弓使いと魔法使い、あれはどうしたもんか……。
きっかけは、次のウンディーネ戦の作戦会議だった。
ウンディーネは、四柱の神精霊の中でも最も穏やかな性格──だが、
一度戦闘になれば、イフリート以上に苛烈な攻撃を繰り出すと古文書には記されている。
俺、戦士、武闘家の前衛は攻撃に集中。後衛の神官と魔法使いが援護。中衛の弓使いが「自分が囮になる」と言い出した。
確かに理屈は通っていた。
だが、弓使いの体には、まだ北方戦線での傷が残っている。
一人で囮は無謀だ──そう誰もが思った。
それでも弓使いは楽観的に笑って「大丈夫だ」と言い張った。
俺も反対したが、食い下がる彼の勢いに押され気味だった。
「前回のイフリート戦を思い出せよ。あんな泥沼もう御免だろ? 囮役がいなきゃ、また同じことになる。逃げ足ならオレが一番速いかんな」
確かに一理はある。しかし、
「大丈夫だって! みんなが思うようなヘマはしねえよ! それに、最悪オレがダメになったとて、代わりなんかいくらでも──」
その瞬間。
乾いた音が宿の一室に響いた。
魔法使いが、顔を真っ赤にして弓使いの頬を打ったのだ。
「勝手なことばっかり言って! そんなの絶対許さない! 命を粗末にしないでよ‼︎」
うわあ……やばい。
と思ったのも束の間。
ヘラヘラしていた弓使いも目つきを変え、魔法使いに食ってかかった。
そこからはもう怒涛の言い合い。
会議どころではなかった。
結局、俺と戦士で二人を引き離し、年長者の武闘家の喝と、神官の宥めでその場は収まったが……。
よくない流れだ。
バゲットサンドを齧りながら、俺は眉間に皺を寄せた。
なにかとお調子者で楽天的な弓使いと、知的で慎重派な魔法使いは、意見が合わずこれまでも衝突することが何度かあった。
だが言い分は、どちらもいつも正しい。二人とも元を正せばパーティのためになるようにと動いてくれている。
だからこそ、ああいうふうになるのは心苦しい。
あの二人。おそらくまだ仲直りはしていない。昨日のは特に派手だったからな。
大丈夫だろうか、これがきっかけで居づらくなってパーティを脱退なんてこと……考えすぎか。
いや、これがあながち無い話でもない。
実際、勇者に成り立ての一年目は、えげつないほど色んなことがあった。
負傷して抜けた者。戦いを恐れ抜けた者。各々理由は様々だったが、俺が未熟なばっかりに人間関係に悩んで去っていった者もいる。
中には面と向かって「お前とは合わない」と言われ、抜けられたこともあったっけ……。ああ、思い返すと胃が痛くなりそう。
そんなふうに、各地で出会いと別れを繰り返し、完成したのが今のパーティだ。
神官。初期からいてくれる頼もしい子。
聡明で面倒見が良く、俺には少し冷たいけど、癒しの魔法と杖による中距離攻撃で後衛、中衛も難なくこなす、仕事が出来過ぎる優等生。
あれほど後ろにいて安心できる神官はそういない。
ハーフエルフの戦士はまだメンバーとして付き合いは浅いが、誰とでも打ち解けるし、ひたすらに優しい正義を持っている。前衛筆頭として充分な強さを持つが、努力を怠らない辛抱強さを俺は気に入っている。
今朝も俺より早く起きて槍の稽古に励んでいた。
武闘家は、顔こそ怖いが経験豊富な年長者として常に若い俺たちを見守ってくれるし、迷った時の良き相談相手だ。たまに振る舞ってくれる男料理にも元気をもらう。
最年少で皮肉っぽいが、魔法使いは責任感の強い優しい子だ。
あの歳で長老レベルの上級魔法をいくつも修得しているのに、自身の能力を過信せず常にひたむきに物事と向き合おうとしてくれる。
弓使いは、凹むことを知らないパーティ随一のムードメーカーのエルフ。
軽口屋だが、持ち前の頭の回転の良さと枠に囚われない機転で旅路の危機を何度も救ってくれた。
残り半分になったバゲットサンドの断面を眺めて、仲間たちの顔を思い浮かべる。
本当に、誰一人として似ていない。
でも、誰が欠けてもこの旅はきっと続かない。
俺の役割は、魔王を倒すことはもちろんだが、パーティの調和をうまく続けさせることだとも思う。
この、全ての具材をひとまとめに抱える、マーメイドソルトのバゲットのように。
となると、具材を繋ぐアクセント──ソースの代わりになるものが必要だ。
俺は、仲違い中の二人がどうしたらまた笑い合えるかを咀嚼しながら考える。
こんなにうまいものを食ってるんだ──なにか良いアイディア、降りてこい。降りてこい。
こめかみを叩いていると、ふとメニュー表の太文字が目に入った。
『テイクアウトできます。』
……ちょうどいい。
俺は二つ頼んで、紙袋が温かいうちに急いで店を出た。
袋越しに伝わる熱が、宿屋で待つ二人に届くことを祈って。
