サッカー場に着くと、観客であふれていた。
ざっと8割が女子のようだ。
まだ試合は始まっておらず、靴ひもを結び直している悠生の姿がすぐ近くに見えた。
千晴くんは思いのほか大きい声で
「おーーーい!悠生ー!きたよーー!」
と遠慮も外聞もなく叫んだ。
周りの人達がぎょっとして俺たちを見ている。
悠生は顔をあげて千晴くんを見て、それから、その隣にいる俺を見て目尻を下げた。
手を振りながら駆け寄ってくる。
「麻人!来てくれたんだね」
ところが、近くまで来ると、目を見開いて固まっている。
んん?どうした?
悠生の視線の先を追って、まだ千晴くんと手を繋いだままだったことに気づき、パッとそれを振りほどいた。
千晴くんは涼しい顔をしている。
「悠生、そんな怖い顔しないで?ちゃんと麻人くん連れてきてあげたでしょ?」
「えっと…悠生、がんばれよ!」
「……ちょっとこっちきて」
悠生がいきなり俺の手首を掴んで引っ張ったと思ったら、耳元に口を寄せて
「麻人、絶対俺だけ見てて。そしたら俺、がんばれるから」
とささやく。
俺はとっさにささやかれた耳を手で押さえて、コクコクと首を縦に振った。
顔を赤くしている俺に、悠生は満足そうにふっと微笑んで走っていった。
今のは、ちょっと、かなりドキッとした…
悠生、まじで俺で練習してる説あるな。
こんなことされて落ちない女子っているんだろうか?
ふと振り返ると、千晴くんがお腹を押さえて「あははははっ!!」と笑っている。
不審な目で見ていると
「ごめんごめん、可愛くって」
と、目尻の涙をぬぐっている。
この人、実はゲラだな?
「あっちで見よう。解説してくれる?」
拒否する理由もなく、見えやすい位置に移動した。
隣の3人組の女子が「ひゃあ!」なんて、情けない声を出している。
千晴くんは彼女たちに顔を向けて、にっこりと微笑んだもんだから、もはや腰が抜けそうになっている。
まったく、罪なやつだ。
それにしても、解説と言われても……
「俺、サッカー詳しくないよ?細かいルール全然分からないけど」
「そうなの?てっきり…」
「ん?」
なぜか俺の答えが意外だったようで、ぽかんと口を開けている。
ピーッとホイッスルが鳴り、試合がはじまった。
ボールが転がり、悠生が片手をあげながら走っている。
パスしろということなんだろう。
悠生は右足でボールを受け取り、ゴールに向かってドリブルして、そのままシュート。
きれいに吸い込まれ、ゴールネットが揺れた。
一瞬の静寂の後、観客席は熱狂の渦に巻き込まれた。
試合がはじまってから、わずか3分ほどの出来事だ。
悠生はまっすぐ俺たちのいる方向を見て、拳を振り上げた。
「う〜わ〜まじでかっこよすぎる……」
思わず声が出ていた。
心臓がドキドキとうるさい。
お〜い、悠生の好きな人。
ちゃんと見てるか?
悠生は君のためにがんばってるんだぞ。
こんなかっこいいところ、見逃したら後悔するぞ。
胸のなかに言いしれぬモヤモヤが広がって、なぜだか泣きたくなってきた。
なんで?全然、泣く場面じゃないって。
俺、この間からちょっと変みたいだ。
その後も試合は優位にすすみ、悠生が3回ゴールを決めて勝利した。
「悠生って、ほんといいやつだよね。気さくだし、優しいし、無表情かと思ったらそんなことないし。なんでも完璧なやつかと思ったら、意外とシュールなところもあるし。知れば知るほど沼っていうか…最初はアンドロイドみたいなやつだと思ったけど、ちゃんと人間じゃん!って…」
千晴くんは黙って俺を見ている。
「ごめん、俺、何言ってるんだろ」
「麻人くんからはそう見えてるんだね」
千晴くんは俺の頭にポンと手を置いた。
「でも、悠生はだれにでもその姿を見せてるわけじゃないよ。……むしろ麻人くんにしか見せてないと思う」
あ、また……
泣きたくなってきた。
ていうか、ちょっと泣いてる。
2回目の波は下唇を噛んでも抑えられない。
俺は千晴くんから顔をそむけて目尻をこすった。
ざっと8割が女子のようだ。
まだ試合は始まっておらず、靴ひもを結び直している悠生の姿がすぐ近くに見えた。
千晴くんは思いのほか大きい声で
「おーーーい!悠生ー!きたよーー!」
と遠慮も外聞もなく叫んだ。
周りの人達がぎょっとして俺たちを見ている。
悠生は顔をあげて千晴くんを見て、それから、その隣にいる俺を見て目尻を下げた。
手を振りながら駆け寄ってくる。
「麻人!来てくれたんだね」
ところが、近くまで来ると、目を見開いて固まっている。
んん?どうした?
