人見知り勇者さんは、今日もどこかでぼっち飯。

 店内は狭いが、熱気で冬を忘れそうだった。巨大な鉄鍋の底が白く()け、唐紅(からくれない)の油がとろりと光る。

 カウンターの向こうで鍋を振るのは、先ほど俺を強引に入店させたドワーフの親父。

 焼け焦げた鼻髭(はなひげ)、見た目のゴツさと反して油跳ねしたフリル付きのエプロンを着ている。太い腕や指には火傷(やけど)の痕が無数に刻まれていた。

 数席のテーブルは半分ほど埋まり、壁際には野次馬(やじうま)のギャラリーが三、四人。みな張り紙を見て集まってきたらしい。
 俺が一人席に着くと、視線が一斉にこちらに向いた。……うう。見ないで。

「挑戦か」

 親父は短く言い、俺が口を開く前に顎をしゃくった。

「……はい」

 声が自然と小さくなる。
 その瞬間、店内の視線がまた一気に集まった。

「挑戦だってよ」
「なあ、あれ……勇者様じゃない?」
「まさか。似てるだけでしょ」
「いや、先週の討伐の……」

 ──ヒソヒソ声が耳に刺さって、背中がむず痒い。やめて。見ないで。……でも十万は欲しい。

 親父は木札をコトリと置いた。そこには三行だけ。
 ⑴ゆっくり食うな(長期戦は確実に失敗する)
 ⑵舌で(もてあそ)ぶな(辛味が刺さる)
 ⑶水は最後まで残せ(一杯のみの提供)

「忠告はそれだけだ」

 親父は鍋をあおりながら、淡々と説明を続けた。

「辛味は三種。サラマンダーの火嚢粉(かのうふん)炎胡椒(えんこしょう)(しび)れは黒花椒(くろかしょう)。香りづけに鬼灯粉(ほおずきこ)。油は竜王唐辛子(りゅうおうとうがらし)を絞って生成した唐油(とうゆ)。──以上」

 聞くだけで舌が痛くなるラインナップだ。

 しかも火嚢粉は、火山地帯に生息する炎を食う魔物──サラマンダーの体内にある炎嚢(ひのう)──高温の炎を()める器官を乾燥させ粉末化したものらしい。錬金術師や料理人の間では高級素材として扱われているらしいが、調合を誤ると鍋ごと燃えるとか。
 ……そんなもの人体に入れて大丈夫なのか。

 卓に置かれたのは、水の入った小さなグラスが一つ。
 俺に与えられた、たった一つの救い。いわば命運を分ける切り札。湖畔(こはん)神精霊(しんせいれい)──ウンディーネ。

 俺はそれを遠ざけ、椅子に浅く腰をかけ、背を伸ばした。

 店中の視線が突き刺さるのが分かる。
 うおおおお……やめろ……! 見ないでくれぇぇぇ……!

 心の中で絶叫しつつ、表情は平静の仮面で固める。
 無表情だからって内心まで無とは限らないんだよ!

「──おまちどう」

 親父の一声で、空気が変わった。