あのとき助けたのって俺じゃないんだけど。

球技大会が終わって1週間。

今日は中庭でごはんを食べることにした。
悠生含めた一軍三人衆、俺、真郷、西原の6人だ。
球技大会をきっかけにずいぶん打ち解けた。

あの日は悠生の前で泣いてしまい、勝手に気まずくなっていたが、今も変わりなく話しかけてくれる。
放課後も一緒に帰ってくれるし、俺たちの友情は健在だ。


俺の隣に座った悠生は、俺の手元をじっと見た。
いつもの“おねだり”だ。

俺の弁当はいつも、夕飯の残り物を適当に詰めてるだけだけど、卵焼きだけは朝自分で作っている。
悠生は俺の作った卵焼きが、なぜかお気に入りのようなのだ。

「悠生、あーん」

「ん、ありがと」

いつものように口に運んでやる。

ふと気づくと、4人がやけに生温かい目で俺たちを見ていた。
一気に顔に熱が集まる。
つい、いつもの癖で流れるように食べさせてしまった。
悠生はというと、平然とした顔で「今日もうまい!」なんて言っている。

「あー、オレ、ほぼ毎日見てるし、慣れてるから」

西原から謎のフォローが入る。

「まぁ、原因は悠生だしな!」

「ふふ、そうだね。麻人くんは気にしなくていいよ」

「高橋って絶対犬だよな!」

橘、千晴くん、真郷…と次々にフォローが入り、俺は何も言えずにうめいた。
いやっ、真郷のはフォローでもなんでもないんだけど。



予鈴が鳴り、真郷たちと別れて教室に入る。
西原は「トイレ!」と言って走っていった。

席につくと、悠生がちょいちょいと袖を引っ張ってくる。

「何?」

「あのさ、今日部活ないだろ?一緒に帰るよな?」

「いいよ。どうしたの?改まって。いつも一緒に帰ってるじゃん」

「俺、麻人に話したいことあるから」

「え?」

「大事な話」

「…うん」

西原が戻ってきて、チャイムが鳴る。
西原は俺たちの雰囲気になにか感じたのか、探るような視線を投げ、口角を上げた。



放課後、悠生と他愛ない話をしながら、いつもの通学路を歩く。
公園にさしかかったとき、悠生が俺の手を引いて、公園のベンチに座らせた。

「麻人、何飲む?ココア?」

「え、いいよ!自分で買うから」

「いいから。前おごってくれたお返し。ココアでいいよね?」

口を噤んで頷くと、自販機でココアとコーヒーを買ってもどってきた。
俺が飲んでたのを覚えててくれたんだな。
心が温かくなる。

「ありがとう」

「ん…」

受け取って、一口飲む。
しばらく2人とも黙っていた。

「麻人、聞いて」

ふいに悠生が俺に向き直る。
空気が変わったのを感じ、俺も姿勢を正した。
なにを言われるんだろう。
怖い、ドキドキする。


「俺………麻人のことが好き。できれば恋人になりたい」


時が止まったような気がした。
飾らない、まっすぐな言葉。
頭の中で、何度もその言葉を反芻する。
……好き、恋人になりたい……

悠生の好きな子が……俺?

もしかして…と思ったことがあった。
俺に向ける目が、普通の友情とは違うような気がしていたから。
だけどそんなふうに思うのは間違ってるんだって、悠生には好きな子がいるんだからって、自分に言い聞かせてた。
友達としての純粋な優しさを裏切ってるような気がして。
俺じゃない、俺のはずないんだから、いっそのこと冷たくしてくれたらいいのに、と。

今、不思議とこれまで感じていた息苦しさや迷いみたいなものが薄れていく気がした。
霧が晴れて、景色が広がるように。

拳を強く握る。
きちんと向き合わないといけない。

「……俺、悠生には好きな子がいるってずっと思ってて」

「うん…」

「それなのに、俺に優しくしてくれて、いつも一緒にいてくれて、笑いかけてくれて…」

「うん…」

「本当はこんなふうに悠生のこと、独り占めしちゃいけないのに、と思ってた」

「…だから、あの日泣いてたの?」

「……分からなくなったから」

顔をあげて悠生を見つめた。
いつの間にか、俺の手の上にその手が重なっている。
どちらも小さく震えていた。

「俺、考えてもいい?ちゃんと自分の気持ちと向き合って、答えを出したいんだ」

そう言うと、悠生は優しく微笑んで頷いた。

「もちろん。いつまででも待ってるから」