こんなに甘いふ菓子を食べているのに、俺たちの間に流れる空気は苦くてしょっぱい。
「これマジやべぇー!うますぎ!しかも安くてデカい!」
「デカいっていうか、長いだよ、ゆう」
校外学習にきた俺たちは、1番の目的であるふ菓子を手に、ハイテンションとローテンションとに分かれていた。
ハイはかじはじコンビ、ローは俺と壱哉だ。
あの後からテスト週間が始まり、壱哉のデート問題については一旦忘れることにした。
といっても、俺が怒るのも変な話じゃないか?
俺たち、付き合ってるわけじゃないんだし、恋愛は自由だろう。
そう思い直し、できるだけいつも通りにしているはずが、気まずい空気は変わらない。
壱哉はそのことについて、言い訳すらしてこなかった。
それがどうしようもなく寂しくて、怖くてたまらない。
「なあなあ、お前らどうしちゃったん?なんか変じゃね?」
俺たちの間に流れる空気に気づいた鍛治原が、一切の遠慮なく切り込んできた。
日向は心配そうな顔で、なぜか俺に目配せする。
「ゆ、ゆうっ!直球すぎ!」
「だってさぁ、なっつんはピリピリしてるし、いっちーはなんか落ち込んでるし。今日はせっかくのエモなのに、お前らセンチじゃん」
エモとかセンチとか、なんの情緒もない言葉に変わり果ててるじゃねーか!
なんて、どうでもいいことを考えながら、チラッと壱哉を盗み見る。
そうか、こいつは落ち込んでいてこの態度なのか……
なんで?全然分からない。
「別に、ピリピリなんてしてないだろ。俺はいつも通りだけど。なぁ?イチ」
水を向けると、壱哉は一瞬だけ目を合わせて、ガックリと頭を垂れた。
「なんだろう。怒ってるのは嫌だけど、普通にされてるのもショックというか……」
小さな声でぶつぶつと言っている。
鍛治原は自分の耳に手を当てて、壱哉の小さな言葉を聞き取ると
「なんだよ!やっぱりケンカしてるんじゃん。早く仲直りしろよな。そんで、俺たちは4人で、おそろいの縁結びのお守りを買うんだからな。今日の最終目標はそれだから!」
と、当たり前のように言った。
日向が鍛治原の肩を掴んで、ガシガシと揺する。
「ゆう〜!縁結びのお守り、おそろいにしてる人ってあんまりいないんじゃ?」
「なんだよ、いいじゃんか!どうせならただのキーホルダーより、何らかのご利益があったほうがいいだろ?」
おい、鍛治原!
おそろいって……可愛いかよ!
「はぁ、だからって、なんで縁結び?」
日向が半分納得したように息をついて、真っ当な質問をすると
「効果絶大って有名らしいぜ!」
と、どこから仕入れた情報なのか、得意気に答える。
「まぁ、俺的には縁結びじゃなくてもいいけどな。学業成就とかでも…」
鍛治原が続けて言うと、サッと顔を上げた壱哉が、その声に被せるようにきっぱりと言い放った。
「いや、縁結びにしよう。絶対!」
お前はお前で乗り気かよ!
