人見知り勇者さんは、今日もどこかでぼっち飯。

心の声をきっかけに、胸の奥で張りつめていた理性の(かせ)が、バキバキと音を立てて外れていく。

 極限状態でおかしくなったのか。
 それとも、こういう状況に妙な興奮を覚えるのか。
 はたまた、そのどちらもか。

 どばどば溢れる高揚感を抑えきれず、俺は変な方向に前向きになる。

「よし。まずは、サバイバル飯だな……」

 腹が減ってはなんとやら。
 それに救難信号を出すにも火起こしは不可欠。
 火を起こせば、同時に食事も摂れる。一石二鳥だ。

 けして、
 けして、けして──“サバイバル飯をやってみたかった”とか、そういうことじゃない。

 俺は乾いて燃やせそうな漂流物を拾い集める。
 それから火を起こす前に、食材の確保だ。

 空腹に従うままに、俺は早速森の方へと足を踏み入れた。

 散策してしばらく、木陰に小さなキノコの群れを発見。
 大陸にも自生している、食べられる種類のものだ。

 さらに進むと、桃色の果実を実らせた低木が目に入る。
 王都でも見かける品種。もぎ取ってかじると、ほどよい甘さと酸味。問題なし。

 岩肌の露出した斜面では、見覚えのある茎の根を掘り返す。

 乾いた土の奥から、ゾロゾロと“土竜芋(もぐらいも)”が顔を出した。

 ぽってりとした土竜のような見た目だが、こいつは煮ても焼いても美味く食える。

 俺の故郷の畑でも育てていた根菜だ。
 いいぞ、採取採取。

 抱えられる分だけの森の恵みを持って海辺に戻ると、今度は浅瀬に目を向ける。

 木の枝を槍代わりに突くと、銀色の影が跳ねる。
 魚だ。しかも結構な数がいる。

 さらに足もと──砂の下に、手のひらほどの“潮貝(しおがい)”がいくつも潜んでいた。

「……食材の宝庫か、この島」 

 ──後は。

 俺は振り返り、腕を組む。
 視線の先には、砂浜に放置していたキングクラーケンの脚。

 神官の故郷、東方の小さな島国では、クラーケンを(さば)いて酢飯の上に乗せる“スッシー”という料理があるらしい。

 となれば、キングだって食すことは可能なはずだ。

 ここまでで、俺のタガは完全に外れていた。
 もう誰もこの冒険を止めることはできない。

 問題は、調理手段──火と水。
 この二つさえあれば、どこでだって飯は作れる。

「……仕方ない」

 腰に手を当て、軽く息を吸う。

「──イフリート。ウンディーネ。ちょっと来てくれ」

 砂浜に紅と藍の魔法陣が同時に浮かび、轟音とともに、熱風と水流がぶつかり合った。

 まず現れたのは、燃え盛る業火(ごうか)の魔人──イフリート。
 全身に(まと)う炎が竜巻のように唸り、周囲の空気を焦がす。

『呼んだな、勇者。次は誰を消し炭にするのだ』

 物騒な第一声。
 それに続いて、水の膜が静かに揺らぎ、しとやかな女性の姿が現れる。

 透き通るような薄青の髪と穏やかな瞳。ウンディーネだ。

『召喚に応じ、()せ参じました主様(あるじさま)。どのようなお望みを叶えましょう?』

 言いにくい。だが、言わねば始まらない。

「えっと……その……バーベキューするから、ちょっと手伝ってもらっていい?」

 二体の神精霊は同時に固まる。
 そして、まるで打ち合わせたかのように声を揃えた。

『『なんと?』』