あのとき助けたのって俺じゃないんだけど。

告白から3週間。
季節は、梅雨真っ只中になった。

俺たちの関係はなにも変わっていない。
お昼休みも、放課後も、今まで通り。

少し変わったのは、悠生が躊躇なく「可愛い」と「好き」を言ってくるようになったことだ。

恥ずかしがってるのが可愛い。
目を合わせられないのが可愛い。
手の動きが可愛い。
前髪が縮んでるのが可愛い。
好き、好き、好き。
もうなんでもござれだ。

言われるたびに心臓ははねるし、顔が熱くなる。
悠生は「もっとちゃんと俺の気持ちを分からせるため」なんて言っているが、もう充分すぎるほどよく分かった。分からないのは自分の気持ちだけ。
まだ答えを出せずにいる。



だいぶ遅くなったが、球技大会の慰労会をしようということになり、悠生たち一軍三人衆がバイトしているファミレスに来ている。
いつもの6人のメンバーだ。

「なに食べるー?」

橘が言って、みんなでメニューをのぞきこむ。

「おすすめはどれ?」

隣に座った悠生に聞くと、指をさして

「ピザだね。石窯で焼いてるんだ」

ということで、ピザを数種類とポテト、サラダ、ドリンクバーを頼むことにした。

オーダーを取りにきた女性スタッフが俺たちを見て「あれ?今日は学校のお友達ときてくれたんだね」と声をかけてきた。

西原と真郷がふざけて「いつもウチの子がお世話になってます〜」とか言うもんだから、女性スタッフは口を隠してクスクス笑っていた。

ピザを食べながら、いつまでも尽きない話をする。
俺にとってはこの日常が、充分幸せに感じた。

ずっとこんな日が続けばいいのにな。



そのとき、一人の女子高生が店内に入ってきて、まっすぐ俺たちの席にやってきた。
隣町の私立高校の制服だ。
悠生、三枝、橘がサッと顔色を変えて、気まずそうな顔をする。
俺たちはわけが分からず、ポカンと口を開けてただ見上げていた。

「悠生……」

え?悠生って言った?

俺は隣にある顔をのぞきこむ。
悠生は、はーっとため息を吐いて

「ごめん、ちょっと行ってくる」

と、立ち上がってその子と一緒に店を出ていった。
千晴くんが心配そうに俺を見ているのが分かる。

「え、今のだれ?」

真郷が聞くと、橘が

「元カノ」

と、短く答える。

「え?まじ?めっちゃ美人じゃん!高橋って女子と話せたんだな。ていうか、なんで来たんだ?もしかして呼んだ?とか」

西原が興奮したように身を乗り出した。
橘は頭を横に振る。

「よく来るんだよ。バイトのある土日だけだと思ってたら、平日も来てたんだな」

「悠生に未練があるみたいで…それもあってボクたち、なるべく裏方にしてもらってるんだよね。悠生がいなければただ普通に注文して食べて帰るだけだから、お店に迷惑かけるわけじゃないし、出禁にもできなくてさ」

綺麗な人だった…
悠生と連れ立っていく姿は、だれが見てもお似合いだった。
本当だったら、悠生の隣にはああいう人がふさわしいわけで…

無意識に立ち上がっていた。
気づけばみんなが俺に注目している。

「お、俺、ちょっと行ってくる」

「おう!行ってこい」

西原がいつものようにニカッと笑って答えてくれる。
俺は急いで店を出て、2人の姿を探した。

2人は店の横の、細い路地にいた。
彼女が悠生の胸に両手を当てて、悠生が彼女のひじに手を添えて…
一見すると抱き合っているように見える。

俺は下唇をかんで、悠生の手をとって、彼女との間に割り込んだ。

「あの!」

悠生の前に立って、彼女と向き合う。
彼女がキッと俺を睨んだ。

「なんなの?あなた!邪魔しないでよ!」

ヒステリックに叫ぶ。
こ、怖い……でも、引く気はまったくなかった。

「悠生、困ってます!優しいから言えないだけで。それに!す、す、好きな人がいるんです!」

「ちょっと悠生!どういうこと?」

彼女が悠生を見上げると、うしろでため息が聞こえた。

「そういうことだから。むやみに傷つけたくなくて、今まではっきり言えなかったけど迷惑してる。それに、好きな子に誤解されるのは嫌だから……お前のことは好きじゃなかった。これからも好きになることは絶対ない。もう来るな。来ても話すことないから」

冷たい声に背中が震えた。
彼女は俯いて、長い髪がその顔を隠している。

あ、泣いてる…

と思ったら、バッと顔をあげて

「あーあ、なんか冷めた。あんたなんか、最初からあたしにふさわしくないし」

と、あっけらかんと言い残し、去っていった。
言葉とは裏腹に、その目は潤んでいた。
なんて気丈な人なんだろう。

彼女が去った方向を見ていると、悠生がうしろから抱きしめてきた。

「麻人…震えてる…」

「き、緊張した…」

「ありがとう。来てくれて嬉しい。助かった」

「うん…」

震えが落ち着いてくると、今度は違う意味でドキドキしてきた。

「なんで助けてくれたの?」

悠生の腕が緩んで、俺たちは向かい合う。

「だって、友達だし…嫌だったから…」

「嫌だと思ってくれたの?なんで?」

それは、好きだから?……分からない。
だって、真郷が同じ状況でも、俺はきっと助けた。
友達の好きと、恋人の好き。
違いはどこにあるんだろう。
悠生にドキドキするのは、悠生が俺を好きだと分かってるから?
悠生に告白される前は、俺、ドキドキしてた?
そりゃ、かっこいいと思うことは何度もあったけど。

「分からない……でも俺は、今の日常がずっと続けばいいなと思ってて。悠生と付き合って、やっぱり違うってなったら?…今の関係が壊れるのがこわい…こんなの、俺のわがままだけど」

悠生はしばらく黙っていた。

こんなにはっきりしない俺のこと、呆れられたかな?
1ヶ月近くも返事を保留にして、期待をもたせて、こんないい加減なやつ、嫌だよな。

そのとき、悠生がポンと俺の肩をたたいて、

「よし!麻人、俺とデートしよ」

と言って、にっこり笑った。