石畳の道をのんびり歩き、気になったお店にふらっと入る。
まんじゅうを食べたり、ソフトクリームを食べたり……
そんなふうにして12時を回るころ、どっと人が増えてきて、俺たちは流されるまま二手に分かれた。
「あー、離れちゃったな」
「うん……」
頷いたきり何も言おうとしない壱哉に、俺も言葉を失っていると、スマホがブブッと振動する。
「日向からだ。……2人ともちょっと先の土産物屋にいるって。イチ、俺らも行く?」
何も言わずにまた頷いて、俺たちは黙って歩き出した。
落ち込んでる……ねぇ。
そう言われてみれば、確かに壱哉はしょんぼりしているように見える。
デートのことがバレて、気まずいだけかと思ってけど、それにしては元気がない。
はーあ、だから俺には察するなんてできねーんだよ。
そこまで考えて、颯先輩とコーヒーを飲んでいた時の、壱哉の言葉を思い出す。
「口で言って、か」
この橋を渡れば土産物屋という時、俺は壱哉の手をグイッと引っ張って、人波から外れた。
「な、ナツ?!」
戸惑う声をよそに、理由も言わずグイグイと引っ張っていく。
たどり着いたのは、橋の下の河川敷だった。
ここには川を渡る船着場があるが、今は出航したばかりのようで、人がほとんどいない。
それにさっきの道からも死角になっているから、学校のやつらに見られる心配もないだろう。
そこでやっと壱哉の手を離して、正面からその目を捉えた。
「イチ、何か事情があるんだろ?ちゃんと聞くから、ちゃんと言えよ!」
「で、でも…」
「お前言ったよな?嬉しかったことも、嫌だったことも、言ってくれなきゃ分からないって。俺だって同じだから!」
壱哉はまだ躊躇っているようで、下唇を白くなるほど噛んでいる。
俺はため息をついて、先に話を切り出した。
「もしかして、辰己のこと?あのユメって子に、何か言われた?」
覗き込むように問いかけると、不安定に瞳を揺らして、自分の腕をさする。
やっぱりお前に隠しごとなんて向いてないんだよ。
1歩、その胸元に詰め寄って、目を細めたまま見上げた。
「それが言い訳しない理由?俺を守るため?……なあ、イチ。俺は大丈夫だよ。俺にはイチがいるから。……離れないで、ずっと傍にいてくれるんだろ?違うのか?」
壱哉はすかさず「違わない!!」と、俺の背中に腕を回してきつく抱きしめてくる。
「ナツが傷つくのが怖かった!俺の前からいなくなったらどうしようって……」
涙声で言う壱哉。
そんなに思われてたんだな、俺。
1度は突き放そうとした事実が、後悔となって押し寄せる。
「大丈夫だよ。俺はいなくならない。もう隠されたり、ごまかされたりするのは嫌だから、そう決めたんだ」
そう言い切って、ポンポンと安心させるように背中をたたくと、壱哉はゆっくり体を離して頷いた。
「……ユメに、俺たちが育高に行ってることがバレた」
ハッと息を呑む。
あじさいまつりで会ったときから覚悟はしていたつもりだけど、現実になるとやっぱりショックだった。
「ユメは、辰己がナツを探してることを知っていて……隠しておく代わりに、定期的に会ってほしいって言われたんだ」
俺の手をぎゅっと握る壱哉の両手は、子供みたいに小さく震えていた。
「ユメって子は、お前のこと、好きなのか?」
「……うん、卒業式の日に告白された。気になる子がいるからって断ったけど、まだ諦められないって言われて」
「そう、だったんだ。それで、デートしてたのかよ」
じとりと睨むと、壱哉は「俺はデートだなんて思ってない」と、いじけたように下を向く。
「お前、バカかよ!そんなん断われ!」
俺は少し遠くなったつむじに向かって、乱暴に怒鳴った。
ビクッとして視線を上げた壱哉が、拍子抜けしたようにパチパチと瞬きをする。
「で、でも!」
「イチは俺のことを守るって言うけど、俺だって守られてるばっかりの、か弱い男じゃねーんだよ。一方的なのは好きじゃねぇ。次からはちゃんと相談して、2人でどうするか決めるぞ!そうやって俺を守れよ!」
「ナツ……」
壱哉はいつの間にか顔を真っ赤にして、潤んだ目で俺を見つめていた。
「なんだよっ」
急に照れくさくなって、唇を尖らせる。
「すごいよ、ナツ。かっこよすぎ!俺の好きな子は、可愛くてかっこいい」
ふいに手が伸びてきて、ぎゅーっと力いっぱい抱きしめられて、今度は俺が顔を真っ赤にする番だった。
「これマジやべぇー!うますぎ!しかも安くてデカい!」
「デカいっていうか、長いだよ、ゆう」
校外学習にきた俺たちは、1番の目的であるふ菓子を手に、ハイテンションとローテンションとに分かれていた。
ハイはかじはじコンビ、ローは俺と壱哉だ。
あの後からテスト週間が始まり、壱哉のデート問題については一旦忘れることにした。
といっても、俺が怒るのも変な話じゃないか?
