中学の同級生とルームメイトになりました

「うわっ!なっつんなのに課題が終わってる!」
よく通る少し高い声で、俺の課題の状況をクラス中にバラしたのは、日向だった。
その言い方だと、俺がやらないのがデフォルトみたいじゃないか。
ムッとして唇を尖らせると、後ろの席の鍛治原が、両肩を掴んできた。
「どうせいっちーに手伝ってもらったんだろ?まったく、いっちーはなっつんに甘いよな。オレが『見せて』って可愛く頼んだって、こいつ速攻で断ったからなっ!」
振り向いて文句を言ってやろうとしたら、先に壱哉が口を挟む。
「ナツはちゃんと自分でしたけど?俺は分からないところを教えただけ。鍛治原はただ写そうとしたんじゃん。そんなんダメに決まってる」
フォローされると、それはそれで申し訳ない気持ちになって、体を縮こませた。
俺の場合、ほとんどがその分からないところだったもんで……
夏休み明け早々、二学期の成績が心配になる。
「ていうか、2人とも黒くね?」
かじはじコンビは揃ってこんがり日焼けしていた。
夏休み中、図書館にこもって勉強していた俺たちとは正反対だ。
「はーくんのばあちゃんちに泊まり込んで、海の家でバイトしてたんだよ」
「毎年ゆうと行くんだけど、今年は初めてバイトに入らせてもらったんだ」
「へー、なんか陽キャみたい」
俺はそう言って、2人をまじまじと見つめる。
元々色白な鍛治原は、見た目だけだと儚げだったのがまるっきり変わっていて、元気な小学生男子みたいだ。
日向は優しそうな印象だったのが、そこにワイルドさとチャラさが加わり、大人っぽくなっている。
「はーくんなんかすげーモテちゃってさぁ、群がる女子を蹴散らすの大変だったわ」
鍛治原はそう言って、日向をじとりと睨んだ。
俺は「ふーん」と聞き流したけど、壱哉が眉を上げて「はぁ?なんで〜?」とこぼす。
「なんで鍛治原が女子蹴散らすの?もしかしたら日向に彼女できるチャンスだったかもしれないじゃん?」
「「……………」」
鍛治原と日向が、同時に固まった。
2人は一瞬だけ視線を合わせて、慌ててそらす。
「ゆ、ゆうは、ボクに先に彼女できるのが嫌なんだよ。なんでも競いたがるから」
「ね?」と同意を求めるように、鍛治原と目を合わせる。
鍛治原もブンブンと頭がもげそうな勢いで頷いて、「あったりまえじゃん!」と大声を出した。
俺はまた「ふーん」と言ったけど、壱哉はぽかんとして、2人を見つめている。
俺は首を傾げつつ、鍛治原に視線を向けた。
「鍛治原はモテなかったん?」
その途端、鍛治原が口をへの字に曲げて、苦々しい顔をする。
しまった!これは地雷だったらしい。
口から出てしまったものを引っ込めることはできず、俺はこめかみを指でかいた。
「……ゆうもモテてたよ。主に、男の人からだけど」
日向が横目で様子を伺いつつ、苦笑いしながら代わりに答える。
な、なるほどぉ……
だから日向が女子からモテるのが気に入らなかったんだな?
鍛治原は苦々しい顔を崩さないまま、ギリギリと歯を食いしばった。
「休憩時間もバイト終わりも、わざわざ日に当たって黒くなったのにっ!あいつらハイエナのように湧いてきやがって!」
日焼けとそれとは関係ない気がするけど……
「まぁまぁ」
俺は慰めるように、鍛治原の肩をポンポンとたたいてやった。

