「よし、決めた!俺がイチの息抜きしてやるよ」
俺がそう言ったのは、壱哉に勉強を教わり始めてから1週間。
たまたま数学の問題に行き詰まって、大きく伸びをした時だった。
壱哉に細めた目で見つめられ、慌てて付け加える。
「ほ、ほら!これ、一緒に行こう!今週の土曜日」
「……あじさいまつり?」
乱雑に広げられた、いくつもの教科書の下から取り出したのは、この地域で催される祭りのチラシだ。
「日向たちにもらったんだよ。神社のあじさいがライトアップされて、屋台も出るんだって。人もいっぱい来るらしい」
「へぇ、いいじゃん!面白そう」
「だよな!あいつら地元だから、みんなで行こうって……」
壱哉がチラッと俺に視線を投げる。
「言ったんだけど、毎年2人で行くからって断られちった。だから、俺らも2人で行こう」
「うん、行く」
二つ返事とはこういうことを言うのだろう。
壱哉は間髪入れずに答えて、にっこりと満足そうに笑った。
「それじゃあ、ナツはそれまでに英文読解やらないとね。月曜日テストだよ」
「ひぇっ!嫌なこと思い出させるなよ。イチの意地悪!」
眉を寄せて片頬をふくらませる。
壱哉は悩ましげに「う〜ん」と唸り、俺の頬をプニプニとつついてきた。
「ナツってたまにあざといよなぁ。…それ、ほっぺた膨らますの、やばいよ」
「は?マジで?やばぁ、俺、完全に無意識だった!ごめん、男のくせにキモいよな」
うわ!壱哉にそんなふうに思われるなんて……めちゃくちゃ恥ずかしい!
ていうか、すげー顔熱くなってきた。
いたたまれなくなった俺は
「ちょっ!ちょっと、休憩!」
と椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がる。
「ナツ!!」
後ろから呼びかけられたけど、構わず部屋を飛び出した。
「やっほー!ナツくん」
「は、颯先輩…」
ランドリールームに併設された洗面所に走って行くと、颯先輩がいた。
ここにはちょっとした休憩スペースがあり、俺と颯先輩はたまに会うと、座って何気ないおしゃべりをすることがある。
「先輩、どうも。洗濯ですか?」
「うん、そうだよ。今終わったとこ。ナツくんはどうしたの?そんなに慌てて…顔、真っ赤だけど」
「うっ、えっと、あ、走ってきたから暑くて!」
顔が熱いとは思ってたけど、ちょっと見て分かるほど赤くなってるのか?!
俺はなんて言ったらいいか分からず、ゴクリと唾を飲み込んだ。
そんな俺を、先輩の勘繰るような視線が刺してくる。
「その、だから、顔洗おうと思って!」
と言いながら両手を広げて、何も持っていないことに気づいた。
俺、すげー挙動不審じゃね?
