放課後、いつものようにウォーミングアップと基礎合奏が終わると、
俺は視聴覚準備室に個人練習に向かった。
新入生の教育係を任されるかと思いきや,
「まるは愛想ないからいいよ」とはなから当てにもされていなかった。
まったくもってそのとおりなので、正直俺は助かった。
それに、燕君こと隼人のハードルが見れなくなるのは、少し、いやかなり惜しいからだ。
(あ、陸部も一年入ってる。部活紹介もまだなのに、意識高いガチ勢がたくさんいるもんだ)
俺はトランペットをケースから慎重に出し、マウスピースをはめた。
開け放たれた窓の外からは、誰かのサックスの音が風に混じって聞こえてきた。
その合間を縫うように、グラウンドからはソフトボール部のキャッチボールの音が響く。
パンッ、という乾いた音。
さらに校舎前の坂道からは、
「よーい、ピッ!」と、陸上部の坂ダッシュの掛け声が聞こえてきた。
(たしか、隼人は坂ダッシュ苦手なんだよな……
いつも終わったら地面に転がってる気がする)
俺は何となくトランペットを構えて、野球の応援で何度も吹いたフレーズを口にした。
――パ―ッパパパ、パパパ、パパパ――
《アフリカンシンフォニー》
気づけば、グラウンドへ向かって吹いていた。
(え、何やってんだろ。怖、自分、怖!)
冷静になり我に返ったところで、部活紹介で演奏する曲の練習を始めることにした。
「ウィリアムテル序曲からするか……」
いやいや、別に応援のための選曲じゃないって言い聞かせながら、
窓の向こうではちょうど隼人がスタート位置に立っていた。
「……いや、だから違うって」
誰に言い訳してるんだと思いながら、俺は譜面に並んだおたまじゃくしに息を吹き込んだ。