あーあ、また外れてる。
俺は背伸びして窓枠から垂れ下がる暗幕の端を、これでもかと押しつけた。
夏休みが終わって2週間。
今日はわれらが育蘭高校、伝統の文化祭だ。
俺たちのクラスは話し合いの結果、お化け屋敷をやることになった。
教室の窓側、1番後ろの角、黒い布で仕切られた、ほんの1人か2人いられるだけの小さな空間が俺の持ち場だ。
身長でお化け役に選ばれた壱哉に、お客さんが通るタイミングでスポットライトを当てる。
ま、裏方なんだけど、けっこう重要な仕事だと思う。
タイミングを間違えると怖さが半減するから、俺たちは何度もシミュレーションを重ねた。
教室の中は一切の光が入らないように、窓を暗幕で塞いでいるんだけど、俺が待機する空間の端っこだけ張りつきが弱くて、昨日から何回か直している。
そうしないと、俺がタイミングを見計らうために覗いているのがバレてしまうからだ。
「なっつ〜ん……あ、また外れてる?」
きれいに化粧され、ロングヘアのかつらをかぶった日向がひょいっと覗く。
「そうっ!ここだけっ!ダメなんだよなっ!」
グイッ、グイッと親指で押しつけながら答える。
「他の人に頼んでおくからさ、お客さんが入る前にいっちーと宣伝に行ってきて」
「おー、分かったー」
日向の格好はドラキュラだ。
その衣装がやけに妖艶で、また女子が寄ってきて、鍛治原の機嫌が悪くなりそうだなと思う。
その鍛治原は猫娘なんだけど、日焼けしているせいでやたら健康的だ。
それはそれで……何とは言わないけど寄ってきそう。

生徒でごった返す廊下に出ると、白い着物を着た壱哉が、宣伝のプラカードを持って立っていた。
「お待たせ……」
着物はわざと着崩され、胸の前がはだけて、ほどよく筋肉がついているのがよく見える。
控えめに言ってもかっこいいし、ドキッとするほど色っぽい。
本番は落ち武者のようなかつらをかぶるのだが、今はただのイケメンだ。
廊下を通り過ぎる男子ですらチラチラと見ていくんだから、女子がこれを見たらどうなることやら。
俺はため息をついて、壱哉をじとりとした目で見上げる。
「なぁ、はだけすぎなんだけど!」
「そんなこと言われても……衣装係が、会心の出来だから絶対崩すな、って」
たじたじと両手を上げる壱哉に、俺は問答無用で帯の下を引っ張った。
「明るいところではダメ!」
「あ〜あ、絶対怒られるよぉ」
「衣装係に怒られるのと、俺に怒られるのどっちがいい?」
「ん〜」
壱哉はプラカードを肩に担ぎ上げながら、考えるように顎に手を当てている。
それから腰をかがめて俺の耳元に顔を寄せ、「ナツに怒られるのもいいかも」と、やたら艶のある声で言った。
とっさに一瞬で熱くなった耳を押さえる。
「おまっ!それやめろよ!」
壱哉は俺が耳が弱いのを分かっていて、わざとこういうことをするんだ。
いたずらが成功した子供みたいに「あははっ!」と笑う壱哉を見て、思わず俺も吹き出す。
「ほら、早く行こうぜ。マジで怒られる」
ということで、俺たちは校舎の外に向かった。

夏の名残りと、久しぶりの女子に興奮する野郎どもの熱気で、頭がクラクラしてきた。
プラカードを掲げて「1年1組、お化け屋敷やりまーす!ぜひ寄ってくださーい!」と叫びながら人々の間を練り歩く。
案の定、壱哉は女子から熱い視線を向けられている。
着物を直しておいて良かった。
「あっちーよぉ」
壱哉が眩しそうに目を細めて、快晴の空を見上げる。
「着物って暑いよな。それ、風通さない生地だし」
「そうだよ。それに、ナツに肌見せ禁止されちゃったし」
ニヤッと笑われたから、口を噤んで片頬を膨らませる。
「だって……嫌だし。イチはかっこよすぎるんだよ」
小さな声で呟くと、壱哉が「え?」と耳に手を当てた。
「いや、なんでもない!俺、ジュース買ってくる。イチはコーラでいいよな?」
踵を返し、逃げるように早歩きする。
「あ、ナツ!」
後ろから声だけが追いかけてきたけど、誰かに呼び止められたらしい。
チラッと後ろを振り返ると、他校の制服を着た3人組の女子が壱哉を囲んでいた。
ズキッとする胸を押さえながら、目をそらして前へ進む。
「はぁ」
勝手にため息が出た。
予備校で女子に腕を絡まれてるときも思ったけど、壱哉にはああいう選択肢もあったはずだよな。
『俺は隠したくない。ナツを好きだって堂々と言いたいし、ナツは俺のだって宣言したい』
あの夜、公園で壱哉が言ってたこと。
俺が女の子だったら、全部普通にできたことだ。
俺が女の子だったら、みんなに認められて、みんなにお祝いされたんだろう。
怖くて聞けないけど、あの日からの予備校はきっと、気まずい空気が流れてたんだろうな。
俺なんかに捕まっちゃって可哀想に。