あのとき助けたのって俺じゃないんだけど。

今日は学校行事として行われる大学見学のため、いつもより2時間も早い電車に乗った。
まだ薄暗い中、大口を開けてあくびをする真郷と一緒に自宅最寄り駅から電車に乗る。
乗客はほとんどいなかった。

「真郷、口隠せよ」

何度目か分からないあくびをした真郷は

「いいじゃん、だれも見てないんだし」

と、流れる涙を指でふいた。
いや、俺が見てるからな。

幼馴染というものは遠慮がない。
家族同然に育ってきた真郷は、昔からちょっとデリカシーのないやつだった。
でも、だれにでも物怖じせず切り込んでいくところは、俺に足りない部分だから尊敬している。

昨夜遅くまで真郷のゲームに付き合ってしまった俺も、何度目か分からないあくびを噛み殺しながら、電車が動き出すのを待つ。


そのとき、車両の連結部分のドアがガラッと開いた。
あ!と思い、出てきた人物を見つめる。

「悠生、おはよ!」

イケメンというのは時間を問わないのか?
悠生は今日も、きちんとセットされた髪と、適度に着崩した制服で涼しい顔をしている。

「麻人、おはよう…あはっ!眠そうな顔」

俺のところまでくると、そのさわやかな笑顔を引っ込めて、隣に座る真郷を見下ろす。
真郷は軽く片手を上げて

「おはよ〜高橋」

と、半分閉じたような目で言った。

「悠生、俺の幼なじみの真郷。2組だよ」

「あぁ、涼介と千晴の」

言いつつ、リュックを降ろして俺の隣に座る。
電車が動き出した。

「よろしく、真郷。2人とも眠そうだな」 

「ゆうべ、オレんちでついついゲームやりこんじゃったからさ。麻人が下手すぎて、もうちょっとでクリアってとこでコケるんだもん」

俺が口を開く前に、真郷が説明する。
真郷は脳直で話すから、話し出すのが早い。
さりげなく悪口言われたし。

すると、悠生はスーッと目を細めて、真郷を見た。
真郷は見られていることに気づかず、目を半分閉じて、すごい顔をしている。
ほぼ初対面だけど、その顔で合ってる?

「へぇ〜2人で?そんな遅くまで?」

「うん。俺と真郷んち、道挟んで斜め向かいなんだ」

意識がなくなりかけてる真郷に変わって、今度は俺が答える。

「そうなんだ……家族ぐるみってやつ?お互いの家、顔パス?」

やけに聞いてくるな。
しかも、ちょっと顔怖いんだけど。

「まぁ、そうだな。もともと母親同士が仲良くて。合鍵持ってるくらいだし」

「合鍵…幼なじみ…」

ボソッと呟いて、なにやら考え込んでいる。
なんとなく、話題を変えたほうがよさそうだ。

「悠生、何時に起きたの?髪、かっこいいね」

俺の言葉に、悠生はサッと片手で自分の口を覆い、うめき声をあげた。
うらめしそうに俺を見て

「麻人、ふいうちやめて。あと、普通に4時」

と、手を降ろしながら言った。

「4時?すご!俺、起きたの家出る15分前」

たいして自慢にもならない話だけど、ちょっとドヤって言うと、悠生の目が柔らかくなった。

「15分前って…ちゃんと朝ごはん食べた?」

「朝ごはんだけはしっかり食べてきた!」

なんか朝ごはんの心配されるって、保護者みたいだな。
悠生は妹がいるから、なにかと面倒見がいいところがあるんだろう。
ふいに

「あ、麻人、寝癖」

と言って、そっと俺のうしろ髪をなでてくれた。
うわ!恥ずっ!
俺、ほんとに子どもみたいじゃん。
お兄ちゃんがいたらこんな感じなのか?

「寝癖、可愛い」

は?寝癖って可愛いものなの?
甚だ疑問なんだけど。
なんなら真郷は頭爆発してるし。

俺は横目で真郷を見て、ため息をついた。
ほんと、あきちゃんがいないと様にならないんだよな、こいつ。