人見知り勇者さんは、今日もどこかでぼっち飯。

 王都の夜は、うまそうな匂いばかりする。

 屋台の湯気、香草(こうそう)の香り、焼いた肉から溢れる脂と焦げの匂い。
 どれもこれも、胃袋をくすぐってくる。

 

 数時間前。魔王討伐(まおうとうばつ)を目指す旅の途中、俺たちは拠点とする王都ユグドラムの酒場に立ち寄り、新しい仲間を迎えた。

「勇者さん、改めてよろしくお願いします――!」

 第一印象。笑顔が(まぶ)しい。

 新しい仲間――戦士は、明るくて素直で、まるで人型のわんこだ。

 キラキラしたまっすぐな瞳で見つめてくるから、思わず視線をぐりっと逸らしてしまう。

 俺は極度の人見知り。

 聖剣(せいけん)に選ばれでもしなければ、きっと一生、故郷の寒村で芋を掘っていた男だ。

「必ず魔王を倒しましょうね!」
「……おお」

 短っ。もっと喋れよ俺。いやでも、これ以上喋ると初対面の緊張で吐きそうになる……。

 いつもの人見知り発動で、たいして気の利いた言葉も出ない俺に、彼はハーフエルフ特有の小さく尖った耳を揺らして笑顔で言った。

「ずっと会ってみたかったんです」

 ううっ。いいやつ。
 いいやつすぎて、なんか胃がキュッとする。
 ごめんな、視線逸らしてばっかで。
 俺も本当は会えて嬉しい。

 歓迎の(うたげ)は大いに盛り上がった。

 肉と酒、笑い声と拍手。
 グラスのぶつかり合う音、仲間たちのどんちゃん騒ぎ。
 俺は笑ってうなずきながらも、どこか心が浮いたままだった。

 明るい空気は嫌いじゃない。
 でも、眩しすぎてどこか落ち着かない。

 ……そういう時は、やはり――。
 俺はそっと立ち上がる。

「悪いみんな。ちょっと、外の空気を吸ってくる」
「勇者さん、またですか?」

 神官(しんかん)が苦笑する。

 健康管理担当の彼女は、俺の行動をもう把握している。
 戦闘後や宴のあと、俺がふらっとパーティを離脱するのは、もはや恒例行事だった。

「この時間に塩分過多(えんぶんかた)は早死にすんぞ」

 エルフの弓使いが遠慮なしに冷やかす。

「まあ、あれで心の平穏が保てるならいいではないか」

 年長者の武闘家(ぶとうか)の言葉に、戦士が首を傾げる。

「心の平穏ってなんですか?」

 最年少の魔法使いが耳打ちで説明する。

「勇者の習性……? 趣味だよ。パーティ公認の」
「へえ……勇者さんの趣味! 興味あります!」

 完全に会話のネタにされてる。
 まあ、仕方ない。
 笑い声の中を抜け、俺はそそくさと酒場の外へ出た。