中学の同級生とルームメイトになりました

喧騒から離れた空き教室。
正座させられた俺たちは、目を吊り上げて怒る日向をおそるおそる見上げた。
日向って怖いんだ……
怒らせちゃいけない人、ナンバーワンだ……
「はーくん、ああなるとしつこいから」
と、小声で言ったのは鍛治原。
「君たち、少しは自制心を持ちなさい!」
鍛治原がああ言うだけあって、長ーいお説教だ。
俺は隣に正座する壱哉をじとりと見つめて、こっそり足の裏をつねってやった。
「ぎゃっ!」と叫ぶ壱哉を見て、少し胸がスッとする。
「こら!そこ!イチャイチャしない!!」
怒鳴られた俺は、また身を縮こませた。
「まあまあ、はーくん。それくらいにしといたら?」
助け舟を出してくれた鍛治原に、心の中で手を合わせる。
日向は「はぁ〜」とため息をついて、「足崩していいよ」と疲れたように言った。
床に正座させられた俺たちの足は、すっかり痺れている。
「日向、ごめん。我慢できなかったの俺だから。ナツは悪くない」
素直に謝る壱哉に、さっき足をつねった罪悪感が押し寄せる。
「イチだけが悪いんじゃなくて、俺もちゃんと拒否できなかったから、ごめん」
そう言って頭を下げた。
俺たちの前に日向があぐらをかいて座り、鍛治原がその隣にしゃがみこむ。
ハタから見たら、何の儀式かと思われそうだ。
「はーくんだって、今までいろいろやらかしてるじゃん?学校でキスしたことも一度や二度じゃねーだろ?」
「そ、そそそれは、中学のときだし。今はもうしないって決めたよね」
「いろいろ失敗した上でだろ?なっつんといっちーは、きっと今からなんだろうし」
「それは、そうだろうけど……」
顔を覗き込む鍛治原に、動揺しているのか頬を赤らめる日向。
微妙に会話が読めなくて、俺は首を傾げた。
「さっきから何の話?」
先に2人の間に入ったのは壱哉だ。
いぶかしげな視線を投げている。
「まるで2人、恋人同士みたいだけど?」
「え?!」
思わず大声が出てしまい、慌てて口を塞ぐ。
すると、かじはじコンビは自然に手を繋いだ。
「そうだよん!オレたち、愛し合ってんの!」
そう言ってにっこり笑う2人に、俺は今日1番の「はあぁぁ?!」をお見舞いした。

「いつから?中学?」
「小学6年のときから」
「しょっ!小学校?!」
俺と壱哉が目を丸くして顔を合わせるのを見て、鍛治原は「がっはっは!」と笑った。
「オレら幼馴染だろ?ほぼ生まれた時からずーっと一緒にいて、自然とそうなったっていうか」
「ボクはずっと片思いだと思ってたけどね」
日向は照れたように首の後ろをかいている。
「付き合い始めてから、中学まではオープンにしてたんだ。ゆうとのこと隠したくなかったし、堂々としていたかったから」
壱哉と同じこと言ってるなぁ。
「でも心ないことを言う人もたくさんいて、なんだか疲れちゃって、ボクから別れようって言った」
辛そうに眉を寄せる日向の背中を優しく撫でて、鍛治原が話を引き継ぐ。
「でも、オレはどーしてもはーくんのこと諦められなくて……2人で何度も話し合って、オープンにするのやめたんだ。オレらにとって大事な人だけに分かってもらえばいいやって」
「2人にもいつかは言おうって話してたんだけど、こんなタイミングになっちゃった。……ごめんね」
弱々しく微笑む日向に、俺たちはブンブンと首を振る。
「話してくれてありがとな」
お互いを見つめるかじはじコンビが、急に大人みたいに見えて、俺は目尻をこすった。
「だから、さっきあんなに怒ったの?」
壱哉が思い出したように身震いする。
日向が「あははっ」と笑って、「そうだよ。だって傷ついてほしくないから」と言った。
「で?お前らはいつから付き合ってんの?」
鍛治原に問われて、言葉を詰まらせる。
「えっと……」
「俺たち、付き合ってるわけじゃないんだ」
言い淀む俺の肩に手を置いて、壱哉が微笑んだ。
「は?付き合ってないのに学校であんなことしたの?!」
日向の怒りが再燃しそうな雰囲気に、俺たちは肩を寄せる。
「だ、だって、ナツ、寮ではさせてくれないし」
「そりゃそうだろ!寮でしたら、お前どんどんエスカレートしそうだもん」
日向はため息をついて、「なるほどね」と言った。
それから「絶対おすすめしないけど、どうしてもって言うなら…」と言って、抜け穴を事細かに教えてくれて、時間とか場所とか天気とか……
鍛治原が「そんなにいろいろ計算してたんだな」と言ってニヤッとすると、日向が「今はもうしてないでしょ!」とツッコむ。
壱哉がやけに真剣に話を聞いているから、俺はずっと自分の上履きを眺めていた。
そして、最後は俺の話をした。
あの鍛治原が目に涙をためて、「なんだそれ!酷すぎる!」と怒ってくれたから、少し胸がスッとした。

気づけば、後夜祭も終盤になっていた。
後夜祭のために特別に解放された屋上で、俺と壱哉は肩を並べて空を見上げる。
育高の文化祭では、10分間の花火が打ち上げられ、この辺の名物になっているらしい。
学校の生徒しか入れないこの場所は意外にも人が少なかった。
それに今夜の月じゃ、よほど近くにいかないとシルエットくらいしか分からない。
俺たちはドキドキしながら、こっそり手を繋いだ。
壱哉が、俺にしか聞こえない声で話し始める。
「なんか俺さ、目ぇ覚めたかも。ナツを誰にもとられたくない、独り占めしたいって思うばっかりで、周りが見えなくなってた。俺はこれからもずっとナツと一緒にいたいから、周りともうまくやりたい」
そう言った横顔が、見惚れるほどきれいで、なぜか泣きそうになった。
「俺も。むやみに怖がっていないで、大事な人たちにちゃんと理解してもらいたい。何を言われても、分かってもらえるまで何度でも説明するよ。この人が俺の好きな人です、って」
壱哉の手をぎゅっと握ると、壱哉も握り返してくれる。
不思議と怖くない。
壱哉が好きだから。
何があってもそばにいてくれるって、心から信じてるから。
「ねぇ、イチ……俺の恋人に、なってくれる?」
壱哉の目が大きく見開かれた。
信じられないものを見るみたいに、俺を見つめている。
「本当に?」
震える声で聞かれて、胸の奥が熱くなった。
「やっと言ってくれた……俺、ずっと待ってた」
壱哉の声は少し掠れてる。
「イチ、大好きだよ」
「俺もナツが好きだよ。すっごい好き」
「どんなに逃げても、イチは追いかけてくれた。だから今度は俺が隣を歩くよ」
その時、一発目の花火が上がり、校庭から歓声があがった。
まるで、俺たちのことを祝福してるみたい。
花火に照らされた瞳がキラキラ輝いていて、吸い込まれるみたいにキスをした。
また日向に怒られちゃうな……なんて思いながら。
それから額をくっつけて、お互いの濡れた目元をそっと拭うと、嬉しくなってクスクスと笑い合った。