人見知り勇者さんは、今日もどこかでぼっち飯。

 宿の扉を開けると、暖炉(だんろ)の火を囲んでいた仲間たちがこちらを見た。

「おかえりなさい、勇者さん。お散歩どうでした?」
 戦士が笑って出迎えてくれる。

「え……ちょ、どうしたんですか。その顔。なにがあったんですか?」
 神官が驚いて目を丸くする。

「やだ勇者、すごい汗じゃん」
 俺の有様にドン引きする魔法使い。

「はあ? なになに。ドラゴンでもブッ倒してきたの?」
 近からずも遠からずな弓使い。

「とりあえず中に入れ、寒かっただろ」
 武闘家が手招きする。

 仲間たちの、そのいつもの光景に安心して、俺は扉の前で骨を抜かれたようにズルズルへたれた。

 喉からカスカスとしか音が出ない。
 とりあえず、(ふところ)に入れていた麻袋を戦士の胸に押し付ける。

「は、え……え──。なんですか、この大金⁉︎」
「はあ⁉︎ ほんとに何してきたの⁉︎」

 沈むような重さの麻袋の中身を見て仲間たちが囲んでくる。
 口じゃ説明できないので、手振り身振りで伝えてみる。

「激辛チャレンジで10万モート⁉︎」
「確かにそんな張り紙あったけどさ、普通行く……?」
「んで全部食ったってのか⁉︎」

 馬鹿でしょと床で笑い転げる弓使い。
 表情を引きつらせる魔法使いに続けて、武闘家が冗談だろと詰めてくる。

 指で「食った」とだけ示すと、神官が手で顔を覆った。

「なにやってんですか、もう」
 彼女はため息と共に手際よく治癒魔法(ちゆまほう)を唱えてくれる。
 喉の痛みがじんわり和らぐ。

「金欠だからって。なんでそんな無茶しちゃったんですか」

 隣で本を使ってあおいでくれる戦士。
 そりゃあ……。

「装備も……準備も……ちゃんと、……じゃ……ないと。……仲間は……誰も……しなせ……られ……ない」

 この先、絶対に、誰一人として無事でなければ、意味がないんだ。

 神官が「……もう」と再びため息を吐く。
 その声が、火のぱちぱちという音に混じって消えた。
 魔法の(いや)しが喉を通り抜けていくと、ようやくかすれ声が出るようになる。

「これで……安心して、先に進める、ぞ……」

 その一言に、戦士がぱっと笑った。
 弓使いも魔法使いも、呆れ顔でそれぞれ肩をすくめる。
 神官が心底呆れたように呟く。

「まったく。ほんっと……私たちの勇者さんって、人見知りで放浪癖があって、言葉少なくておばかなうえに、全部背負い込みたがるめんどくさい勇者さんですよね」
「ほんとだよ」
「ほんとほんと」
「真面目すぎるとハゲるぞ、この先」

 魔法使い、弓使い、武闘家が迷わず(うなず)いて。
 俺、泣きそうになる。

「……でも、そういうとこ、嫌いじゃないですよ」
 神官が銀色の三つ編みを肩から垂らして微笑(ほほえ)んだ。

 暖炉の火がぱちりと弾け、仲間たちの笑い声がまたひとつ重なる。

 その時。喉の奥にまだ残る火の味が、ふいにぶり返してくる。

「……ッ、げほっ」
「ちょ、また辛さ再発してる⁉︎」
「勇者さん、今日はもう安静にしててください」
蜂蜜湯(はちみつゆ)、用意するか?」
「あ……」

 もう動くなとソファに運ばれ、俺は目を閉じる前に小さく手を上げた。

 少しの間。全員が振り返る。

「…………でも」
「でも?」
「一回完食できたんだから、二回目も頑張ればいける気がする……」

 20万モートはうまい。

「やめろや」

 平手打ちのような突っ込みが飛び交った。