悠生の視線の先を追って、まだ千晴くんと手を繋いだままだったことに気づき、パッとそれを振りほどいた。
千晴くんは涼しい顔をしている。
「悠生、そんな怖い顔しないで?ちゃんと麻人くん連れてきてあげたでしょ?」
「えっと…悠生、がんばれよ!」
「……ちょっとこっちきて」
悠生がいきなり俺の手首を掴んで引っ張ったと思ったら、耳元に口を寄せて
「麻人、絶対俺だけ見てて。そしたら俺、がんばれるから」
とささやく。
俺はとっさにささやかれた耳を手で押さえて、コクコクと首を縦に振った。
顔を赤くしている俺に、悠生は満足そうにふっと微笑んで走っていった。
今のは、ちょっと、かなりドキッとした…
悠生、まじで俺で練習してる説あるな。
こんなことされて落ちない女子っているんだろうか?
ふと振り返ると、千晴くんがお腹を押さえて「あははははっ!!」と笑っている。
不審な目で見ていると
「ごめんごめん、可愛くって」
と、目尻の涙をぬぐっている。
この人、実はゲラだな?
「あっちで見よう。解説してくれる?」
拒否する理由もなく、見えやすい位置に移動した。
隣の3人組の女子が「ひゃあ!」なんて、情けない声を出している。
千晴くんは彼女たちに顔を向けて、にっこりと微笑んだもんだから、もはや腰が抜けそうになっている。
まったく、罪なやつだ。
それにしても、解説と言われても……
「俺、サッカー詳しくないよ?細かいルール全然分からないけど」
「そうなの?てっきり…」
「ん?」
なぜか俺の答えが意外だったようで、ぽかんと口を開けている。
ピーッとホイッスルが鳴り、試合がはじまった。
ボールが転がり、悠生が片手をあげながら走っている。
パスしろということなんだろう。
悠生は右足でボールを受け取り、ゴールに向かってドリブルして、そのままシュート。
きれいに吸い込まれ、ゴールネットが揺れた。
一瞬の静寂の後、観客席は熱狂の渦に巻き込まれた。
試合がはじまってから、わずか3分ほどの出来事だ。
悠生はまっすぐ俺たちのいる方向を見て、拳を振り上げた。
「う〜わ〜まじでかっこよすぎる……」
思わず声が出ていた。
心臓がドキドキとうるさい。
お〜い、悠生の好きな人。
ちゃんと見てるか?
悠生は君のためにがんばってるんだぞ。
こんなかっこいいところ、見逃したら後悔するぞ。
胸のなかに言いしれぬモヤモヤが広がって、なぜだか泣きたくなってきた。
なんで?全然、泣く場面じゃないって。
俺、この間からちょっと変みたいだ。
その後も試合は優位にすすみ、悠生が3回ゴールを決めて勝利した。
「悠生って、ほんといいやつだよね。気さくだし、優しいし、無表情かと思ったらそんなことないし。なんでも完璧なやつかと思ったら、意外とシュールなところもあるし。知れば知るほど沼っていうか…最初はアンドロイドみたいなやつだと思ったけど、ちゃんと人間じゃん!って…」
千晴くんは黙って俺を見ている。
「ごめん、俺、何言ってるんだろ」
「麻人くんからはそう見えてるんだね」
千晴くんは俺の頭にポンと手を置いた。
「でも、悠生はだれにでもその姿を見せてるわけじゃないよ。……むしろ麻人くんにしか見せてないと思う」
あ、また……
泣きたくなってきた。
ていうか、ちょっと泣いてる。
2回目の波は下唇を噛んでも抑えられない。
俺は千晴くんから顔をそむけて目尻をこすった。


