「おっはよー!」
ガラガラ、と体育館の扉が開く音がした。
「……って、もうユッキー来てんじゃん!」
明るい声とともに伊吹部長が入ってくる。
「きたか。諸悪の根源」
鳴神先輩はゆっくりと立ち上がって部長に向かっていく。
「ユッキーさんきゅー! 来てくれてマジ助かるわ! ほんと神! 鳴神様!」
満面の笑顔でハイタッチしようとした手は、しかし、するりとかわされた。先輩はシャツの胸元をぐっと掴み、眉を吊り上げて迫る。
「くだらんダジャレはやめろ。おまえ、保志に何も説明してなかったな。危うく不審者扱いされるところだったんだが」
「いやん、そんな怖い顔しなくても」
シャツを掴まれても部長はニコニコしている。ちょっぴり冷や汗かいているけど。
「サプライズだよサプライズ。保志をびっくりさせたくて」
「…………悪いが聞こえなかった。なにが、サプライズなんだ?」
怒りのオーラが漂っている。さすがの部長も「ウソウソ!」と必死に取り繕うほどだ。
「本当はこんなに早く来てくれると思わなかったんだ。保志には今日の朝練で説明するつもりだったんだよ、ほんとに」
揉める二人。後からやってきた他の部員たちも何事かと注目している。一触即発の空気だ。これはちょっとまずいのでは?
「落ち着いて!! 平和にいきましょうよ、ね?」
無理やり二人の間に割り込んだ。さっきから名前を連呼されているから無関係ってわけでもないだろうし。
「……保志が言うなら」
鳴神先輩がパッと手を放した。部長は「ふぅ、ひどい目に遭った」とぶつぶつ言いながら乱れたシャツを直している。話を聞く限りでは部長にも非があるように思うけど、ひとまず落ち着いたようで良かった。
「お二人は知り合いなんですか?」
「ん? なんだ、まだ話してなかったのかユッキー。あんなに会いたがってたのに」
「だまれ涼太」
ぎろっと睨まれて「ひぃっ」と肩をすくめた。
「えーっと、ユッキーとオレは小学校からの腐れ縁で、中学ではダブルスペア組んでた元相棒なんだ。いまも同じクラス」
部長はバド部でいちばん上手い。そんな部長と組んでいたのなら上手いのも当然だ。
「高校では事情があって籍だけある幽霊部員だったんだけど、今度の大会でダブルスの頭数が足りないから助けてほしいってお願いしたんだよ。もう分かってると思うけど、めちゃくちゃ上手いから」
部長の言う通り、おれじゃ手も足も出なかった。
この人が参加してくれるのなら偶数になっておれも試合に出られる。元ペアの部長と鳴神先輩が組んで、おれは……。
「で、どうよ? うちの次期エース候補。伸びしろしかないだろ?」
部長がニヤニヤしながら先輩の首に腕を回した。
「はなれろ、暑苦しい」
ぺし、と乱暴に振り払った先輩はなぜかおれに近づいてくる。
「え、な、なんですか?」
真剣な眼差しに見つけられてじわりと体が熱くなった。
「保志、俺とダブルスペアを組んでくれないか?」
「おれと?」
びっくりして言葉が出てこない。テンパっていると部長が先輩を肘で小突いた。
「固まってるじゃないか。怖いんだよ。圧があって」
「この顔は生まれつきだ」
「はいはい。で、本当に保志でいいのか? オレがお勧めした相手だけど、実力をみてから決めるって言ってたじゃん。保志以外の選手と組んでみなくていいのか?」
「必要ない。こいつがいい」
と、おれの肩を引き寄せた。
え? え?
「俺は保志とダブルスを組んで秋大会に出る。他の提案は受け付けない」
突然のことに頭がぐるぐるしていたけど、冷静に考えれば有難いことだ。本当なら出場すらできなかったダブルスにこんな上手い人と出られるんだから。
「おれでいいんですか? 元ペアの部長と組んだ方が勝率高いと思いますけど」
ダブルスはペアの実力が同じくらいじゃないと一方に負担が偏る。贔屓目なしに、おれよりも部長と先輩の方がお似合いだろう。
「「はっ?……こいつとペア?」」
二人同時に眉間に皺が寄った。
「「絶っ対にお断りだ!!」」
全く同じタイミングで叫び、互いの顔を指さした。
「ユッキーはミスったときに直前の動きが悪いとか頭空っぽとか処理が甘いとか理路整然と詰めてきてメンタルへし折る悪魔なんだよ。いまのオレには優しく励ましてくれる相棒がいるんで断固お断り!」
「涼太は何度注意しても同じミスを繰り返し、へらへら笑うばかりで一向に改善しようとしない。こいつとペアになるくらいなら棄権した方がマシだ」
ぷいっと顔を背けるタイミングまで一緒だ。
仲が良いのか悪いのか分からないな。
しかしこれでおれのペアになることはほぼ決定的になった。大丈夫かな、足を引っ張って怒られたりしたら……。
「保志」
そっと腕を引かれる。
「勝手に決めてすまない。だが、俺とペアになるのは嫌か?」
眉尻を下げて不安そうに尋ねてくる。
うわ、さっきまでの仏頂面とのギャップやばい。なんかドキドキする。
「――イヤじゃ、ない、です。ぜんぜん」
そう答えるのが精いっぱいだった。
おかしいな。試合後でもないのに心臓がバクバク鳴ってる。とっくに引いたと思った汗が出してくる。
「良かった。短い間だがよろしく頼む」
目元が緩む。こくこくと頷きながら胸の奥がぎゅっと熱くなるのが分かった。
変だな。なんでこんなに喉が渇くんだろう。
ガラガラ、と体育館の扉が開く音がした。
「……って、もうユッキー来てんじゃん!」
明るい声とともに伊吹部長が入ってくる。
「きたか。諸悪の根源」
鳴神先輩はゆっくりと立ち上がって部長に向かっていく。
「ユッキーさんきゅー! 来てくれてマジ助かるわ! ほんと神! 鳴神様!」
満面の笑顔でハイタッチしようとした手は、しかし、するりとかわされた。先輩はシャツの胸元をぐっと掴み、眉を吊り上げて迫る。
「くだらんダジャレはやめろ。おまえ、保志に何も説明してなかったな。危うく不審者扱いされるところだったんだが」
「いやん、そんな怖い顔しなくても」
シャツを掴まれても部長はニコニコしている。ちょっぴり冷や汗かいているけど。
「サプライズだよサプライズ。保志をびっくりさせたくて」
「…………悪いが聞こえなかった。なにが、サプライズなんだ?」
怒りのオーラが漂っている。さすがの部長も「ウソウソ!」と必死に取り繕うほどだ。
「本当はこんなに早く来てくれると思わなかったんだ。保志には今日の朝練で説明するつもりだったんだよ、ほんとに」
揉める二人。後からやってきた他の部員たちも何事かと注目している。一触即発の空気だ。これはちょっとまずいのでは?
