あのとき助けたのって俺じゃないんだけど。

次の日、自宅最寄り駅に行くと、真郷が待っていた。
俺はなんとなく顔が見れなくて、目をそらして俯いてしまう。

「……おはよ、真郷」

「おはよう、麻人」

そのまま黙ってしまうと、真郷が俺の顔を覗き込んできた。
怖い目をしている。

「今、麻人が俺に感じてるのは、罪悪感?後悔?それとも嫉妬?」

「っ!」

真郷が腰に手を当てて、一つため息をつく。

「麻人さぁ、あいつの話、最後まで聞いた?」

「え?」

真郷の目を見て首を傾げると、あの話の続きを教えてくれた。

悠生が、お礼を言いたくて公園に行ったこと。
そこで初めて顔を見て、一目惚れをしたこと。

「俺さ、熱中症の男の子を助けたことは覚えてるんだけど、その後の公園での話はまったく覚えてないんだよね。麻人、覚えてる?」

真郷が言う。俺は少し考えて

「俺も…全然分からない。ていうか、俺じゃなくて真郷だし」

真郷が真剣な目で俺を見た。

「俺、なんとなくだけど、あの公園で悠生が会ったのは、俺じゃなくて麻人だと思うんだよね」

「はっ?」

思いがけない言葉に、目を見開いて、まじまじと真郷を見つめる。

「ていうか、真実はだれにも分かんないんだし、そういうことにしておけば?」

そう言って、真郷はニヤッと笑った。

「だってあいつ、最初っから麻人しか見てないし」

「そう、なのかな……」

「うん、俺に1ミリも興味なし」



そのとき

「麻人くん」

うしろから呼びかけられ、振り向くとあきちゃんがいた。

「まーくん、麻人くん、おはよう」

「あきちゃん、おはよ。久しぶりだね」

「ほんとだね。ねぇ、今日一緒に行かない?」

あきちゃんはそう言って、ふんわりと笑った。
真郷がジト目で

「今日だけ特別だかんなー」

と言ったから、俺は声をあげて笑った。



電車の中

「あいつ、俺に興味ないくせに、一回だけ相談されたんだよなー」

そういえば、と思い出したように真郷が言った。

「え?」

「球技大会のあとだったけな。デートするのにいい場所ないか、って。」

「うん?」

「橘と三枝に聞けばいいじゃんって言ったんだけど、あの2人は年上と付き合ってるから、あきと付き合ってる俺の意見が聞きたかったんだって」

「そっか」

「で、子供のころ、麻人と行ったあそこの遊園地おすすめしといた!俺とあきもたまに行くよな!」

あきちゃんがふんわりと頷く。

「麻人さ…もしかして最近、あの遊園地行った?」

真郷がからかうように言ってくる。
俺は顔が熱くなって俯いてしまった。

「う……うん」

「麻人、愛されてんな〜」

真郷とあきちゃんが2人してくすくす笑った。

くそー!ものすごく恥ずかしい!


真郷と駅で話していたから、一本遅い電車に乗った。
今日はあきちゃんの高校まで送る時間がないから、真郷もこのまま登校することになった。
あきちゃんは友達と合流して、俺と真郷に「バイバーイ、またね」と笑顔で手を振ってくれた。

「じゃ、真郷行くか!」

あきちゃんの姿が見えなくなるまで手を振って、真郷のほうを向くと

「あ、俺はパス!カップルの邪魔する気はないんでー」

と言ってスタスタ歩き出す。

その先から、示し合わせたように悠生の姿が現れた。
2人はすれ違うとき、お互いに軽く片手を上げて頷き合う。
俺は真郷の背中に向かって

「真郷!ありがとな!いろいろ、全部!」

と叫んだ。
真郷は振り返って、満面の笑みで親指を立ててみせた。
悠生はそのまま真っすぐ俺のところにきて、ニコッと微笑んだ。

「麻人、おはよう!今日もすげー可愛い。すげー好き」

ちょうど隣をすれ違ったスーツのお姉さんが、ぎょっとした顔で悠生を見ていった。

「ちょ、ちょっと悠生!やめろよ!」

悠生はきょとんとしている。

「なんで?だって事実なんだからしょうがないじゃん」

「普通に恥ずかしいじゃんか!」

「…ねえ、麻人は?俺のこと好き?」

「うぅー……す、好き…」

悠生がまたニコッと笑って、俺の頭をなでた。
俺は顔が熱いし、心臓がやばいくらい早い。
恋ってすごいんだな。

それから、悠生はまた

「麻人……可愛い」

と言って、俺の手を握って歩き出した。