二
「あーっつい!暑すぎる!」
もっちーの声がクラス中に響き渡る。
「確かにな。まだ四月ってのに半袖でも暑いもんな」
運動部二人がカッターシャツの胸元をザックリ開けて下敷きでパタパタと扇ぐ中、
俺はまだ学ランを着ていた。
「そんな暑い?」
「あっついよぉ?ってか、まる見てたらこっちまで暑さ倍増なんだけど」
「朝練組、お疲れ」
進級初日に仲良くなってから、俺ともっちーと隼人は三人でつるむようになった。
百八十センチ超えの二人に挟まれて、毎日威圧感が半端ない。
でも、それだけではない。何とも言い難い居心地の悪さを感じながら過ごしている。
「ほら、またあの二人絡んでるよ」
「持田君、制服着崩してるのいい」
「牧村君、めちゃさわやか。カッターシャツも素敵」
姿は見えないが、廊下の窓の向こうから黄色い声が聞こえてくる。
明らかにそれが増えたのは、部活紹介が終わってからだ。
全校生徒の前でハードル走を見せた隼人と、
華麗なリフティングを披露したもっちーは、瞬く間に学校中の人気者になった。
(まぁ、世間一般的にはイケメン?にはいるんだろうな。
見るからに陽キャだし……理系に埋もれてた原石見つけましたって感じか?)
俺は窓の隙間から廊下にいる女の子たちを見る。
リップを塗り直したり、髪をいじったり。
振り向いてもらえる瞬間を期待しながら、自分磨きにいそしむ彼女たちに、
感心と少しの同情を抱きながらも、遠い世界んことみたいに眺めていた。
もっちーは、口では彼女だ何だ言っているが、
きっとテニス部の特進の子に片思いしている。
化粧気もなく素朴な子だが、特進の前を通るときは、いつもその子に釘付けだ。
特進と合同の授業になると、いつもよりクールぶるのが見ていて面白い。
隼人に関しては、恋愛の入る隙が無い。
ハードル一筋だし、本人も公然と「彼女はしばらくいらないかな」と話していた。
その言葉は、俺の心をまでもざわりと撫でていった。
なぜだかわからない、言葉にできない気持ちがうずを巻く。
人のことはさんざん観察してなんでも分かったように思えるのに、
自分のことはてんでわからない。
そんなことを思っていると、「まる、また意識宇宙いってるよ」と、
もっちーがほっぺたをブスブスつついてきた。
「あ、いいな。もっちーだけずるい。俺も触ろ」
間髪入れずに反対のほっぺたを隼人が優しくつつく。
「前から触ってみたいと思ってたんだよね。
雪丸、細いのに顔は丸いじゃん?なんか餅みたいって思ってた。
やっぱり、つきたて餅じゃん」
「つきたて餅って……」
そんな感想、男子高校生に向けるものなのか。
二人の指先は、本人たちが「暑い」と言っていた通り、驚くほど熱を持っていた。
「やわらけー」といいながら、スクイーズのようにいじり倒すもっちーに呆れながら、
俺の意識は右の頬に偏っていた。
(……なんか、隼人の触り方……むずむずする)
見えてはいない。
見えてはいないが窓の隙間から、僅かに殺気を感じる。
「ってかさ、ゴールデンウィークは吹部と陸部はどんな感じ?」
やっと頬から手を離したもっちーが、予定が合ったら遊ぼうと誘ってきた。
「陸部は一日大会っていうか、記録会ってのがあるけど、あとはひたすら練習。
学校の日もあるし、他校と陸上競技場の日もある。
でも、大体が午前で終わるよ。吹部は?」
「うちは休みもあるし、午前練の日も午後練の日もある。サッカーは?」
もっちーは目をキラキラさせて
「一泊二日の合宿と練習試合二日!休みは中日の三日だけ!」と、どや顔した。
思わず「お前が一番忙しいんかい!」と突っ込んだら隼人も同じことを言っていて、
二人の声が重なった。
結局、俺も隼人も三日は午前練だったので、
午後から三人で映画見ようということになった。



