窓際の特等席、秘密のエール





「あーっつい!暑すぎる!」

もっちーの声がクラス中に響き渡る。

「確かにな。まだ四月ってのに半袖でも暑いもんな」

運動部二人がカッターシャツの胸元をザックリ開けて下敷きでパタパタと扇ぐ中、
俺はまだ学ランを着ていた。

「そんな暑い?」

「あっついよぉ?ってか、まる見てたらこっちまで暑さ倍増なんだけど」

「朝練組、お疲れ」

進級初日に仲良くなってから、俺ともっちーと隼人は三人でつるむようになった。
百八十センチ超えの二人に挟まれて、毎日威圧感が半端ない。
でも、それだけではない。何とも言い難い居心地の悪さを感じながら過ごしている。

「ほら、またあの二人絡んでるよ」

「持田君、制服着崩してるのいい」

「牧村君、めちゃさわやか。カッターシャツも素敵」

姿は見えないが、廊下の窓の向こうから黄色い声が聞こえてくる。
明らかにそれが増えたのは、部活紹介が終わってからだ。
全校生徒の前でハードル走を見せた隼人と、
華麗なリフティングを披露したもっちーは、瞬く間に学校中の人気者になった。

(まぁ、世間一般的にはイケメン?にはいるんだろうな。
見るからに陽キャだし……理系に埋もれてた原石見つけましたって感じか?)

俺は窓の隙間から廊下にいる女の子たちを見る。
リップを塗り直したり、髪をいじったり。
振り向いてもらえる瞬間を期待しながら、自分磨きにいそしむ彼女たちに、
感心と少しの同情を抱きながらも、遠い世界んことみたいに眺めていた。

もっちーは、口では彼女だ何だ言っているが、
きっとテニス部の特進の子に片思いしている。
化粧気もなく素朴な子だが、特進の前を通るときは、いつもその子に釘付けだ。
特進と合同の授業になると、いつもよりクールぶるのが見ていて面白い。

隼人に関しては、恋愛の入る隙が無い。
ハードル一筋だし、本人も公然と「彼女はしばらくいらないかな」と話していた。
その言葉は、俺の心をまでもざわりと撫でていった。
なぜだかわからない、言葉にできない気持ちがうずを巻く。
人のことはさんざん観察してなんでも分かったように思えるのに、
自分のことはてんでわからない。
そんなことを思っていると、「まる、また意識宇宙いってるよ」と、
もっちーがほっぺたをブスブスつついてきた。

「あ、いいな。もっちーだけずるい。俺も触ろ」

間髪入れずに反対のほっぺたを隼人が優しくつつく。

「前から触ってみたいと思ってたんだよね。
雪丸、細いのに顔は丸いじゃん?なんか餅みたいって思ってた。
やっぱり、つきたて餅じゃん」

「つきたて餅って……」

そんな感想、男子高校生に向けるものなのか。
二人の指先は、本人たちが「暑い」と言っていた通り、驚くほど熱を持っていた。
「やわらけー」といいながら、スクイーズのようにいじり倒すもっちーに呆れながら、
俺の意識は右の頬に偏っていた。

(……なんか、隼人の触り方……むずむずする)

見えてはいない。
見えてはいないが窓の隙間から、僅かに殺気を感じる。

「ってかさ、ゴールデンウィークは吹部と陸部はどんな感じ?」

やっと頬から手を離したもっちーが、予定が合ったら遊ぼうと誘ってきた。

「陸部は一日大会っていうか、記録会ってのがあるけど、あとはひたすら練習。
学校の日もあるし、他校と陸上競技場の日もある。
でも、大体が午前で終わるよ。吹部は?」

「うちは休みもあるし、午前練の日も午後練の日もある。サッカーは?」

もっちーは目をキラキラさせて
「一泊二日の合宿と練習試合二日!休みは中日の三日だけ!」と、どや顔した。

思わず「お前が一番忙しいんかい!」と突っ込んだら隼人も同じことを言っていて、
二人の声が重なった。
結局、俺も隼人も三日は午前練だったので、
午後から三人で映画見ようということになった。