荊棘―おどろ―


 全員が飛び跳ね、女子は割れるような絶叫を上げ、もうなにがなんだかわからなくなるような、そんなパニック。深夜の視聴覚室で炸裂したそれは、思い返せば笑っちゃうほど些細(ささい)な出来事だったのに。
 僕たちはその場でもみくちゃになって顔を見合わせた。

「な、なにッ今の、なにッ!?」
「わ、わわわ、わかんないっす! 今なんか奥から――」

 そして全員が視聴覚室の後方。問題が起こったであろう機材収納室の扉を見やる。

 情けないことだ。今までつまらなそうに欠伸をしながら幾多の映像を見てきた、ホラー映画の制作陣たちが全員揃って不満顔を浮かべるだろう行為を平気でしてきた僕たちが。

 たった一回の物音にここまで動揺させられるなんて。

「今のって、なに……なんか、いるの……」
「やめて怖い!」

 お互いの熱と震えが伝わる。
 何が起こったかわからない、その原因を突き止めることができなければ、恐怖はこのまま山火事のように広がっていくだろう。
 そんな不安を残したまま、問題の起こったすぐ隣の部屋で眠ることなんて到底できやしない。
 じゃあどうするか。言うまでもない。ホラー映画と同じ展開だ。
 安心を勝ち取るために、何があったか確認するしかない。

「ちょっと……男子見てきてよ」

 泣き出しそうな女子三人が布団の端まで避難して僕らに懇願する。
 そうなるんじゃないかと考えていた矢先に見事に立てられたフラグ、別に怒りはしない。こういう時は素直に女子の特権を行使していいと僕は思う、だが。ほぼ自分が指名されたと自覚したガッツは、何を思ったか目を泳がせ隣で震える左門と斜丸を一瞥(いちべつ)した。

「お前らジャンケンしろ」
「エエッ!」
「ちょっ、ガッツ先輩あんまりです!」

 おいおい、そりゃないよガッツ。
 斜丸と左門に同情するように僕は額に手を当てた。

「じゃ、じゃあ! 全員でいきゃあいいだろ!」

 無難な意見だが、身長百七十センチのがたいのいい球児が焦りながら言う様は非常に残念すぎるわけで。その提案には当然僕とガッツを除く全員が激しく拒否を示した。
 みんな完全に他力本願である。このまま、あるかどうかはわからないけれど、視聴覚室の照明が落ち、辺りが暗転したとしたら。
 もうパニックどころではない。地獄絵図だ。
 はあ。仕方ない──。
 非常に不本意ではあるが、僕は安眠を手に入れるべくそこから立ち上がり、みんなの悲鳴を浴びながら重厚そうな扉に手を伸ばした。


 躊躇うからこそ、間が生まれて怖くなる。

 僕はドアノブを握り、一気に暗闇を開いた。

 目の前には――。