店を出ると、冬の夜風が胃袋を優しく撫でた。
冷気の中で、腹の奥だけがぽかぽかと熱を帯びている。
満腹の幸福と、ちょっとした罪悪感。
ああでも──おいしかった……。
魔王を倒し世界を救う使命があるはずなのに、俺はこのために生まれてきた気がする。
なんて呟いたら、神官に説教を食らいそうだ。
ふぅ、と息をついたその時。
「──あれ? 勇者さん⁉︎」
う──。しまった……。
路地の入口から、見覚えのあるシルエットが手を振っている。
新入りの戦士だった。
わんこみたいに目を輝かせ、こっちに駆け寄ってくる。
「やっぱりここでしたか! 神官さんが、きっとこの辺をフラフラしてるだろうって」
「……お、おう」
まじか。情報共有早すぎる。
「宴、もう終わりましたよ。みんないつものことって言ってましたけど、心配で……迎えに来たんです」
その言葉に、胸の奥がちくりとした。
自分の歓迎会の最中に抜け出したのに、この笑顔だ。
怒るでも呆れるでもなく、ただ心配そうに。
「わ……わるかった」
いつものこと。と言ってしまえばそうなのだが、罪悪感が遅れて押し寄せてくる。
「俺……その、気がついたらふらっと消えるっていうか。こういうところあるから、……幻滅した、だろ」
戦士は一瞬だけきょとんとした顔をして、それから首を傾げた。
「え? なんでです?」
拍子抜けするほどあっけらかんとした声だった。
俺が言葉を探している間に、戦士は肩をすくめて笑う。
「ああでも一個だけ言わせてもらいたいです!」
「うっ、ナンデショウカ」
「勇者さん! 強いのは分かってますけど、護衛もつけずに無防備すぎですよ〜! せめて居場所くらい教えてからいなくなってくださいね!」
こ、抗議するとこそこなんだ。
戦士は呆れたように後頭部を掻き、それからふと屋台の匂いに気づいたように鼻をひくつかせた。
「うわっ、なんか、るぁーめんっぽい匂い! これ、背脂の香りですか?」
「ち、ちが。……いや、違わないけど」
「やっぱり! 僕も好きなんですよ!」
え、まさかの同族……?
「今日は、どんなるぁーめんを食べてきたんですか?」
俺はしばらく固まり、視線を斜め下にやる。
「な、なんというか。……つ……罪、って感じの味のやつ」
「え?」
「背徳と幸福の……混沌……みたいな」
「なにそれ怖ッ!」
ひゃはは、と腹を抱え無邪気に笑う戦士。
その笑顔が眩しすぎて、胃よりも胸がいっぱいになる。
「その店今度、僕も行きたいです! よかったら一緒に!」
目を輝かせながら言われ、思わず言葉に詰まる。
この純粋感。拒否れない。
「……ま、まあ。気が向いたら……」
「ほんとですか⁉︎ 絶対ですよ!」
歓声が冬の夜空に響いた。
王都の灯が遠くで瞬く。
胃袋の底で、まだ温かいスープの余韻に浸りながら──「さあ、帰りましょう」と朗らかに笑う戦士に、小さく頷いて俺は歩調を合わせた。
冷気の中で、腹の奥だけがぽかぽかと熱を帯びている。
満腹の幸福と、ちょっとした罪悪感。
ああでも──おいしかった……。
魔王を倒し世界を救う使命があるはずなのに、俺はこのために生まれてきた気がする。
なんて呟いたら、神官に説教を食らいそうだ。
ふぅ、と息をついたその時。
「──あれ? 勇者さん⁉︎」
う──。しまった……。
路地の入口から、見覚えのあるシルエットが手を振っている。
新入りの戦士だった。
わんこみたいに目を輝かせ、こっちに駆け寄ってくる。
「やっぱりここでしたか! 神官さんが、きっとこの辺をフラフラしてるだろうって」
「……お、おう」
まじか。情報共有早すぎる。
「宴、もう終わりましたよ。みんないつものことって言ってましたけど、心配で……迎えに来たんです」
その言葉に、胸の奥がちくりとした。
自分の歓迎会の最中に抜け出したのに、この笑顔だ。
怒るでも呆れるでもなく、ただ心配そうに。
「わ……わるかった」
いつものこと。と言ってしまえばそうなのだが、罪悪感が遅れて押し寄せてくる。
「俺……その、気がついたらふらっと消えるっていうか。こういうところあるから、……幻滅した、だろ」
戦士は一瞬だけきょとんとした顔をして、それから首を傾げた。
「え? なんでです?」
拍子抜けするほどあっけらかんとした声だった。
俺が言葉を探している間に、戦士は肩をすくめて笑う。
「ああでも一個だけ言わせてもらいたいです!」
「うっ、ナンデショウカ」
「勇者さん! 強いのは分かってますけど、護衛もつけずに無防備すぎですよ〜! せめて居場所くらい教えてからいなくなってくださいね!」
こ、抗議するとこそこなんだ。
戦士は呆れたように後頭部を掻き、それからふと屋台の匂いに気づいたように鼻をひくつかせた。
「うわっ、なんか、るぁーめんっぽい匂い! これ、背脂の香りですか?」
「ち、ちが。……いや、違わないけど」
「やっぱり! 僕も好きなんですよ!」
え、まさかの同族……?
「今日は、どんなるぁーめんを食べてきたんですか?」
俺はしばらく固まり、視線を斜め下にやる。
「な、なんというか。……つ……罪、って感じの味のやつ」
「え?」
「背徳と幸福の……混沌……みたいな」
「なにそれ怖ッ!」
ひゃはは、と腹を抱え無邪気に笑う戦士。
その笑顔が眩しすぎて、胃よりも胸がいっぱいになる。
「その店今度、僕も行きたいです! よかったら一緒に!」
目を輝かせながら言われ、思わず言葉に詰まる。
この純粋感。拒否れない。
「……ま、まあ。気が向いたら……」
「ほんとですか⁉︎ 絶対ですよ!」
歓声が冬の夜空に響いた。
王都の灯が遠くで瞬く。
胃袋の底で、まだ温かいスープの余韻に浸りながら──「さあ、帰りましょう」と朗らかに笑う戦士に、小さく頷いて俺は歩調を合わせた。