それ以上言葉を続けられず、キョロキョロと視線を彷徨わせていると、先輩は口元を緩めて微笑んだ。
「いいよ、俺のタオル貸してあげる。洗いたてだよ」
そう言って、洗濯物の中から引っ張り出したタオルを、俺に差し出してくる。
考えるより先にそれを受け取ろうとした時
「ナツ!」
追いかけてきたらしい壱哉が、先輩の手を押しのけて、俺と先輩の間に割り込んできた。
「イチ?!どうしたんだよ!」
壱哉は先輩に正面から向き直り
「タオルは俺のを使うんで、大丈夫です」
と、低い声でそれだけを言った。
そのまま俺の手首を掴んで、ズンズンと歩き出す。
「ちょっとイチ!あ、先輩!」
引っ張られながら振り返ると、先輩はにこにこしながら手を振っていた。
部屋に戻ると、俺は掴まれている手を思いっきり振り払った。
「イチ!先輩に失礼だろ!なんでいつもあんな態度なんだよ」
壱哉はひどく傷ついたような顔で、振り払われた手を見つめている。
「……だってナツ、先輩のことかっこいいと思ってるだろ」
「はあぁ?」
質問の答えとはズレた、思いもよらない返しに、ひっくり返ったような声が出てしまった。
「それがなんだって言うんだよ。先輩は誰から見てもかっこいいだろ!」
「だめ」
壱哉がじっと俺を見つめてきて、思わずたじろぐ。
「だめって、何がだよ?!」
「ナツは先輩のこと、かっこいいと思っちゃだめ」
「は?」
頭がクラクラしてくる。
わけが分からなすぎて、また逃げたくなってきた。
「もういいよ!今日はもう終わり!」
と話を切るように言って、壱哉に背中を向け、机の上の教科書やノートを乱暴にまとめる。
その時、俺の背後に影が迫り、左右から腕が伸びてきた。
壱哉が両手を机につき、俺は逃げ道を塞がれる。
壱哉の胸がおずおずと背中に触れて、熱が伝わってきた。
「さっき、あざといなんて言ってごめん……やばいってそういう意味じゃなくて」
俺とほとんど変わらない身長の、壱哉の顔が、耳のすぐ近くにある。
そのままの姿勢で囁かれる低く甘いような声に、首筋がゾクゾクし、頬が引きつった。
「か、か、か、可愛い、ってこと………えーと、とにかく、ああいうこと俺以外に絶対やらないで」
「ひゃっ」
耳からダイレクトに伝わる言葉に、自分のものとは思えない吐息のような声が出る。
手にしていた教科書がパタンと倒れた。
「祭り、楽しみにしてるから。絶対2人で行こうね。他の人誘ったらだめだよ」
壱哉はそう言って離れると、さっさとベッドに飛び込んでカーテンを閉めてしまった。
残された俺は、余韻が残る耳に手を当ててその場にわなわなと座り込み、声にならない悲鳴を上げた。
さっきまでの出来事が、走馬灯のように蘇る。
え?!なんなの?!壱哉って、俺のこと好きなの?
俺がそう言ったのは、壱哉に勉強を教わり始めてから1週間。
たまたま数学の問題に行き詰まって、大きく伸びをした時だった。
壱哉に細めた目で見つめられ、慌てて付け加える。
「ほ、ほら!これ、一緒に行こう!今週の土曜日」
「……あじさいまつり?」
乱雑に広げられた、いくつもの教科書の下から取り出したのは、この地域で催される祭りのチラシだ。
「日向たちにもらったんだよ。神社のあじさいがライトアップされて、屋台も出るんだって。人もいっぱい来るらしい」
「へぇ、いいじゃん!面白そう」
「だよな!あいつら地元だから、みんなで行こうって……」
壱哉がチラッと俺に視線を投げる。
「言ったんだけど、毎年2人で行くからって断られちった。だから、俺らも2人で行こう」
「うん、行く」
二つ返事とはこういうことを言うのだろう。
壱哉は間髪入れずに答えて、にっこりと満足そうに笑った。
「それじゃあ、ナツはそれまでに英文読解やらないとね。月曜日テストだよ」
「ひぇっ!嫌なこと思い出させるなよ。イチの意地悪!」
眉を寄せて片頬をふくらませる。
壱哉は悩ましげに「う〜ん」と唸り、俺の頬をプニプニとつついてきた。
「ナツってたまにあざといよなぁ。…それ、ほっぺた膨らますの、やばいよ」
「は?マジで?やばぁ、俺、完全に無意識だった!ごめん、男のくせにキモいよな」
うわ!壱哉にそんなふうに思われるなんて……めちゃくちゃ恥ずかしい!
