人見知り勇者さんは、今日もどこかでぼっち飯。

「──ぶぇっくしょんッッッ‼︎」

 盛大なくしゃみが宿屋の一室に響いた。
 頭が……割れそうに痛い……。
 鼻水は洪水のごとく、喉奥は熱を持ち腫れ上がっている。
 毛布の中で震えながら、俺は枕元の冷えた水のビンを手探りで掴んだ。

 新たな神精霊との契約を果たす航路の旅。その終盤、海の死神──キングクラーケンとの戦いは、まさに死闘だった。

 甲板から海に投げ出され、救い上げられ、蘇生され、久々に生死の境を彷徨(さまよ)った。
 そのツケが一気に来たのか、王都に戻った瞬間、俺は盛大にダウン。ベッドの上で熱にうなされながら、ぼんやりと天井を眺める日が三日ほど続き今に至る。

 仲間たちは交代で見舞いに来てくれたが、中でも神官だけは妙に静かで、視線を合わせる前に逸らし、薬草を煎じて俺に飲ませると足早に出ていく。

 理由は──なんとなくだけど、クラーケン戦のあれかな、と思う。

 あの時、俺が神官を庇って海に引きずり込まれた。

 彼女は今もそれを気にしてるんだろう。自分のせいで俺が倒れたと思っている……そんな気がする。

 何をそんな、と言いたいが、この頭では気の利いた言葉が思いつかない。熱でぼんやりした頭じゃ、うまく聞ける自信もない。

 あんなに取り乱して泣きじゃくった神官を見るのは初めてだった。

 銀色のまつ毛を涙で濡らしたあの顔が、頭の片隅に焼きついて離れない。ベッドに横になっていると、余計に胸の奥がざわついた。

「なあ……神官さ、最近元気ないよな」

 昼頃、戦士が見舞いに来たとき、俺は布団の中から声を出した。

「戦士、頼む。神官をうまく元気づけてやってくれないか」

 こういう時は、いつだって天真爛漫(てんしんらんまん)な戦士が適任だ。
 人任せは気が引けるが、戦士ならきっとうまく立ち回ってくれるだろう。そういう安心感がある。

 俺が声をかけると、戦士は目を見張って嬉しそうに胸を叩いた。

「任せてください勇者さん!」

 見えないはずの尻尾がブンブン振れてる。
 よし……これで安心だ。そう思って目を閉じ、一眠りした──その後だった。

 俺の目の前には、小ぶりな土鍋が五つ。

 部屋の中はいつの間にか出汁と生姜の香りで満たされ、テーブルに並べられたその圧に、弱った体が強張(こわば)る。
 
 いやいやいやいや、なんだこれ。
 どうしてこうなった──!
 部屋に戻ってきた戦士がお盆の上のそれらをテーブルに移しながら説明した。

「みんなで話し合ったんです! 勇者さんを元気づけるには、やっぱり“食”だろうって! それで、“誰の料理が一番勇者さんを元気にできるか”ってことで──第一回、お粥グランプリ、開催です!」

 お……おおお粥グランプリ?
 戦士君……ちょっと待って、元気付けるの俺じゃなくて、神官の方……。

「いやあ、たまにはこういうのも面白いかなって思って、食堂借りたんですけど盛り上がっちゃいました! 神官も参加してくれました! 良い気分転換になるかと思って!」

 うわああ〜そういう方向できたかあ。

 気分転換はいいけど、これ、こんな、どうすればいいんだ。

 合同で一つの料理を作らず、別々に作って食わせようとするあたり、暇を持て余したパーティメンバーの悪ノリ具合が(うかが)える。

 なんだこの唐突なイベント。病人には荷が重いぞ。

「量も少なめに作ったんで、どうぞご堪能あれです!」
「ご堪能って……あ、あー、戦士ちょっと、戦士──ちょ……ああああ」

 行ってしまった……。
 
 しばらく固まったあと、ほこほこと蓋の穴から湯気を昇らせる土鍋の群れに向き直る。

 まじか……。