今日は何の日

 脳天に雷が落ちるような、衝撃があった。
 
 転職して三年目、四十五歳、独身。課長。多幸 優(たこう すぐる)。前職も企画設計をしていたのだが、型にはまった製品開発に飽きてしまい、求人エージェントで紹介されたのが現職。
 テーマは無く、アイディア勝負の会社であった。1年目に大ヒット作品、プレゼントは私という物を世に送り出してからは、次の大ヒット作品は出せていない。
 シャワールーム、仮眠をとり、六階の設計フロアーに戻った。CADワークステーションの前に座り、ホイールマウスを動かしながら、没作品が、フォルダーの山となっていた。
 真っ暗なフロアーに、デスクのライトだけをつけて、モニターを睨みつける。椅子を引いて、両手を伸ばし、天井を仰いだ。天井に座る事が出来たら、部屋、職場は広いのだろうな。
 

 一旦、一階に降りて、電子タバコを吸うことにした。机をかえると、残り一箱であった。十箱無くなったら、家に帰ろうと思っていた、残り一個……。
 エレベーターホールも真っ暗であった、無償にも非常通路の緑マークだけの明るさが、眩しい。下のボタンを押して、勢いの良い音が聞こえる。一階に降りて、駐車場側に行った喫煙ルーム。
 中に入ると、空調が自動で回り、左手に握った、タバコの箱から、一本取り出し、電子タバコを満喫する。紙タバコは禁止の張り紙に目が行くが、タバコのアイディア製品は思いつかない。
 タバコは、一息付ければ良いのだ。重い脚を引きずるように、出て行き、缶コーヒーを買うために、七階に向かった。真っ暗であるが、カフェテリアと称した、自動販売機の四方八方光を放っている、視線をあげると、アプリ登録で三本無料という表示。
『フっ』一人で、三本入らない、ホット製品が少なくなっていたことに、気がついた。ホットコーヒーを買い、窓から下を見下ろすと、夜の桜に提灯の明かり、視線をあげると、ホルモン焼き、焼肉の看板のネオンが光っていた。
 

 九日間、カップラーメンしか食べていない。
 六階に戻り、明かりのついてるモニターの前に、戻ってきた。フォルダーの没作品の設計を眺めは、閉じて――。いつの間にか眠ってしまったみたいだ。目を開けると、窓の外は明るくなっていた。
 目覚めのタバコと、下におり、戻ってきた。散らない桜の設計、時間がかかりすぎる、第一、個人で買うものではない。

「課長、おはようございます、おにぎり買ってきましたよ」
 明るい声が、朝を感じ出せた。入社二年目の五十嵐 有希(いがらし ゆき)年は知らないが、二十四歳前後だと思う。モニターを覗き込んで、おにぎりを渡してくれた。
「課長、家に帰ってないのですよね? 倒れちゃうのか、心配です。ゆっくり休んでくださいね」
 ゆっくり休むだと、視線を右上にあげると、俺と目があった、視線は、徐々に下がっていった。元気な若さというべき姿であった。
 

 ウェブ会議が終わり、設計メンバーは誰も出社していない、テレワーク。ヒット商品は誰一人として、出せていないのが、現状。
 お疲れさまでした、お先です、等の声が聞こえてくる。女性社員しか出社していないのが、声で分かる。気にせず、モニターに向かう。声が聞こえた、桜を見に行こう、京都はどう、インバウンド需要で、ホテル高くない? 等の声が聞こえる。
 今、なんと言ったのだ、俺は立ち上がったが、女性社員達の姿は、視界に入らなかった。
 一階の喫煙ルームで、タバコを取り出すと、あと二本。今日で帰るしかなさそうだ。電子タバコのバイブレーションが右手をくすぐる。インバウンド、焼肉。両目が開いたまま、視線を左下に、落とし、正面を向いて、走った。
 

 エレベーターが来ない、階段だ。駆け上がっていく、息が切れるが六階についた。モニターに向かい、ホイールマウスを動かし、何かが頭に降りてきた。右、斜め、ベクトルを動かしながら、保存した。
 3Dプリンターをセットし、稼働を確認。良し、今日は帰ろう、地下鉄のホームは相変わらずの、人と人の壁。強引に満員電車に乗り込み、つま先立ちで扉がしまった。三駅程して、降り、アパートについた。しまった、お酒を買ってこなかった。
 鍵を開け、真っ暗な部屋に入り、お風呂へ。久しぶりだ湯舟に浸かるのは。外食しようと思っていたのだが、一気に睡魔が襲ってきて、ベッドに倒れこんだ。明かりをつけたまま。気が付くと、外は明るかった。
 洗面所に行くと、髭が伸び切っている、シェービングジェルを大量につけて、すっきりした。満員電車に乗り込み、


「すいません、降ります、すいません」
 と声をかけて、なんとか下車できコンビニエンスストアにより、タバコとカップラーメンを買い、会社に向かった。エントランスに着くと、何やら騒がしい。そうか今日は入社式か。
 エレベーターに乗れそうではない、階段で行こう。六階のフロアー、既に、女性社員達は出社していた。
「おはようございます、課長、私の言うことを聞いてくれたのですね」
 視線を右斜め上に向けると、五十嵐 有希だった。赤い薄手のコート、視線が徐々にさがっていくと、膨らみに目が行き、唐突に


「写真を撮らせてくれ」
 大声を出してしまった。五十嵐は、両腕で胸を隠して、顔が少し赤いように見えた。違う、誤解、説明しなくては、モニターを見せて、
「手の写真を、撮らせてほしい」
 窓際の打ち合わせテーブルで、3Dプリンターから取り出した物を、持ってもらい、写真を撮った。


「凄い、新製品ですね、ついに出来たのですね、今日、お祝いに飲みに行きましょう」
 写真をアップロードし、登録した。背中から、大きく息を吐いて、肩の力抜けたきがした。
 定時になり、五十嵐と焼肉屋に行くことになった。ビールが飲める、左となりを見ると、赤いコート
「え? プレゼントは私、赤いベルト引っ張ると、全部脱げてしまう、クリスマス用、男のロマンを体現した……」
「もちろん、知っています。課長、課長のために、着てきたのですから――」

 今日は何の日?