なんだかんだあって、学校に着くのがギリギリになってしまった。
俺たちはチャイムが鳴り始めてから、なんとか席についた。
慌てて西原を振り返り
「西原っ!おはよっ!」
と声をかける。
西原は一瞬驚いた顔をしたが、俺の顔をじっと見て、安心したように微笑んだ。
「おう!春田、おはよう!遅刻ギリギリじゃんか!」
「ちょ、ちょっとね」
1時間目の休み時間、トイレから戻ってくると、なにやら西原が悠生に詰め寄っているのが見えた。
さすがの女子たちも近寄らず、遠巻きに見ているようだ。
西原は勘が鋭いから、俺たちが気まずいことになっていたのもきっと分かっているし、まだ解決してないと思って悠生を責めているのかもしれない。
まずい!と思った俺は、小走りで悠生の席に近づいていくと、西原のまあまあ大きい声が聞こえてきた。
「おい、高橋〜!いい加減、俺とも仲良くしてくれよ〜!なんでそんな虫けらを見るような目で俺を見るんだ」
な、なんだ。俺のことじゃなかった。
「うっざ……お前は最初から気に入らねーんだよ」
悠生はいつも通り、俺以外には冷たい声だ。
西原はその声にたじろいで、泣きそうな顔をしている。
「なんだよ、俺、お前になんかした?!」
悠生は大きくため息をついた。
「自覚ねーのか?」
「何がだよ!」
「…自己紹介のとき言ってただろーが。男女関係なく、可愛い子がタイプだって」
「はぁ?それがなんだって言うんだよ」
「………」
黙り込んだ悠生に、なにか閃いたらしい西原は、今度は腕を組んで片方の口角を上げた。
「なるほどな。お前、俺が好きになると思ってるんだな。確かに顔はわりとタイプだけど、人様の恋人奪う趣味はねーよ。ていうか、お前ってすげー春田のことすきなっ!!」
俺のことだったー!
俺は慌てて西原に飛びつき、その口を両手で塞いだ。
危なかった!
ふーっと息を吐いて悠生を見ると、俺を見つめてひどく焦ったような顔をしている。
「麻人!」
悠生はバッと立ち上がり、俺の手を西原の口から引き剝がした。
そのまま引っ張られ、トイレに着いた。
トイレの中には誰もいなくて、悠生は俺の手を持って洗面台へ行き、手のひらにハンドソープの泡を出した。
「ちょっと麻人、西原の口なんか触んないで」
「あ、ごめん」
俺の手をマッサージするように泡を広げる。
くすぐったくて、つい手がピクッと動いてしまう。
「それより、西原に言ったの?俺たちが……そ、その……付き合ってるって」
「言ってないよ。『付き合ってるんだろ?』って言われたから答えただけ。でもあいつ、最初から俺の気持ちに勘づいてたと思う。……あ、もしかして嫌だった?」
「嫌じゃない!………ただ、恥ずかしいだけ」
悠生がニヤッと笑って、一瞬だけ俺を見た。
水で流して、もう一度同じように洗って、丁寧にハンカチで拭いてくれる。
ふと鏡を見ると、俺の顔は耳まで赤く染まっている。
と、悠生はそのまま俺の手を持って、指を絡めてきた。
「麻人は可愛すぎるんだから!ちゃんと自覚して。俺以外に隙を見せたらダメだからね」
「う…っ!もう!また可愛いって!」
「そうやって赤い顔してると、何されるか分かんないよ……」
そう言うと、俺の目をまっすぐ見つめたまま、顔を寄せてきた。
唇に柔らかい感触が当たる。
「ふっ、ちょっ、んん、ゆうせ」
キスの合間に呼びかけるが、離してもらえそうにない。
キスはどんどん甘く、深くなる。
2人の吐息がからまる。
ちょっと!
ここ学校!しかもトイレ!
ムードとやらはないのか?
心の中で叫ぶけど、俺も結局は、大好きな恋人のキスに溺れてしまうんだ。
……遠くでチャイムが鳴っている。
なにも考えられなくなった頭で聞いていたが、はっとして悠生の肩をたたく。
唇が離れる。
肩で息をする。
教室へ戻らなきゃ…と思ったら、悠生は「こっち」と言って、俺を個室に引っ張った。
え?と思っているうちに、背中を支えられて、キスが再開された。
もうだめだ……
離れようにも力が入らない。
弱々しく悠生の胸を押すと、さらに腰を引き寄せられる。
頬、耳朶、首すじへと降りていく悠生の吐息が、もうこれ以上は上がらないと思っていた熱を、俺の体の中でじわじわと燃えあがらせた。
2時間目の授業が終わるころ、やっと顔の熱が冷めて教室へ戻ると、なんと自習になっていたらしい。
目を見開いている俺に、悠生がニコッと笑いかける。
〜〜っ!こいつ、知ってたな!!
