小学5年生の冬。
放課後、今にも降り出しそうな空の下。
校舎裏に俺を呼び出した辰己は、震える声で「夏太郎が好きなんだ!オレと付き合ってほしい!」と言った。
青天の霹靂だった。
辰己とは幼稚園から友達だったけど、小学校に上がってからは、少しうざがられてると思っていたから。
早く返事をしなくては、俺は焦った。
「えっと……その、辰己のこと、そういう風に考えたことなくて。あっ、もちろん気持ちはすごく嬉しいよ。でも………」
ごめん、と言おうとした時、辰己がニヤッとした。
「お前、キモすぎ!何、真剣に答えてんの?」
そう言って、声を上げて笑い出す。
その声を合図に、隠れていた取り巻きの2人が、スマホのレンズを俺に向けながら現れた。
「こいつ、マジで本気にした? 同性に告白されて喜んでんじゃねぇよ!」
「罰ゲームだよ!負けたやつが夏太郎に告白するってやつ!」
その言葉がすぐに飲み込めず、呆然と立ちつくす。
「……罰ゲーム?……嘘だったの?」
ショックだった。
怒りや悔しさよりも、胸が引き裂かれるような悲しみが襲ってきて、拳を握りしめた。
人が人を思う気持ちを、こんなふうに自分たちの快楽のために利用するなんて。
「嘘に決まってるじゃん!あれ?もしかして泣いてる?」
辰己が大げさに笑いながら俺を指差した。
「辰己ぃ、かわいそうだから付き合ってやれば?」
「キスしろよ!キース!キース!」
取り巻きたちに囃し立てられた辰己は、彼らに応えるように片手を上げながら近づいてくる。
逃げることもできず固まっている俺の肩を掴んだかと思うと、ちょんと唇同士を触れさせた。
「うわ〜!こいつらホントにやった!」
「やべ〜超ウケる!」
次の瞬間、辰己は体をくの字に曲げ、「おぇ〜!」と吐く真似をして、また笑いを誘う。
俺は何も言えず、ただその姿を睨みつけることしかできない。
あいつらがいなくなった後も、その場から動けずにいた俺の顔に、ぽつりと雨粒が当たって暗い空を見上げた。
どんどん雨が降ればいい。
そうすれば、とめどなく頬を流れる涙をなかったことにしてくれるから。
俺と辰己がキスした一瞬が切り取られ、学校の掲示板に貼られた。
辰己の顔にはモザイクがかけられたけど、俺の顔はそのまま。
彼らが撮影した動画は、証拠として都合よく編集され、拡散された。
最初は俺をかばってくれていた友達もすぐに離れていった。
「気持ち悪い」と罵られ、男子トイレを使わせてもらえず、体育の着替えも教室から追い出される。
俺の話を聞くやつなんて1人もいない。
誰も来ない旧校舎が、休み時間の俺の居場所になった。
それは小学校を卒業するまで続いて……だから俺は、こんなところから早く逃げたかったんだ。
放課後、今にも降り出しそうな空の下。
校舎裏に俺を呼び出した辰己は、震える声で「夏太郎が好きなんだ!オレと付き合ってほしい!」と言った。
青天の霹靂だった。
辰己とは幼稚園から友達だったけど、小学校に上がってからは、少しうざがられてると思っていたから。
早く返事をしなくては、俺は焦った。
「えっと……その、辰己のこと、そういう風に考えたことなくて。あっ、もちろん気持ちはすごく嬉しいよ。でも………」
ごめん、と言おうとした時、辰己がニヤッとした。
「お前、キモすぎ!何、真剣に答えてんの?」
そう言って、声を上げて笑い出す。
その声を合図に、隠れていた取り巻きの2人が、スマホのレンズを俺に向けながら現れた。
「こいつ、マジで本気にした? 同性に告白されて喜んでんじゃねぇよ!」
「罰ゲームだよ!負けたやつが夏太郎に告白するってやつ!」
その言葉がすぐに飲み込めず、呆然と立ちつくす。
「……罰ゲーム?……嘘だったの?」
ショックだった。
怒りや悔しさよりも、胸が引き裂かれるような悲しみが襲ってきて、拳を握りしめた。
人が人を思う気持ちを、こんなふうに自分たちの快楽のために利用するなんて。
「嘘に決まってるじゃん!あれ?もしかして泣いてる?」
辰己が大げさに笑いながら俺を指差した。
「辰己ぃ、かわいそうだから付き合ってやれば?」
「キスしろよ!キース!キース!」
取り巻きたちに囃し立てられた辰己は、彼らに応えるように片手を上げながら近づいてくる。
逃げることもできず固まっている俺の肩を掴んだかと思うと、ちょんと唇同士を触れさせた。
「うわ〜!こいつらホントにやった!」
「やべ〜超ウケる!」
次の瞬間、辰己は体をくの字に曲げ、「おぇ〜!」と吐く真似をして、また笑いを誘う。
俺は何も言えず、ただその姿を睨みつけることしかできない。
あいつらがいなくなった後も、その場から動けずにいた俺の顔に、ぽつりと雨粒が当たって暗い空を見上げた。
どんどん雨が降ればいい。
そうすれば、とめどなく頬を流れる涙をなかったことにしてくれるから。
俺と辰己がキスした一瞬が切り取られ、学校の掲示板に貼られた。
辰己の顔にはモザイクがかけられたけど、俺の顔はそのまま。
彼らが撮影した動画は、証拠として都合よく編集され、拡散された。
最初は俺をかばってくれていた友達もすぐに離れていった。
「気持ち悪い」と罵られ、男子トイレを使わせてもらえず、体育の着替えも教室から追い出される。
俺の話を聞くやつなんて1人もいない。
誰も来ない旧校舎が、休み時間の俺の居場所になった。
それは小学校を卒業するまで続いて……だから俺は、こんなところから早く逃げたかったんだ。


