クラス替えから3週間。
放課後は悠生と帰るのが定番になった。
今日は部活がなく、まだまだ明るい道を悠生と駅までのんびり歩く。
5月に入り、日がどんどん延びた。
暑いと思うと急に寒くなったりと安定しないが、最近は穏やかな晴れの日が続いている。
「悠生のばあちゃん、俺んちの近所だったんだな」
歩道が狭いから、横並びに歩くとぴったりと肩がくっつきそうになる。
俺が半歩うしろに下がっても、悠生は俺の歩幅に合わせてくる。
時々、手の甲が触れる。
そのたびに、バスの中で繋いだ手の温かさを思い出し、ムズムズした気持ちになった。
隣にいる悠生を見上げると、平然とした顔をしている。
「うん、小さいころはよく遊びに行ったよ」
俺の目を見ながら答えて、懐かしそうにふんわりと笑った。
男の俺でも、目が離せなくなるような笑顔だ。
「じゃあ俺たち、どこかで会ってるかもなー」
「うん、そうだと思う。たぶん。絶対」
どこか確信めいた表情で言い、「ふふ」と柔らかく笑う。
どこが《氷の王子》なんだ?
しっぽを振っているのが見えるぞ!
相変わらず西原のことは少し苦手みたいで、俺と西原が話していると顰め面をしている。
でも西原のほうは、そんな悠生のことがだんだん面白くなってきたようで、終始にこにこ?ニヤニヤ?と笑顔を向けるようになっていた。
この2人、意外といいコンビなんじゃないか?
「あ、麻人。頭に葉っぱがのってる」
「ん?あぁ、とって」
悠生に頭を傾けると、そっと優しくとってくれる。
優しすぎて、どうにもくすぐったくて、ぴゃっと首をすくめた。
「麻人…可愛い」
「か、かわ?!なんだよそれ!」
「あはは!ほんと可愛い」
なんて言いながら、ふざけて抱きしめてくる。
俺の顔は悠生の鎖骨あたりにすっぽり埋もれてしまい、ぎゅーぎゅーと締めつけてくるもんだから息が苦しい。
しかも、いいにおいするし。
悠生は何かにつけて可愛いと言う。
花柄帽子、寝癖、小さめの弁当箱。
それに、俺の驚いたときの変な動きがツボみたいだ。
可愛い…なんて、それは好きな子に言えばいいのに。
まさか俺で練習してるんじゃないだろうな。
もしそうだったら…と考えると、一発殴りたくなってきた。
真郷も昔からよく可愛いと言われて怒っていたが、彼女のあきちゃんにだけは言われると嬉しいんだそう。
平凡な俺は、けなされることも褒められることもあんまりない人生だからか、なんだかくすぐったくなる。
「麻人!電車行っちゃいそう。俺は次の電車でもいいけど」
ぼーっと考え込んでいたが、はっと我に返って走り出した。
なんとか電車に間に合い、ふうと息をつく。
ゴールデンウィークの間の平日だからか、車内はいつもより混んでいる。
2人で並んでつり革に掴まった。
「悠生はサッカーだったよな?経験者?」
話題は2週間後に行われるクラス対抗の球技大会だ。
どのクラスもなかなか気合が入っていて、お昼休みや放課後に場所とりをして練習している。
俺は卓球にした。
経験者ではないが、唯一、ボールを返せる球技だ。
「いや、経験者じゃないよ。中学はバスケ部だったから」
「へ〜なんでバスケにしなかったの?」
「……かっこいいと思ったから」
「?…確かにかっこいいよな!」
悠生は充分かっこいいのに、たまに更なるかっこよさを求めることがあるんだよな。
貪欲なやつめ。
あ、そうか!
好きな子にかっこいいところを見せたいから、あえてサッカーにしたのか。
なぜサッカーなのかは分からないけど。
ということは、悠生の好きな子は校内にいるんだ。
「麻人は卓球だよな?どう?練習は」
「やっとボール返せるだけ。攻撃とかできない」
「ははっ!攻撃してる麻人を想像したらなんか面白い」
手の甲を口に当て、楽しそうに笑う悠生。
俺はジト目で睨んだ。
「おーい、それってバカにしてます?」
「ウソウソ!応援に行くから」
やれやれ。
「俺もサッカー応援に行くからな!」
「絶対きて!」
悠生は目をキラキラさせている。
おお!嬉しそう。
やっぱりこういうの、友達って感じでいいよな。
そんな話をしていると、次の駅でドッと人が乗ってきて、俺たちは奥のドア側へ押しやられた。
大きなスーツケースを持っている人も多い。
いつの間にか俺と悠生は向かい合わせになり、視界が悠生の首元で塞がれる。
さっき抱きしめられたときも感じた、フローラルっぽいにおいがして、落ち着くような、そうでもないような。
「すごい人だな。ちょうど新幹線が着く時間だったんだ。一本遅らせても良かったかも」
「うん………」
急に口数が少なくなった悠生が気になり、首を動かして顔を見上げる。
と、悠生は俺を見ていた。
やけに真剣な目に見つめられ、心臓がドクンとはねる。
「悠生…?」
「でも、この電車に乗って良かった。……上目遣いやばい…」
最後の方は声が小さくて、なんて言ってるのか分からなかったけれど、それきり2人して黙ってしまった。
くっつきそうな胸から悠生の体温が移ってきて、じわじわと俺の頬を熱くさせた。
放課後は悠生と帰るのが定番になった。
今日は部活がなく、まだまだ明るい道を悠生と駅までのんびり歩く。
5月に入り、日がどんどん延びた。
暑いと思うと急に寒くなったりと安定しないが、最近は穏やかな晴れの日が続いている。
「悠生のばあちゃん、俺んちの近所だったんだな」
歩道が狭いから、横並びに歩くとぴったりと肩がくっつきそうになる。
俺が半歩うしろに下がっても、悠生は俺の歩幅に合わせてくる。
時々、手の甲が触れる。
そのたびに、バスの中で繋いだ手の温かさを思い出し、ムズムズした気持ちになった。
隣にいる悠生を見上げると、平然とした顔をしている。
「うん、小さいころはよく遊びに行ったよ」
俺の目を見ながら答えて、懐かしそうにふんわりと笑った。
男の俺でも、目が離せなくなるような笑顔だ。
「じゃあ俺たち、どこかで会ってるかもなー」
「うん、そうだと思う。たぶん。絶対」
どこか確信めいた表情で言い、「ふふ」と柔らかく笑う。
どこが《氷の王子》なんだ?
