あのとき助けたのって俺じゃないんだけど。

麻人の目から雨粒のような涙が流れている。
堪えきれないと言うように肩が震えている。
俺はなにも言えずに、麻人の頭を抱き寄せた。

焦っている自覚はあった。
早く意識してもらいたくて、そうじゃないと、横からさらわれてしまいそうで。

麻人がかっこいいと言ったから、サッカー選手を真似て髪を切ったし、いつでも一緒にいられるように昼休みも放課後も、だれにも隣を譲らなかった。
俺にはそういう方法しか思いつかなかった。

球技大会だってそうだ。
かっこいいところを見てほしくて、必死に練習して、確実に来てもらえるように千晴に頼んだ。

だいぶ露骨だったと思う。
さすがの麻人でも気づいたんだろう。
好きな子がいることには気づいていたし、俺も気づいてほしくてやったことだし。

でも、それがこんなふうに麻人を追い詰めることになるなんて、思ってもみなかった。

どうしよう、どうしたら麻人の心が軽くなる?
俺が諦めればいいのか…でもごめん、もう諦めることも止まることもできない。
今この瞬間だって、とめどなくあふれてくる。
この想いは奔流のように俺と麻人を押し流そうとしている。



次の日の土曜日。
バイトが休みだったから、千晴に電話をかけた。
ちょっと出てきてくれないかと。
千晴は一切理由を聞かず、俺が指定したカフェに来てくれた。

「…麻人が、泣いてたんだ」

ひと言、そうこぼすと、千晴はふーっと息を吐いた。

「サッカー見てるときも、泣いてたよ」

「え?なんで千晴の前で?」

「こら!すぐ妬かない!……ボクには隠して見せないようにしてた。悠生…」

千晴が俺を見つめる。
だいぶ情けない顔をしてるだろう。

「アピールするのはいいけど、ちゃんと口で言った?」

首を振る。

「言えない、こわくて…」

そんな俺を見て、千晴は「ふふ」と笑いだした。

「麻人くんの言った通りだね。こんな悠生はじめて見た。彼、言ってたよ。悠生のこと、ちゃんと人間だったって」

「ははっ、なんだそれ」

「ボクは今でもロボットじゃないかと思ってるけどね」

千晴はコーヒーを一口飲んでから続けた。

「麻人くん、混乱してるんだと思うよ。自分の気持ちも、悠生の気持ちも分からなくて。ちゃんとはっきり言われれば、もちろん驚きはするだろうけど、自分の気持ちにだけ向き合えると思う。たとえ、結果がどうなろうとも」

沈黙が落ちる。

俺は自分の頬を両手でバシッとたたいた。
千晴は突然のことに目を丸くしている。

「決めた!俺、云うよ。それでちゃんと俺の気持ちを分かってもらう」