俺たち、付き合ってるわけじゃないんだし、恋愛は自由だろう。
そう思い直し、できるだけいつも通りにしているはずが、気まずい空気は変わらない。
壱哉はそのことについて、言い訳すらしてこなかった。
それがどうしようもなく寂しくて、怖くてたまらない。
「なあなあ、お前らどうしちゃったん?なんか変じゃね?」
俺たちの間に流れる空気に気づいた鍛治原が、一切の遠慮なく切り込んできた。
日向は心配そうな顔で、なぜか俺に目配せする。
「ゆ、ゆうっ!直球すぎ!」
「だってさぁ、なっつんはピリピリしてるし、いっちーはなんか落ち込んでるし。今日はせっかくのエモなのに、お前らセンチじゃん」
エモとかセンチとか、なんの情緒もない言葉に変わり果ててるじゃねーか!
なんて、どうでもいいことを考えながら、チラッと壱哉を盗み見る。
そうか、こいつは落ち込んでいてこの態度なのか……
なんで?全然分からない。
「別に、ピリピリなんてしてないだろ。俺はいつも通りだけど。なぁ?イチ」
水を向けると、壱哉は一瞬だけ目を合わせて、ガックリと頭を垂れた。
「なんだろう。怒ってるのは嫌だけど、普通にされてるのもショックというか……」
小さな声でぶつぶつと言っている。
鍛治原は自分の耳に手を当てて、壱哉の小さな言葉を聞き取ると
「なんだよ!やっぱりケンカしてるんじゃん。早く仲直りしろよな。そんで、俺たちは4人で、おそろいの縁結びのお守りを買うんだからな。今日の最終目標はそれだから!」
と、当たり前のように言った。
日向が鍛治原の肩を掴んで、ガシガシと揺する。
「ゆう〜!縁結びのお守り、おそろいにしてる人ってあんまりいないんじゃ?」
「なんだよ、いいじゃんか!どうせならただのキーホルダーより、何らかのご利益があったほうがいいだろ?」
おい、鍛治原!
おそろいって……可愛いかよ!
「はぁ、だからって、なんで縁結び?」
日向が半分納得したように息をついて、真っ当な質問をすると
「効果絶大って有名らしいぜ!」
と、どこから仕入れた情報なのか、得意気に答える。
「まぁ、俺的には縁結びじゃなくてもいいけどな。学業成就とかでも…」
鍛治原が続けて言うと、サッと顔を上げた壱哉が、その声に被せるようにきっぱりと言い放った。
「いや、縁結びにしよう。絶対!」
お前はお前で乗り気かよ!
