「お前のこと認めるよ」
隣の席に話しかけながら座る。
少し大きめの真新しい制服に身を包んだ壱哉は、ニヤッと笑って「だろ?」と言った。
『俺、ナツと同じクラスになる未来しか見えない』
その宣言通り、同じクラス、しかも隣の席だ。
「やっぱりイチは占い師か、預言者になるべきだな」
「育高の母と呼んでくれ」
「おー!すごいすごい」
パチパチと手をたたいて適当に返事を返すと、壱哉がニヘラッと笑った。
それが入学式の会話。
あれからオリエンテーションやら、親睦を深めるためのレクリエーションやら、実力を測るためのテストやらで、あっという間に2週間が過ぎた。
返ってきた数学のテストをしょんぼり眺めていると、後ろの席の鍛治原夕太が俺の肩越しに覗き込んできた。
「なっつん、30点でよくこの高校に入れたな」
と言って「ガハハッ」と笑う。
小柄で色白、化粧してるみたいにいつも頬を染めている、その見た目に似合わず豪快に笑う男だ。
そんな鍛治原は、名前の漢字を間違えたから、と5点引かれている。
小学生みたいだ。
「ゆう、人のテスト盗み見しちゃダメだよ。わっ、ホントに30点だ!……あ、なっつん、ごめんね」
よく通る、少し高めの声で俺の点数をクラス中にバラしたのは、その隣の席の日向一。
バスケ部でそこそこ身長が高く、スポーツマンらしい短髪がよく似合っている。
2人は同じ中学出身の幼馴染で、ここが地元だそう。
入学式の日「お前ら2人も同中なんだな」と、鍛治原に話しかけられたのがきっかけで仲良くなった。
そう、俺は念願叶って友達ができた。
春休み中に買ったスマホの連絡帳に、母親以外の名前が増えていく。
クラスLIMEにも入った。
俺は高校生活を満喫するんだ。
なんて感慨深く思っていると
「ナツ、これからは俺が勉強教えるよ」
と言われ、隣の席をじとりと睨む。
睨まれた壱哉はムゥッとして、俺に向き直った。
「なんだよ!受験勉強はすげぇ頑張ってたじゃん。春休み中に全部忘れた?」
「俺は過去は振り返らない主義なの!常に最新の俺だから」
「ほほぅ、じゃあ未来のナツがこれから頑張るってことだ。で、未来のナツさんは30点からどうやって挽回するつもりなんですかね?」
答えに詰まって黙り込む。
こいつは今回のテストで早速、学年1位をとっていた。
「いっちー、すごいよね。イケメンで、なおかつ勉強もできるなんて」
日向が眉尻を下げて穏やかに言うと、鍛治原が頬をふくらませる。
「そんなん、ずりぃよ。持って生まれたスペックが違いすぎるじゃん」
どうやら日向が褒めたのが気に入らないらしい。
幼馴染というのはやっかいなもんだ。
親友以上、家族未満ってとこか?
幼馴染がいない俺からすると、彼らの関係は特殊に見える。
10年以上一緒にいて、喧嘩したり仲違いしたり、色々あっただろう。
それでも隣にいることを選んでいる。
羨ましくもあり、不思議な気分にもなってくる。
ちなみに、俺は彼らをひそかに『かじはじコンビ』と呼んでいる。
それにしても、壱哉はこんなヘラヘラしてるのに頭が良いんだよな。
といっても、部屋の本棚を見れば納得か。
俺の本棚はスカスカなのに対し、壱哉のそれは参考書や問題集なんかがギューギューに詰まっている。
合格発表前にそれらをすべて処分した俺とは大違いだ。
それに、俺がスマホで漫画を読んでいる間、壱哉はずっと勉強している。
それが、このテスト結果に如実に表れているわけだ。
だからなおさら、そこそこの偏差値の育高を受験した意味が分からないが……
「俺は赤点さえとらなきゃいーの。それに顔はともかく、イチはちゃんと努力してるから!普通にすげーやつなんだよ」
唇を尖らせて言うと、壱哉はほんのりと口角を上げて「ふっ」と笑い、机に突っ伏してしまった。
その耳が赤く染まっているから、どうやら照れているらしい。
なんか妙にくすぐったいんだけど?
