人見知り勇者さんは、今日もどこかでぼっち飯。

 宿の廊下。角を曲がったところで、弓使いと魔法使いがばったり鉢合(はちあ)わせるのを丁度(ちょうど)発見した。

 互いに、ほんの(まばた)きほどの間の後に目を()らし、足が止まる。昨晩(さくばん)の気まずさが、明らかに尾を引いている。

 (きびす)を返す弓使い、寂しそうに表情を歪ませ(うつむ)く魔法使い。

 ああ、だめだ。見てられない。俺は無言で、去ろうとする弓使いの肩を(つか)んでくるりと方向転換させる。

「ちょ、なにすん」

 文句を言われる前に、俺は紙袋を二つ魔法使いの手に(にぎ)らせた。

「……はい、朝飯」
「え」
「港の名物だって。一緒に入ってるレモンペッパーの揚げ芋もなかなかうまいぞ」

 二人は紙袋を受け取って、ちらと顔を見合わせる。まだ雰囲気がぎこちないな。もうひと押しするか。

「屋上のテラス、日が当たってる。海も見えるし、風が気持ちいいぞ。いいから、ゆっくり食べてこい」

 こういうの、ほんと柄じゃない。
 どちらかというと、戦士か神官(あた)りがスマートにこなすポジション。

「うわあ。柄にもないことしてんなあ」
「ほんと、無理してる感ありあり」

 正面からの的確な突っ込み。あ〜、もう。喧嘩してるくせに、なんなの君たち。
 ともあれ、そのタイミングでお互いの空気が(ゆる)んだのか、二人は小さく笑い合う。

 提案通り、並んで屋上への階段を上がっていくのを見届(みとど)けて、しばし耳を()ます。言い合いにはなっていないようでホッとする。

「美味しい……」
「勇者のくせに小洒落(こじゃれ)たもん選んでくるの笑える」
「そういうこと言ったらダメでしょ」
「いや、実際そう思うっしょ」
「そうだけど……あは」
「揚げ芋うめえ。これ無限(むげん)に食える」
「ほんと、これもすっごく美味しい」

 いまいち()に落ちない会話をしているが。これ以上聞き耳立てるのはヤボだ。多分きっと大丈夫だろう。テイクアウト、いい橋渡しになったかな。

 そう思い、船出の準備をすべく部屋に戻った。その数時間後──事態が急変するとも思わずに。

 昼時(ひるどき)──。宿屋の食堂で神官が水の入ったグラスを運び、戦士はやたら元気に皿を並べている。
 俺と武闘家は荷物の最終確認を終えて席に着いた。

 そこで──弓使いと魔法使いが、並んで立ち上がる。並んで、だ。朝よりも、なんでか距離が近い。

「あー……その、昨日はお騒がせしました」
「ほんと、ごめんなさい」

 神官が、ほっとした顔で微笑(ほほえ)む。

「やっと話せたんですね」

 戦士が胸を()で下ろす。

「いやー、見ててどうなることかと」

 武闘家は腕を組んで(うなず)く。

「仲直りできてなにより」

 そこで、二人が目を合わせる。
 息を合わせるみたいに、同時に口を開いた。

「それで……報告があります」
「実は……」

 は? なに……。

「……前からお互い、気になってて」
「その……」

 え。

「魔王を倒す道のりの途中ですが、正式にお付き合いさせて(いただ)くことにしました」

 ………………え?
 ちょ、

 え⁉︎

 神官は目を細め、戦士は親指を立て、武闘家は肩を()らす。

「やっとですか」
「うんうん」
「めでたい」

 え。ちょ、ま、みんな、
 なにその反応。
 知ってましたみたいな。

 えっ、
 えっ、えええええええええ──⁉︎

 だって昨日まで言い合って、というかその前から色々と──。

 おつ。お付き合い──⁉︎

「勇者さん。結構にぶいんですね。あれはどう見たってそういうのじゃないですか」
「僕でも気づいてましたよ、いやあ、若いっていいなあ」

 神官と戦士に言われて、困惑(こんわく)する。
 全く気づかんかったわ。

「わたしたち、人間とエルフだから、時間の流れや価値観が違って、それが怖くてお互いを遠ざけていたけど。勇者のおかげでもっと歩み寄らなきゃって思ったの。これからは恐れずに歩み寄っていくよ」

 魔法使いが照れくさそうにする横で、弓使いが「アシストサンキューな」と軽く言うもんだから、お付き合いは良いけど、仲良くしてくれよと一瞬胃がキリッとする。

 完全に想定外。……まいったな。恋愛はさすがに守備範囲外だ。

 結果オーライ。とはいえ、

 俺は具材(パーティ)を(まと)めあげる、バゲット(リーダー)としてはまだまだ未熟らしいと痛感するのだった。