石畳の道をのんびり歩き、気になったお店にふらっと入る。
まんじゅうを食べたり、ソフトクリームを食べたり……
そんなふうにして12時を回るころ、どっと人が増えてきて、俺たちは流されるまま二手に分かれた。
「あー、離れちゃったな」
「うん……」
頷いたきり何も言おうとしない壱哉に、俺も言葉を失っていると、スマホがブブッと振動する。
「日向からだ。……2人ともちょっと先の土産物屋にいるって。イチ、俺らも行く?」
何も言わずにまた頷いて、俺たちは黙って歩き出した。
落ち込んでる……ねぇ。
そう言われてみれば、確かに壱哉はしょんぼりしているように見える。
デートのことがバレて、気まずいだけかと思ってけど、それにしては元気がない。
はーあ、だから俺には察するなんてできねーんだよ。
そこまで考えて、颯先輩とコーヒーを飲んでいた時の、壱哉の言葉を思い出す。
「口で言って、か」
この橋を渡れば土産物屋という時、俺は壱哉の手をグイッと引っ張って、人波から外れた。
「な、ナツ?!」
戸惑う声をよそに、理由も言わずグイグイと引っ張っていく。
たどり着いたのは、橋の下の河川敷だった。
ここには川を渡る船着場があるが、今は出航したばかりのようで、人がほとんどいない。
それにさっきの道からも死角になっているから、学校のやつらに見られる心配もないだろう。
そこでやっと壱哉の手を離して、正面からその目を捉えた。
「イチ、何か事情があるんだろ?ちゃんと聞くから、ちゃんと言えよ!」
「で、でも…」
「お前言ったよな?嬉しかったことも、嫌だったことも、言ってくれなきゃ分からないって。俺だって同じだから!」
壱哉はまだ躊躇っているようで、下唇を白くなるほど噛んでいる。
俺はため息をついて、先に話を切り出した。
「もしかして、辰己のこと?あのユメって子に、何か言われた?」
覗き込むように問いかけると、不安定に瞳を揺らして、自分の腕をさする。
やっぱりお前に隠しごとなんて向いてないんだよ。
1歩、その胸元に詰め寄って、目を細めたまま見上げた。
「それが言い訳しない理由?俺を守るため?……なあ、イチ。俺は大丈夫だよ。俺にはイチがいるから。……離れないで、ずっと傍にいてくれるんだろ?違うのか?」
壱哉はすかさず「違わない!!」と、俺の背中に腕を回してきつく抱きしめてくる。
「ナツが傷つくのが怖かった!俺の前からいなくなったらどうしようって……」
涙声で言う壱哉。
そんなに思われてたんだな、俺。
1度は突き放そうとした事実が、後悔となって押し寄せる。
「大丈夫だよ。俺はいなくならない。もう隠されたり、ごまかされたりするのは嫌だから、そう決めたんだ」
そう言い切って、ポンポンと安心させるように背中をたたくと、壱哉はゆっくり体を離して頷いた。
「……ユメに、俺たちが育高に行ってることがバレた」
ハッと息を呑む。
あじさいまつりで会ったときから覚悟はしていたつもりだけど、現実になるとやっぱりショックだった。
「ユメは、辰己がナツを探してることを知っていて……隠しておく代わりに、定期的に会ってほしいって言われたんだ」
俺の手をぎゅっと握る壱哉の両手は、子供みたいに小さく震えていた。
「ユメって子は、お前のこと、好きなのか?」
「……うん、卒業式の日に告白された。気になる子がいるからって断ったけど、まだ諦められないって言われて」
「そう、だったんだ。それで、デートしてたのかよ」
じとりと睨むと、壱哉は「俺はデートだなんて思ってない」と、いじけたように下を向く。
「お前、バカかよ!そんなん断われ!」
俺は少し遠くなったつむじに向かって、乱暴に怒鳴った。
ビクッとして視線を上げた壱哉が、拍子抜けしたようにパチパチと瞬きをする。
「で、でも!」
「イチは俺のことを守るって言うけど、俺だって守られてるばっかりの、か弱い男じゃねーんだよ。一方的なのは好きじゃねぇ。次からはちゃんと相談して、2人でどうするか決めるぞ!そうやって俺を守れよ!」
「ナツ……」
壱哉はいつの間にか顔を真っ赤にして、潤んだ目で俺を見つめていた。
「なんだよっ」
急に照れくさくなって、唇を尖らせる。
「すごいよ、ナツ。かっこよすぎ!俺の好きな子は、可愛くてかっこいい」
ふいに手が伸びてきて、ぎゅーっと力いっぱい抱きしめられて、今度は俺が顔を真っ赤にする番だった。