「落ち着いて!! 平和にいきましょうよ、ね?」
無理やり二人の間に割り込んだ。さっきから名前を連呼されているから無関係ってわけでもないだろうし。
「……保志が言うなら」
鳴神先輩がパッと手を放した。部長は「ふぅ、ひどい目に遭った」とぶつぶつ言いながら乱れたシャツを直している。話を聞く限りでは部長にも非があるように思うけど、ひとまず落ち着いたようで良かった。
「お二人は知り合いなんですか?」
「ん? なんだ、まだ話してなかったのかユッキー。あんなに会いたがってたのに」
「だまれ涼太」
ぎろっと睨まれて「ひぃっ」と肩をすくめた。
「えーっと、ユッキーとオレは小学校からの腐れ縁で、中学ではダブルスペア組んでた元相棒なんだ。いまも同じクラス」
部長はバド部でいちばん上手い。そんな部長と組んでいたのなら上手いのも当然だ。
「高校では事情があって籍だけある幽霊部員だったんだけど、今度の大会でダブルスの頭数が足りないから助けてほしいってお願いしたんだよ。もう分かってると思うけど、めちゃくちゃ上手いから」
部長の言う通り、おれじゃ手も足も出なかった。
この人が参加してくれるのなら偶数になっておれも試合に出られる。元ペアの部長と鳴神先輩が組んで、おれは……。
「で、どうよ? うちの次期エース候補。伸びしろしかないだろ?」
部長がニヤニヤしながら先輩の首に腕を回した。
「はなれろ、暑苦しい」
ぺし、と乱暴に振り払った先輩はなぜかおれに近づいてくる。
「え、な、なんですか?」
真剣な眼差しに見つけられてじわりと体が熱くなった。
「保志、俺とダブルスペアを組んでくれないか?」
「おれと?」
びっくりして言葉が出てこない。テンパっていると部長が先輩を肘で小突いた。
「固まってるじゃないか。怖いんだよ。圧があって」
「この顔は生まれつきだ」
「はいはい。で、本当に保志でいいのか? オレがお勧めした相手だけど、実力をみてから決めるって言ってたじゃん。保志以外の選手と組んでみなくていいのか?」
「必要ない。こいつがいい」
と、おれの肩を引き寄せた。
え? え?
「俺は保志とダブルスを組んで秋大会に出る。他の提案は受け付けない」
突然のことに頭がぐるぐるしていたけど、冷静に考えれば有難いことだ。本当なら出場すらできなかったダブルスにこんな上手い人と出られるんだから。
「おれでいいんですか? 元ペアの部長と組んだ方が勝率高いと思いますけど」
ダブルスはペアの実力が同じくらいじゃないと一方に負担が偏る。贔屓目なしに、おれよりも部長と先輩の方がお似合いだろう。
「「はっ?……こいつとペア?」」
二人同時に眉間に皺が寄った。
「「絶っ対にお断りだ!!」」
全く同じタイミングで叫び、互いの顔を指さした。
「ユッキーはミスったときに直前の動きが悪いとか頭空っぽとか処理が甘いとか理路整然と詰めてきてメンタルへし折る悪魔なんだよ。いまのオレには優しく励ましてくれる相棒がいるんで断固お断り!」
「涼太は何度注意しても同じミスを繰り返し、へらへら笑うばかりで一向に改善しようとしない。こいつとペアになるくらいなら棄権した方がマシだ」
ぷいっと顔を背けるタイミングまで一緒だ。
仲が良いのか悪いのか分からないな。
しかしこれでおれのペアになることはほぼ決定的になった。大丈夫かな、足を引っ張って怒られたりしたら……。
「保志」
そっと腕を引かれる。
「勝手に決めてすまない。だが、俺とペアになるのは嫌か?」
眉尻を下げて不安そうに尋ねてくる。
うわ、さっきまでの仏頂面とのギャップやばい。なんかドキドキする。
「――イヤじゃ、ない、です。ぜんぜん」
そう答えるのが精いっぱいだった。
おかしいな。試合後でもないのに心臓がバクバク鳴ってる。とっくに引いたと思った汗が出してくる。
「良かった。短い間だがよろしく頼む」
目元が緩む。こくこくと頷きながら胸の奥がぎゅっと熱くなるのが分かった。
変だな。なんでこんなに喉が渇くんだろう。

