あやかしの癒し子〜祓い屋の出来損ないは、鬼の王の最愛〜

屋敷の中では、妖たちが慌ただしく行き交っている。

 額から伸びる鬼の角。
 赤、灰、白銀――色も形も様々だ。

 その誰もが切迫した表情で、屋敷の奥を見つめていた。

「紫鬼様のお力が暴走している!」
「このままでは屋敷ごと飲み込まれるぞ!」

 悲鳴のような声。
 その時だった。

 ――ドォン!!

 凄まじい衝撃が屋敷を揺らした。
 黒い瘴気が吹き荒れる。

 妖たちが悲鳴を上げた。

「紫鬼様……!」

 小さな妖が泣きそうな声を漏らす。
 奈津は反射的に駆け出していた。

「癒し子様!?」

 制止の声も聞かず、廊下を走る。
 奥へ。もっと奥へ。
 近づくほど、瘴気は濃くなっていく。

 普通の人間なら立っていることすらできないはずなのに、不思議と奈津は倒れなかった。

 そして辿り着く。
 重々しい障子の前。
 その向こうから、息が詰まるほどの瘴気が溢れていた。
 奈津は震える手で、障子へ触れる。

 ――開いた。
 
 室内には、黒い瘴気が渦巻いていた。
 息が詰まるほど濃密な闇。
 視界すら霞むほどの瘴気の奥で、白銀の髪がゆらりと揺れる。

 その隙間から覗いたのは、夜を溶かしたような深い紫の瞳。
 ぞくり、と背筋が震える。

 美しい。
 そう思った瞬間、全身の毛が逆立った。

 空間を支配するほどの圧。
 息苦しいほど濃密な妖気。
 まるで巨大な獣を目の前にしたような本能的な恐怖が、奈津の背筋を粟立たせる。

 その全てが、目の前の存在が“人ではない”と告げていた。
 苦しげに呼吸を乱しながら、深い紫の瞳だけが鋭く奈津を射抜く。

「……人間が、何をしに来た」