人見知り勇者さんは、今日もどこかでぼっち飯。

肌を叩く雨の感触で、ゆっくりと現実に戻った。

「……息してる! 神官、もう一度!」

 裏返った魔法使いの声。
 神官の両手が俺の胸に当てられ、蘇生の光が脈動する。

「……っ、かは……ぁっ!」

 肺に熱が流れ込み、喉奥から塩辛さが競り上がる。

 ぼやける視界。水浸しの甲板。キングクラーケンの遺した触手の残骸。

 俺を覗き込む仲間たちは、皆一様に引きつった顔をしていた。

「みん、な……、」

 掠れた声をようやく出すと、泣きじゃくりながら神官が胸に縋ってきた。

「ごめんなさい……っ、私を庇って……私のせいで……っ!」

「引き上げた時には、勇者が息してなくて……! 神官がずっと蘇生を続けていたけど、全然反応なくて、っ……! もう、どれだけ心配したと思ってんのよ!」

「こんの馬鹿‼︎ 本当にくたばるかと思っただろ‼︎」

「勇者さん……! 良かった、ほんとうに、ほんとうにッ」

 珍しく涙ぐむ戦士に肩を強く掴まれ、弓使いに頭を叩かれる。

 武闘家は安堵(あんど)のため息をつき、魔法使いは袖で目元を拭った。

「……おかえりなさい、勇者さん。おかえりなさい。おかえりなさい……‼︎」

 震える声で何度も、確かめるように繰り返す神官。
 雨と涙が頬を伝い、もう区別もつかない。

 そんな、らしくない彼女を元気づけたい一心で、冷えた手に手を重ねる。

「ただいま」

 短く返すと、神官は泣き腫らした碧い瞳を細めて微笑んだ。

 翌日。
 雲ひとつない快晴。

 俺は船縁(ふなべり)に肘をかけ、ゆるゆるとストレッチをしながら皆を見回す。

 戦士は槍の先を布で磨き、弓使いは(つる)の張りを確かめ、魔法使いは遠くを眺めながら鼻歌、武闘家は壊れた甲板の修理を手伝っている。

 神官は薬草の袋を仕分けながら、時々こちらをちらりと見る。
 目が合うと、慌てて視線を逸らす。耳まで赤い。
 何も言わない。俺も、何も言わない。

 そこで腹の虫がくう、と鳴る。
 みんなが一斉にこちらを見る。
 俺は咳払いをひとつ。

「あー……その。一つ提案が。王都に着いたら、みんなでイカ料理食べないか」

 重い沈黙。

「それはダジャレですか?」
「何言ってんの」
「イカに殺されかけたくせに」
「当分見たくないです……」
「やめとけ」

「いや、夢で食べたキングクラーケン……案外うまくて」

 などと口にすれば、四方から拳骨(げんこつ)、ツッコミ、手刀(しゅとう)、ため息が飛んできた。
 最後の戦士のデコピンが地味に痛い。

「だったら、代わりに……王都に戻ったら、温かいものを。できれば、みんなで」

 神官が手を止め、わずかに目を逸らして応える。

「それなら、考えてあげなくもないです」

 ああ。
 やっと、あるべき場所に戻れた気がした。
 俺は頷いて、背筋を伸ばす。

 空は高く、船はゆっくりと進んでいた。