――自己紹介のとき、颯先輩とのことがあったから「ナツでも夏太郎でも好きに呼んでください」と先手を打ったのだが……
壱哉は自分の自己紹介で「ナツと呼んでいいのは俺だけなので、他の呼び方にしてください」なんて、声を大にして言っていた。
おかげでクラス全員からクスクス笑われ、俺はしばらく顔を上げられなかった――
まぁいい。
中学のときは友達なんていらなかったから認めなかったけど、壱哉を友達第一号としよう。
こいつはやっぱりいいやつだし、頑張り屋で、一緒にいて楽しいのは本当だ。
なんて偉そうに考えているが、こんな俺と友達になってくれて、マジで感謝してる。
そんな気持ちで、さらさらと壱哉の髪を撫でていると
「だぁー!くすぐったい!!1番ずるいのはナツだろ!」
と言って、顔を上げないまま手を払われた。
その手をじっと見つめて首をひねる。
どうやら、これは俺の悪い癖らしい。
だって壱哉のつむじを見てると、無性にムズムズしてきて、つい触りたくなるんだよな……
隣の席に話しかけながら座る。
少し大きめの真新しい制服に身を包んだ壱哉は、ニヤッと笑って「だろ?」と言った。
『俺、ナツと同じクラスになる未来しか見えない』
その宣言通り、同じクラス、しかも隣の席だ。
「やっぱりイチは占い師か、預言者になるべきだな」
「育高の母と呼んでくれ」
「おー!すごいすごい」
パチパチと手をたたいて適当に返事を返すと、壱哉がニヘラッと笑った。
それが入学式の会話。
あれからオリエンテーションやら、親睦を深めるためのレクリエーションやら、実力を測るためのテストやらで、あっという間に2週間が過ぎた。
返ってきた数学のテストをしょんぼり眺めていると、後ろの席の鍛治原夕太が俺の肩越しに覗き込んできた。
「なっつん、30点でよくこの高校に入れたな」
と言って「ガハハッ」と笑う。
小柄で色白、化粧してるみたいにいつも頬を染めている、その見た目に似合わず豪快に笑う男だ。
そんな鍛治原は、名前の漢字を間違えたから、と5点引かれている。
小学生みたいだ。
「ゆう、人のテスト盗み見しちゃダメだよ。わっ、ホントに30点だ!……あ、なっつん、ごめんね」
よく通る、少し高めの声で俺の点数をクラス中にバラしたのは、その隣の席の日向一。
バスケ部でそこそこ身長が高く、スポーツマンらしい短髪がよく似合っている。
2人は同じ中学出身の幼馴染で、ここが地元だそう。
入学式の日「お前ら2人も同中なんだな」と、鍛治原に話しかけられたのがきっかけで仲良くなった。
そう、俺は念願叶って友達ができた。
春休み中に買ったスマホの連絡帳に、母親以外の名前が増えていく。
クラスLIMEにも入った。
俺は高校生活を満喫するんだ。
なんて感慨深く思っていると
「ナツ、これからは俺が勉強教えるよ」
と言われ、隣の席をじとりと睨む。
睨まれた壱哉はムゥッとして、俺に向き直った。
「なんだよ!受験勉強はすげぇ頑張ってたじゃん。春休み中に全部忘れた?」
「俺は過去は振り返らない主義なの!常に最新の俺だから」
「ほほぅ、じゃあ未来のナツがこれから頑張るってことだ。で、未来のナツさんは30点からどうやって挽回するつもりなんですかね?」
答えに詰まって黙り込む。
こいつは今回のテストで早速、学年1位をとっていた。
「いっちー、すごいよね。イケメンで、なおかつ勉強もできるなんて」
日向が眉尻を下げて穏やかに言うと、鍛治原が頬をふくらませる。
「そんなん、ずりぃよ。持って生まれたスペックが違いすぎるじゃん」
どうやら日向が褒めたのが気に入らないらしい。
幼馴染というのはやっかいなもんだ。
親友以上、家族未満ってとこか?
幼馴染がいない俺からすると、彼らの関係は特殊に見える。
10年以上一緒にいて、喧嘩したり仲違いしたり、色々あっただろう。
それでも隣にいることを選んでいる。
羨ましくもあり、不思議な気分にもなってくる。
ちなみに、俺は彼らをひそかに『かじはじコンビ』と呼んでいる。
それにしても、壱哉はこんなヘラヘラしてるのに頭が良いんだよな。
といっても、部屋の本棚を見れば納得か。
俺の本棚はスカスカなのに対し、壱哉のそれは参考書や問題集なんかがギューギューに詰まっている。
合格発表前にそれらをすべて処分した俺とは大違いだ。
それに、俺がスマホで漫画を読んでいる間、壱哉はずっと勉強している。
それが、このテスト結果に如実に表れているわけだ。
だからなおさら、そこそこの偏差値の育高を受験した意味が分からないが……
「俺は赤点さえとらなきゃいーの。それに顔はともかく、イチはちゃんと努力してるから!普通にすげーやつなんだよ」
唇を尖らせて言うと、壱哉はほんのりと口角を上げて「ふっ」と笑い、机に突っ伏してしまった。
その耳が赤く染まっているから、どうやら照れているらしい。
なんか妙にくすぐったいんだけど?
――自己紹介のとき、颯先輩とのことがあったから「ナツでも夏太郎でも好きに呼んでください」と先手を打ったのだが……
壱哉は自分の自己紹介で「ナツと呼んでいいのは俺だけなので、他の呼び方にしてください」なんて、声を大にして言っていた。
おかげでクラス全員からクスクス笑われ、俺はしばらく顔を上げられなかった――
まぁいい。
中学のときは友達なんていらなかったから認めなかったけど、壱哉を友達第一号としよう。
こいつはやっぱりいいやつだし、頑張り屋で、一緒にいて楽しいのは本当だ。
なんて偉そうに考えているが、こんな俺と友達になってくれて、マジで感謝してる。
そんな気持ちで、さらさらと壱哉の髪を撫でていると
「だぁー!くすぐったい!!1番ずるいのはナツだろ!」
と言って、顔を上げないまま手を払われた。
その手をじっと見つめて首をひねる。
どうやら、これは俺の悪い癖らしい。
だって壱哉のつむじを見てると、無性にムズムズしてきて、つい触りたくなるんだよな……