ていうか、すげー顔熱くなってきた。
いたたまれなくなった俺は
「ちょっ!ちょっと、休憩!」
と椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がる。
「ナツ!!」
後ろから呼びかけられたけど、構わず部屋を飛び出した。
「やっほー!ナツくん」
「は、颯先輩…」
ランドリールームに併設された洗面所に走って行くと、颯先輩がいた。
ここにはちょっとした休憩スペースがあり、俺と颯先輩はたまに会うと、座って何気ないおしゃべりをすることがある。
「先輩、どうも。洗濯ですか?」
「うん、そうだよ。今終わったとこ。ナツくんはどうしたの?そんなに慌てて…顔、真っ赤だけど」
「うっ、えっと、あ、走ってきたから暑くて!」
顔が熱いとは思ってたけど、ちょっと見て分かるほど赤くなってるのか?!
俺はなんて言ったらいいか分からず、ゴクリと唾を飲み込んだ。
そんな俺を、先輩の勘繰るような視線が刺してくる。
「その、だから、顔洗おうと思って!」
と言いながら両手を広げて、何も持っていないことに気づいた。
俺、すげー挙動不審じゃね?
それ以上言葉を続けられず、キョロキョロと視線を彷徨わせていると、先輩は口元を緩めて微笑んだ。
「いいよ、俺のタオル貸してあげる。洗いたてだよ」
そう言って、洗濯物の中から引っ張り出したタオルを、俺に差し出してくる。
考えるより先にそれを受け取ろうとした時
「ナツ!」
追いかけてきたらしい壱哉が、先輩の手を押しのけて、俺と先輩の間に割り込んできた。
「イチ?!どうしたんだよ!」
壱哉は先輩に正面から向き直り
「タオルは俺のを使うんで、大丈夫です」
と、低い声でそれだけを言った。
そのまま俺の手首を掴んで、ズンズンと歩き出す。
「ちょっとイチ!あ、先輩!」
引っ張られながら振り返ると、先輩はにこにこしながら手を振っていた。
部屋に戻ると、俺は掴まれている手を思いっきり振り払った。
「イチ!先輩に失礼だろ!なんでいつもあんな態度なんだよ」
壱哉はひどく傷ついたような顔で、振り払われた手を見つめている。
「……だってナツ、先輩のことかっこいいと思ってるだろ」
「はあぁ?」
質問の答えとはズレた、思いもよらない返しに、ひっくり返ったような声が出てしまった。
「それがなんだって言うんだよ。先輩は誰から見てもかっこいいだろ!」
「だめ」
壱哉がじっと俺を見つめてきて、思わずたじろぐ。
「だめって、何がだよ?!」
「ナツは先輩のこと、かっこいいと思っちゃだめ」
「は?」
頭がクラクラしてくる。
わけが分からなすぎて、また逃げたくなってきた。
「もういいよ!今日はもう終わり!」
と話を切るように言って、壱哉に背中を向け、机の上の教科書やノートを乱暴にまとめる。
その時、俺の背後に影が迫り、左右から腕が伸びてきた。
壱哉が両手を机につき、俺は逃げ道を塞がれる。
壱哉の胸がおずおずと背中に触れて、熱が伝わってきた。
「さっき、あざといなんて言ってごめん……やばいってそういう意味じゃなくて」
俺とほとんど変わらない身長の、壱哉の顔が、耳のすぐ近くにある。
そのままの姿勢で囁かれる低く甘いような声に、首筋がゾクゾクし、頬が引きつった。
「か、か、か、可愛い、ってこと………えーと、とにかく、ああいうこと俺以外に絶対やらないで」
「ひゃっ」
耳からダイレクトに伝わる言葉に、自分のものとは思えない吐息のような声が出る。
手にしていた教科書がパタンと倒れた。
「祭り、楽しみにしてるから。絶対2人で行こうね。他の人誘ったらだめだよ」
壱哉はそう言って離れると、さっさとベッドに飛び込んでカーテンを閉めてしまった。
残された俺は、余韻が残る耳に手を当ててその場にわなわなと座り込み、声にならない悲鳴を上げた。
さっきまでの出来事が、走馬灯のように蘇る。
え?!なんなの?!壱哉って、俺のこと好きなの?