お昼休みは、またまた中庭で6人で弁当を広げる。
最近はこれが定番になりつつある。
真郷、西原だけでなく、橘、千晴くんもなぜか俺たちが付き合ってることを知っていて、やっぱり悠生に根回しされてたな、と呆れてため息をついた。
対照的に、ニコニコと機嫌がよさそうな悠生。
そんな俺たちを見て、真郷が「柴犬か…それともチワワか?」と顎に手を当てて考えている。
橘が「うちのチワワはやたら顔なめてくる」なんて言い出すから、なぜかじわっと汗をかいてしまった。
なにもかも、悠生の掌の上で転がされてる気がする。
それを嬉しいと思ってしまうんだから、俺も重症だ。
卵焼きの“おねだり”も健在。
今日も俺は、4人から生温かい目で見られ、幸せそうな悠生の隣で顔を赤くした。
俺たちはチャイムが鳴り始めてから、なんとか席についた。
慌てて西原を振り返り
「西原っ!おはよっ!」
と声をかける。
西原は一瞬驚いた顔をしたが、俺の顔をじっと見て、安心したように微笑んだ。
「おう!春田、おはよう!遅刻ギリギリじゃんか!」
「ちょ、ちょっとね」
1時間目の休み時間、トイレから戻ってくると、なにやら西原が悠生に詰め寄っているのが見えた。
さすがの女子たちも近寄らず、遠巻きに見ているようだ。
西原は勘が鋭いから、俺たちが気まずいことになっていたのもきっと分かっているし、まだ解決してないと思って悠生を責めているのかもしれない。
まずい!と思った俺は、小走りで悠生の席に近づいていくと、西原のまあまあ大きい声が聞こえてきた。
「おい、高橋〜!いい加減、俺とも仲良くしてくれよ〜!なんでそんな虫けらを見るような目で俺を見るんだ」
な、なんだ。俺のことじゃなかった。
「うっざ……お前は最初から気に入らねーんだよ」
悠生はいつも通り、俺以外には冷たい声だ。
西原はその声にたじろいで、泣きそうな顔をしている。
「なんだよ、俺、お前になんかした?!」
悠生は大きくため息をついた。
「自覚ねーのか?」
「何がだよ!」
「…自己紹介のとき言ってただろーが。男女関係なく、可愛い子がタイプだって」
「はぁ?それがなんだって言うんだよ」
「………」
黙り込んだ悠生に、なにか閃いたらしい西原は、今度は腕を組んで片方の口角を上げた。
「なるほどな。お前、俺が好きになると思ってるんだな。確かに顔はわりとタイプだけど、人様の恋人奪う趣味はねーよ。ていうか、お前ってすげー春田のことすきなっ!!」
俺のことだったー!
俺は慌てて西原に飛びつき、その口を両手で塞いだ。
危なかった!
ふーっと息を吐いて悠生を見ると、俺を見つめてひどく焦ったような顔をしている。
「麻人!」
悠生はバッと立ち上がり、俺の手を西原の口から引き剝がした。
そのまま引っ張られ、トイレに着いた。
トイレの中には誰もいなくて、悠生は俺の手を持って洗面台へ行き、手のひらにハンドソープの泡を出した。
「ちょっと麻人、西原の口なんか触んないで」
「あ、ごめん」
俺の手をマッサージするように泡を広げる。
くすぐったくて、つい手がピクッと動いてしまう。
「それより、西原に言ったの?俺たちが……そ、その……付き合ってるって」
「言ってないよ。『付き合ってるんだろ?』って言われたから答えただけ。でもあいつ、最初から俺の気持ちに勘づいてたと思う。……あ、もしかして嫌だった?」
「嫌じゃない!………ただ、恥ずかしいだけ」
悠生がニヤッと笑って、一瞬だけ俺を見た。
水で流して、もう一度同じように洗って、丁寧にハンカチで拭いてくれる。
ふと鏡を見ると、俺の顔は耳まで赤く染まっている。
と、悠生はそのまま俺の手を持って、指を絡めてきた。
「麻人は可愛すぎるんだから!ちゃんと自覚して。俺以外に隙を見せたらダメだからね」
「う…っ!もう!また可愛いって!」
「そうやって赤い顔してると、何されるか分かんないよ……」
そう言うと、俺の目をまっすぐ見つめたまま、顔を寄せてきた。
唇に柔らかい感触が当たる。
「ふっ、ちょっ、んん、ゆうせ」
キスの合間に呼びかけるが、離してもらえそうにない。
キスはどんどん甘く、深くなる。
2人の吐息がからまる。
ちょっと!
ここ学校!しかもトイレ!
ムードとやらはないのか?
心の中で叫ぶけど、俺も結局は、大好きな恋人のキスに溺れてしまうんだ。
……遠くでチャイムが鳴っている。
なにも考えられなくなった頭で聞いていたが、はっとして悠生の肩をたたく。
唇が離れる。
肩で息をする。
教室へ戻らなきゃ…と思ったら、悠生は「こっち」と言って、俺を個室に引っ張った。
え?と思っているうちに、背中を支えられて、キスが再開された。
もうだめだ……
離れようにも力が入らない。
弱々しく悠生の胸を押すと、さらに腰を引き寄せられる。
頬、耳朶、首すじへと降りていく悠生の吐息が、もうこれ以上は上がらないと思っていた熱を、俺の体の中でじわじわと燃えあがらせた。
2時間目の授業が終わるころ、やっと顔の熱が冷めて教室へ戻ると、なんと自習になっていたらしい。
目を見開いている俺に、悠生がニコッと笑いかける。
〜〜っ!こいつ、知ってたな!!
お昼休みは、またまた中庭で6人で弁当を広げる。
最近はこれが定番になりつつある。
真郷、西原だけでなく、橘、千晴くんもなぜか俺たちが付き合ってることを知っていて、やっぱり悠生に根回しされてたな、と呆れてため息をついた。
対照的に、ニコニコと機嫌がよさそうな悠生。
そんな俺たちを見て、真郷が「柴犬か…それともチワワか?」と顎に手を当てて考えている。
橘が「うちのチワワはやたら顔なめてくる」なんて言い出すから、なぜかじわっと汗をかいてしまった。
なにもかも、悠生の掌の上で転がされてる気がする。
それを嬉しいと思ってしまうんだから、俺も重症だ。
卵焼きの“おねだり”も健在。
今日も俺は、4人から生温かい目で見られ、幸せそうな悠生の隣で顔を赤くした。


