人見知り勇者さんは、今日もどこかでぼっち飯。

俺はさらに視線を逸らし、語尾を濁す。

「だから……あの、バーベキューしたいんです」

 二体は同時に眉をひそめた。

『つ、つまり……わたくしたちを使って料理をする。ということで?』

 困惑気味に口にするウンディーネ。

 全く間違ってないので苦しげに俺は首を縦にする。
 どんな感情を出すべきか迷っている表情でイフリートも続く。

神精霊(しんせいれい)で食事の準備をしようとした契約者はお前が初めてだぞ』

 ですよねえ──。

「……ごめん。非常時なんだ。今回だけだから、頼む。ほんとに、このとおり──!」

 頭の上で手を合わせ懇願する。炎の巨人と水の女神が顔を見合わせる。
 短い沈黙の後、イフリートが心底呆れた様子で額に手を当てた。

『まったく……呼び出して何を願うかと思えば、嘆かわしい』
『ま……まあまあ、主様(あるじさま)は我々の神の試練を突破された御方(おかた)。これしきの願い、叶えて差し上げるのも契約精霊の務めではありませんこと?』

 ウンディーネに諭されイフリートは唸り、渋々口を開く。

『……非常に不本意ではあるが、仕方あるまい。今回は特例だぞ。我の炎で腹を満たすこと、光栄に思えよ』
『わたくしも手を貸します。主様が無事でいらっしゃるなら、それが一番ですもの』

 うう……っ。契約前はあんなにおっかなかったのに、この神精霊たち、ほんと頼りになる。

 聖剣の刃が夕陽に反射して白く輝きを放つ。

「……聖剣こんな使い方していいのか……まあいいか。非常時、非常時」

 腹を括って、キングクラーケンの脚を切り分ける。

 歴代の勇者も真っ青。神聖な剣が完全に万能包丁だ。

 分厚い肉が驚くほど素直に刃を通すが、同時に強烈な悪臭が立ちのぼった。

『主様、お任せを──』

 ウンディーネの透明な水が宙を舞い、切り分けた脚を包み込むと、嘘のように臭みが消えていく。

『魔物の肉を清めました。これで“食べもの”になりましたね』
「ありがとう。ウンディーネ」

 続いて魚の腹を開いて骨を外し、潮貝(しおがい)を並べ、土竜芋(もぐらいも)は湿った葉に包む。

『勇者、火加減は我に任せよ。見事な炎を見せてやろう』

 イフリートが指を鳴らすと、砂浜の上に炎の輪が浮かび炉の形を作る。

 採取した食材とメインのクラーケンの肉を木の枝の串で刺し、俺は炎の上に並べた。

 サバイバルバーベキューの始まりである。

 イフリートの炎が串の全体を絶妙な火加減で包み。煙がふつふつ立ちのぼる。

 串を返すたび、肉の表面が持ち上がってカリッとした焦げ目がつき。貝はぱかぱかと歌うように開いていく。

『そろそろよいのではないか』
『主様。焼きすぎては良くないです』

 両サイドから言われ、用意していた果実と香草をすり潰したソースに串を浸して、もう一度表面を軽く(あぶ)り、照り輝くそれを持ち上げる。

 ふわあと、腹の底を慰めるような香り。
 ごくりと溜まった唾を飲み下す。
 ではでは……。

「神精霊様に感謝して──いただきます」

 口に運び、そっと歯を立てた瞬間──中からじゅわあと肉汁が溢れ出す。
 魚介類の味じゃない。
 これは────肉だ。
 海の底で育った“獣の肉”。

 神の炎と清水の恩恵(おんけい)を受けた深海の旨味が、怒涛の大波となって舌を飲み込む。

「うっまぁあ……‼︎」

 思わず漏れ出す(とろ)けた声。

 流石キング級。
 噛むたびに革命的な美味さが口の中に広がる。

 なんだこれ。牛でも豚でも、鶏でも羊でもないけど。このジューシーさ、確かに肉──。
 帝都の宴のご馳走をも超えそうな味──。

 調理器具も調味料も全てにおいて足りないというのに。
 炙っただけで、こんなに体に染み渡るなんて。

 ずっと空腹だったからだろうか。こんなに美味いものがあったなんてと、全身が感動に打ち震えている。

 火の近くで蒸し焼きにしていた土竜芋の蒸しポテトもホクホクとして甘く。

 熱い潮貝の汁はあっさりスープとなって喉を潤す。

 芋、魚、きのこ、貝、そしてクラーケン。
 ひとつずつ、食材に祈るように順番に頬張る。
 ゆっくり噛んで、慌てる胃袋を(なだ)めるように飲み込んでいく。

 (かて)だ。調達した食材の全てが今、五感を通して命となっていく感覚。

 気づけば、皿代わりの貝殻も串も空。
 腹も心も、すっかり満たされた。