。

 室内が静まり返る。

「瘴気に……触れた……?」
「そんな……あり得ない……」

 妖たちが呆然と呟く。

 紫鬼が目を見開いた。
 紫の瞳が、奈津を射抜く。

「……お前、何だ」

 低く落ちた声が、静かに響いた。