きっかけは、次のウンディーネ戦の作戦会議だった。
ウンディーネは、四柱の神精霊の中でも最も穏やかな性格──だが、
一度戦闘になれば、イフリート以上に苛烈な攻撃を繰り出すと古文書には記されている。
俺、戦士、武闘家の前衛は攻撃に集中。後衛の神官と魔法使いが援護。中衛の弓使いが「自分が囮になる」と言い出した。
確かに理屈は通っていた。
だが、弓使いの体には、まだ北方戦線での傷が残っている。
一人で囮は無謀だ──そう誰もが思った。
それでも弓使いは楽観的に笑って「大丈夫だ」と言い張った。
俺も反対したが、食い下がる彼の勢いに押され気味だった。
「前回のイフリート戦を思い出せよ。あんな泥沼もう御免だろ? 囮役がいなきゃ、また同じことになる。逃げ足ならオレが一番速いかんな」
確かに一理はある。しかし、
「大丈夫だって! みんなが思うようなヘマはしねえよ! それに、最悪オレがダメになったとて、代わりなんかいくらでも──」
その瞬間。
乾いた音が宿の一室に響いた。
魔法使いが、顔を真っ赤にして弓使いの頬を打ったのだ。
「勝手なことばっかり言って! そんなの絶対許さない! 命を粗末にしないでよ‼︎」
うわあ……やばい。
と思ったのも束の間。
ヘラヘラしていた弓使いも目つきを変え、魔法使いに食ってかかった。
そこからはもう怒涛の言い合い。
会議どころではなかった。
結局、俺と戦士で二人を引き離し、年長者の武闘家の喝と、神官の宥めでその場は収まったが……。
よくない流れだ。
バゲットサンドを齧りながら、俺は眉間に皺を寄せた。
なにかとお調子者で楽天的な弓使いと、知的で慎重派な魔法使いは、意見が合わずこれまでも衝突することが何度かあった。
だが言い分は、どちらもいつも正しい。二人とも元を正せばパーティのためになるようにと動いてくれている。
だからこそ、ああいうふうになるのは心苦しい。
あの二人。おそらくまだ仲直りはしていない。昨日のは特に派手だったからな。
大丈夫だろうか、これがきっかけで居づらくなってパーティを脱退なんてこと……考えすぎか。
いや、これがあながち無い話でもない。
実際、勇者に成り立ての一年目は、えげつないほど色んなことがあった。
負傷して抜けた者。戦いを恐れ抜けた者。各々理由は様々だったが、俺が未熟なばっかりに人間関係に悩んで去っていった者もいる。
中には面と向かって「お前とは合わない」と言われ、抜けられたこともあったっけ……。ああ、思い返すと胃が痛くなりそう。
そんなふうに、各地で出会いと別れを繰り返し、完成したのが今のパーティだ。
神官。初期からいてくれる頼もしい子。
聡明で面倒見が良く、俺には少し冷たいけど、癒しの魔法と杖による中距離攻撃で後衛、中衛も難なくこなす、仕事が出来過ぎる優等生。
あれほど後ろにいて安心できる神官はそういない。
ハーフエルフの戦士はまだメンバーとして付き合いは浅いが、誰とでも打ち解けるし、ひたすらに優しい正義を持っている。前衛筆頭として充分な強さを持つが、努力を怠らない辛抱強さを俺は気に入っている。
今朝も俺より早く起きて槍の稽古に励んでいた。
武闘家は、顔こそ怖いが経験豊富な年長者として常に若い俺たちを見守ってくれるし、迷った時の良き相談相手だ。たまに振る舞ってくれる男料理にも元気をもらう。
最年少で皮肉っぽいが、魔法使いは責任感の強い優しい子だ。
あの歳で長老レベルの上級魔法をいくつも修得しているのに、自身の能力を過信せず常にひたむきに物事と向き合おうとしてくれる。
弓使いは、凹むことを知らないパーティ随一のムードメーカーのエルフ。
軽口屋だが、持ち前の頭の回転の良さと枠に囚われない機転で旅路の危機を何度も救ってくれた。
残り半分になったバゲットサンドの断面を眺めて、仲間たちの顔を思い浮かべる。
本当に、誰一人として似ていない。
でも、誰が欠けてもこの旅はきっと続かない。
俺の役割は、魔王を倒すことはもちろんだが、パーティの調和をうまく続けさせることだとも思う。
この、全ての具材をひとまとめに抱える、マーメイドソルトのバゲットのように。
となると、具材を繋ぐアクセント──ソースの代わりになるものが必要だ。
俺は、仲違い中の二人がどうしたらまた笑い合えるかを咀嚼しながら考える。
こんなにうまいものを食ってるんだ──なにか良いアイディア、降りてこい。降りてこい。
こめかみを叩いていると、ふとメニュー表の太文字が目に入った。
『テイクアウトできます。』
……ちょうどいい。
俺は二つ頼んで、紙袋が温かいうちに急いで店を出た。
袋越しに伝わる熱が、宿屋で待つ二人に届くことを祈って。

