中学の同級生とルームメイトになった話。

――え?今夜どうすんの?
俺の目の前には、青ざめた顔をした壱哉がいる。

運命的?な再会を果たしたあと、すぐに俺の荷物が届いた。
早速、今夜の寝床を確保するべく、マットレスを広げる。
「………あ!!!」
そんな俺の後ろで、壱哉が突然大きい声を出したもんだから、ビクッと肩が跳ねた。
「うわっ!びっくりした。いきなり何?」
「えっ!嘘だろ?!」
やけにうろたえて、スマホを握りしめたまま部屋の中をウロウロしている。
「なんなんだよ!」
「………ない」
「何が?忘れ物?」
壱哉は眉をぎゅっと寄せて、絶望的な声を出した。
「………布団」
「はぁ?!やばいじゃん。早く親に連絡して送ってもらえよ!」
「そうだ!…あれ?スマホは?どこだ?」
まだ散らかったままの机の上をガサガサと探しているが……
「イチ、落ち着け。スマホは手に持ってる」
「……あ」
壱哉は電話をかけに行った。

ふーっと息を吐き出す。
人がパニクってるのを見ると、逆に冷静になるって本当なんだな。
しばらくして戻ってきた壱哉は、まだ青い顔をしている。
「どうだった?」
「………どうしよう。届くの早くても明日だって」
「なんだよ、一晩くらい貸すって。床で寝るわけにいかないだろ?夜はまだ寒いし」
「でもそれじゃ、ナツが」
俺は立ち上がって、シーツをかけたばかりのマットレスを床に下ろした。
「シングルだけど、2人で寝れるだろ」
「は……?はぁぁぁぁぁ?!」
壱哉がとんでもない声を出す。
それと同時にさっきまで青かった顔がみるみるうちに赤くなっていった。
ちょっと面白い。
「あははっ、なんだよ、それ。別にいいだろ、男同士なんだし」
「いやいや、俺、床でいいよ!床で充分!ほ、ほら!服をいっぱい着込めば……」
「別にくっついて寝るわけじゃあるまいし、緊急事態なんだから我慢しろよ」
「くっ!くっ……!!」
そんなに嫌がられると俺もちょっとショックなんだけど。
まだ何か言おうとしている壱哉の肩をポンとたたき
「だーめ。風邪ひかれると俺が困る」
と言うと、壱哉は諦めたように肩を落とした。
「俺の名誉のために誓って言うけど、わざと忘れたわけじゃないから!!」
なんの言い訳だよ!
「そりゃそうだろ。誰が好き好んで床で寝たがるんだよ。もうこの話はおしまい。ほら!そっち持って」
壱哉に掛布団の端を持たせて、2人でカバーをかけた。

快適な寮生活のために買った、20センチ厚のマットレス。
落ちたらなかなかに痛いんじゃないかと思う。
「おーい、壱哉さん。それじゃ落ちるぞ」
壱哉はこれでもかというほど端に寄っている。
ていうか、ほとんど床じゃないか?
「いやいや、大丈夫っすよ、ナツさん」
「大丈夫じゃないって!もっとこっち来いよ」
俺がスウェットの背中をつつくと、分かりやすく体が跳ねた。
「ほらほら、落ちる寸前じゃん」
「いやぁ、ほんと、構わないでくださいってば」
「はぁ」
ため息をついて天井を見上げる。
壱哉って意外と頑固なんだ。
どうしても隣が気になるし、俺、初めての場所って寝つけないんだよな。
目をぎゅっと瞑っても、眠気はやってこない。
なんだかんだ、1日緊張していたし、疲れてるはずなんだけど。

ふと、ドクドクと少し早い心臓の鼓動が響いてきた。
なんでだろう、なんか安心する。
壱哉の背中に体を向けると、温かさが伝わって、そのうち瞼が重くなってきた。
あ、寝れそう、このまま寝ちゃおう。

夜中に目を覚ますと、目の前に壱哉の胸があった。
首の下には枕とは違う感触。
そうか、腕枕されてるんだ。
壱哉、意外と筋肉あるんだな。
規則的に上下する胸に手を当てると、こちらもなかなかに鍛えられた胸筋に触れる。
もしかして、筋トレで男らしくなって彼女作りたいとか…
髪も染めたし、ちょっと大人っぽくなったよな…
などと、ぼんやり考えているうちにまた瞼が重くなる。
壱哉の腕が痺れるから離れないと、と思うが、眠気に支配された体は言うことを聞かず、再び深い眠りに落ちていった。

翌朝。
「さっむ〜」
震えながら目を開けると、2人とも見事に床に落ちている。
のそりと体を起こし、マットレスを挟んだ向こう側にいる壱哉の肩を揺すった。
「おーい…起きろー」
「んん〜、あと5分」
「ベタなセリフ言うなってー」
と言いつつ、壱哉はきっかり5分後に起床。
「おはよう、寝られた?」
すっかり目が覚めた俺は、もう着替えを済ませていた。
「ふぁ〜おはよ〜」
「はははっ!でっけーあくび」
そのあくびでやっと目が覚めたようで、パチパチと瞬きしている。
「うわっ、絶対無理だと思ったのに、普通に寝てた、超快眠!ナツ、ほんっとありがとう!」
「いいけど。なんだよ、イチって人の気配がすると寝られないタイプ?それとも実は潔癖症とか?」
「いやぁ違う。ドキドキしすぎて……」
「ドキドキ?」
首を傾げると、壱哉は急に真顔になって口を噤んだ。
俺はパンと手を叩いて
「あーそうだよな。昨日が初日だもんな。俺も変に緊張してたもん」
なるほど。昨日、こいつの態度が変だったのはやっぱりそういうことだったのか。

「あ、ていうか腕大丈夫だった?痺れただろ?」
「へ?」
「俺、イチの腕、枕にしちゃってたんだよ」
「は?」
「イチって細っこいのに筋肉あるんだなー。服の上からじゃ分からなかった。鍛えてる?俺なんか受験で太っちゃってさぁ…」
「ひぇ……っ!!」
俺はちょっとムッとして腕を組んだ。
なんなんだ?さっきから。
「それ、『は行』でしか会話しないチャレンジ?」
「……あれって夢だったんじゃ」
「夢?」
まったく話が読めない。
「うっ」
「う?」
今度は『あ行』縛りか?と思ったらそうじゃなく
「…うるせーほっとけ!!」
と叫んで部屋を飛び出す壱哉。
俺は呆然としてその背中を見送った。
ほっとけほっとけって、俺は仏じゃねーんだよ。