しっぽを振っているのが見えるぞ!
相変わらず西原のことは少し苦手みたいで、俺と西原が話していると顰め面をしている。
でも西原のほうは、そんな悠生のことがだんだん面白くなってきたようで、終始にこにこ?ニヤニヤ?と笑顔を向けるようになっていた。
この2人、意外といいコンビなんじゃないか?
「あ、麻人。頭に葉っぱがのってる」
「ん?あぁ、とって」
悠生に頭を傾けると、そっと優しくとってくれる。
優しすぎて、どうにもくすぐったくて、ぴゃっと首をすくめた。
「麻人…可愛い」
「か、かわ?!なんだよそれ!」
「あはは!ほんと可愛い」
なんて言いながら、ふざけて抱きしめてくる。
俺の顔は悠生の鎖骨あたりにすっぽり埋もれてしまい、ぎゅーぎゅーと締めつけてくるもんだから息が苦しい。
しかも、いいにおいするし。
悠生は何かにつけて可愛いと言う。
花柄帽子、寝癖、小さめの弁当箱。
それに、俺の驚いたときの変な動きがツボみたいだ。
可愛い…なんて、それは好きな子に言えばいいのに。
まさか俺で練習してるんじゃないだろうな。
もしそうだったら…と考えると、一発殴りたくなってきた。
真郷も昔からよく可愛いと言われて怒っていたが、彼女のあきちゃんにだけは言われると嬉しいんだそう。
平凡な俺は、けなされることも褒められることもあんまりない人生だからか、なんだかくすぐったくなる。
「麻人!電車行っちゃいそう。俺は次の電車でもいいけど」
ぼーっと考え込んでいたが、はっと我に返って走り出した。
なんとか電車に間に合い、ふうと息をつく。
ゴールデンウィークの間の平日だからか、車内はいつもより混んでいる。
2人で並んでつり革に掴まった。
「悠生はサッカーだったよな?経験者?」
話題は2週間後に行われるクラス対抗の球技大会だ。
どのクラスもなかなか気合が入っていて、お昼休みや放課後に場所とりをして練習している。
俺は卓球にした。
経験者ではないが、唯一、ボールを返せる球技だ。
「いや、経験者じゃないよ。中学はバスケ部だったから」
「へ〜なんでバスケにしなかったの?」
「……かっこいいと思ったから」
「?…確かにかっこいいよな!」
悠生は充分かっこいいのに、たまに更なるかっこよさを求めることがあるんだよな。
貪欲なやつめ。
あ、そうか!
好きな子にかっこいいところを見せたいから、あえてサッカーにしたのか。
なぜサッカーなのかは分からないけど。
ということは、悠生の好きな子は校内にいるんだ。
「麻人は卓球だよな?どう?練習は」
「やっとボール返せるだけ。攻撃とかできない」
「ははっ!攻撃してる麻人を想像したらなんか面白い」
手の甲を口に当て、楽しそうに笑う悠生。
俺はジト目で睨んだ。
「おーい、それってバカにしてます?」
「ウソウソ!応援に行くから」
やれやれ。
「俺もサッカー応援に行くからな!」
「絶対きて!」
悠生は目をキラキラさせている。
おお!嬉しそう。
やっぱりこういうの、友達って感じでいいよな。
そんな話をしていると、次の駅でドッと人が乗ってきて、俺たちは奥のドア側へ押しやられた。
大きなスーツケースを持っている人も多い。
いつの間にか俺と悠生は向かい合わせになり、視界が悠生の首元で塞がれる。
さっき抱きしめられたときも感じた、フローラルっぽいにおいがして、落ち着くような、そうでもないような。
「すごい人だな。ちょうど新幹線が着く時間だったんだ。一本遅らせても良かったかも」
「うん………」
急に口数が少なくなった悠生が気になり、首を動かして顔を見上げる。
と、悠生は俺を見ていた。
やけに真剣な目に見つめられ、心臓がドクンとはねる。
「悠生…?」
「でも、この電車に乗って良かった。……上目遣いやばい…」
最後の方は声が小さくて、なんて言ってるのか分からなかったけれど、それきり2人して黙ってしまった。
くっつきそうな胸から悠生の体温が移ってきて、じわじわと俺の頬を熱くさせた。


