人見知り勇者さんは、今日もどこかでぼっち飯。

 勘定を済ませ、マスターの優しい声に見送られ店を後にすると
 一際冷たい風が頬を掠めた。

 思わず羽織った外套に包まる。
 見上げれば遥か高くから、白いものが舞う。

 ……雪か。

 掌に乗せると、指の熱で形を失っていく。
 その冷たさが、かえって心地いい。

「……明日は、もう少しマシな顔で戦えそうかな」

 ああ……、でもやっぱ、姫との結婚は勘弁だな……。

 誰に聞かせるでもなくつぶやく。
 その声が夜の静けさに消えていく。


 宿屋へ戻ると、廊下の角で神官と鉢合った。

「糖分摂取は、できましたか?」
「……ああ。なんとか」
「それは結構」
「神官……」

 去ろうとする彼女を短く呼び止める。

「縁談の件、助かった。……あれは本気で死ぬかと思った」
「知ってます。“死ぬ”って顔に出てましたから」

 ふっと笑う神官。ほんとにしっかりしてるな、この子。

「その……。いいパンケーキ屋を見つけた。今度教える」
「えっ」

 お礼とばかりに口にすると、凛々しさを纏っていたその表情が年相応に緩んだ。

 言葉を探す俺より早く、神官は一歩近づいて、人差し指を口元に当てた。

「じゃあ。その時は勇者さんの奢りということで、貸し一つですから」
「お……おお」

 いたずらっぽく笑う神官。
 それだけ言うと、くるりと背を向けて廊下を歩いていった。

 窓の外では、静かに落ちる雪が街灯の光に照らされて、夜の冷たさが少しだけ和らいで見えた。

 すっかり落ち着きを取り戻した胸に手を当て、深く息を吸い込む。

 大丈夫。
 ……俺は、まだまだ頑張れそうだ。