あのとき助けたのって俺じゃないんだけど。

「よーし、お前ら!気合い入れていくぞ!ここまで練習してきたんだ!優勝は俺たちのもんだ!!」

体育委員の西原の声が教室に響きわたる。

「おーーー!!」

みんなのかけ声がひとつになった。
俺や運動が苦手そうな数人は、やや自信なさげにひじを曲げたまま拳を上げる。

球技大会の優勝賞品は、幻と言われている購買のクリームパンだ。
俺も一度もお目にかかったことはなく、その未知の味を想像すると、口の中によだれが溜まった。

意外なのは悠生だった。
西原の次に気合いが入っているんじゃないかというくらい、見たことがないほどテンションがあがっている。

クリームパンか?
いや、好きな子にかっこいいところを見せたいからだろう。
合点した俺は

「悠生!がんばろうな!はりきりすぎて怪我するなよ!」

と言って、お互いの拳を突き合わせた。



しばらく試合がない悠生は、俺の応援をすると言って、一緒に卓球場まできた。
俺は初っ端から試合だ。
卓球部の先輩から借りたラケットを持って、指定された卓球台で相手を待つ。
ちょっと緊張していると、うしろで見ている悠生から

「リラックスリラックス!今のうちにウォームアップしろー!」

と、かけ声が届いた。
一応、ふくらはぎを伸ばしたり、その場で軽くジャンプしてみせる。
悠生を見ると、親指を立ててにっこり笑った。
どこからか「きゃあ!」という叫び声が聞こえたが、悠生はそれらを無視した。

スルースキルがすごい!
日ごろから鍛えられてるんだな。

相手は小柄な1年生だった。
彼も卓球は未経験らしく、2人してへなちょこボールしか返せない。
とうてい試合と呼べるようなものではなかったけど、俺は大差をつけて勝った。
勝った瞬間、悠生と目を見合わせた。
悠生は小さくガッツポーズをして、俺は頷いた。


休む間もなく、第2試合。
次の彼も卓球は未経験らしいが、さっきの1年生よりはできるようだ。
試合は最終5セットまでもつれこみ、取って取られての
大接戦。
最後は俺のスマッシュで競り勝った。

試合が終わると悠生がかけ寄ってきて、両手をあげてハイタッチした。

「すごいすごい!!麻人、めちゃくちゃかっこよかったよ!」

「ありがと!悠生が応援してくれたからだよ!」

ほんとにそうなんだよ。
悠生がうしろにいてくれると思うと、なんかすげー安心したんだよな。

悠生は自分が勝ったかのように頬を赤く染めて、抱きつかんばかりの勢いだ。
「かっこいい」なんて珍しいことを言われて、俺も嬉しかった。


その後、準備のために行かなくてはならない悠生は、俺の手をぎゅっと掴んで、次の試合を応援できない悔しさを語った。

「いいって!それより、早く行ったほうがいいよ」

「もっと麻人のこと見てたかったんだけどな」

落ちこんだ声と表情に、やはり垂れた耳としっぽを想像して、なんだか可愛く見えてしまう。
こいつは保護者になったり犬になったり、忙しいやつだな。
俺は悠生の手を強く握り返して

「サッカー、がんばれよ!応援行くから!」

と、喝をいれた。
悠生は「よっしゃー!マジで気合い入った!」と言って、俺に手を振って卓球場をあとにした。


第3試合の相手はバリバリの経験者だったらしく、俺は1セットもとれず、あっさり負けた。
たぶん、試合時間は10分もなかったんじゃないか?
あまりの実力の差に悔しさもわかなかった。