一年に一度

「ブーン」と暖房のつく音が聞こえる、あと一〇分、まだ寝られる。スマートフォンで時間をみると、あと三〇分は大丈夫。毛布を力いっぱいひっぱると
 足が出て冷える。「もう」スリッパをはいて、いったんトイレに肩をすくめながら。部屋に戻り、ベッドを整えて、もう一度。この二度寝が幸せ。
 徐々に部屋が温まってきた。あと二〇分。早めにセットしてあるアラームが、振動しながら。あと五分は大丈夫。
 アラームの音は段々と大きくなってきた。そろそろ起きないと。パジャマを脱いで、ワイシャツに袖を通し、ニットを羽織り、ブレザーと
 姿見で確認し、鏡に映るグーサイン。あれ、髪が跳ねている。部屋を出て洗面所に、鏡を見ると寝ぐせだ。櫛を通しても直らない。
 タオルをお湯で温めて、跳ねている所を、これで良し。
「おはよう、お母さん、今日お小遣い頂戴。買い物してくるの」そうね「それなら、これもお願いね」とメモとお金を受け取った。
 食パンにバターを塗って、温める。紅茶はティーパックで。「お母さん、今日夜お願いね」はいはいと
「行ってきまーす」
 外は寒い、手袋を忘れた。「ただいまー」のわけはないのだが、部屋に戻り手袋をと、完璧
 玄関をあけると、週末に降った雪は、すでに解けていていた。吐く息は白い。「フー」。音楽を再生しながら、学校に向かう。

 ――――

 休み時間、隣のクラスを少しだけ、覗くと、来ている。大丈夫。
 一日の授業が終わると、一番早く校門を出た。走らなくては
 スーパーにつき、お買い物、まずはお目当ての、これね。良かった、たくさんある。あとは百均で、忘れるところであった
 お母さんからのメモ、鶏もも六〇〇グラムと、焼肉のたれとキャベツ、絹豆腐。さんじゅうに? 『三二トマト』とはなんだろう、そんなにたくさん買えないよ。首をかしげて……ミニトマト。
 これで良し。セルフレジだから、すんなり終わり、次は百均に、あった。完璧。お父さんたちのは、これでいいや。
 急いで、家に帰ってきた
「ただいまー、お母さん買って来たよ。先にやって良い?」どうぞと、お母さんはお風呂を洗いに行ってしまった。
 ……料理ができないわけではないのだけれど、見ていて欲しかったのだけど
 お湯と、ボール、
 良しこれで、完璧。あとは冷蔵庫。

 夕飯もつくらないとね、お米残っている。取り出して、タッパにつめて、お米を研ぐ、二合、いや三合かな。
 お母さんが戻ってきて、あとは大丈夫だから、勉強をしなさいと
 痛恨の一撃だ。聞こえないふりをしていると、まな板を叩く音が大きくなった。やばい、部屋に戻って勉強。
 三秒だけ頑張って、明日の事のシミュレーション。大体なんで、土曜日なのよ。
 来年は受験だから、なんとしても今年しかない。一度も話した事が無いのよね。どうしてなのか、目で追ってしまう。
 そうだ、一〇〇均で買った、初のレターを
 なんて書けば良いのだろう、スマートフォンを取り出して、調べてみる、顔が赤くなるのが、わかった。そんなストレートに書いたら
 バレバレじゃない、理由も書いてあった。なるほど。それはその通りである。これをそのまま写すのは芸がない。
 どこに惹かれたのか。真面目そうなところ。何かと男子生徒に囲まれていることろ。一番は、図書室でたまたま、同じ本に手が触れ合ったこと、これだ
 一年前、入学して一か月後だった。偶然放課後に行った図書室で。それから、約一年過ぎたのね。

   ◇

「ただいまー」お父さんが帰ってきた。ビール出さないと、「おかえりなさい」キンキンに冷えたビールを、注ぎ、テーブルに置いた
 乾燥しているな、「蒸発してしまった」ジョッキは空っぽだった。おかわりの催促であった。そこはお母さんの最大攻撃「着替えてきなさい」
 渋々お父さんは、足を引きずるように、リビングを出て行った。
 夕飯の支度をして、もっとも並べるだけである。お母さんが作ってくれてた。ありがとう、マジックソルトが必須ね。
 食事中、冬季五輪の話題で盛り上がった。何が凄いのかは正直わからないのだが、金メダルは凄い事なのだろう。
 想いが、あのように飛んで行ったら、でも、くるくる回るのはだめよ。それではなく、高く飛んで、目的地に着地。これ! 

 ――――

「先にお風呂に入って、寝るね」と告げ、髪を入念に乾かして、これで大丈夫。鏡に映る自分はガッツボーズ、大丈夫だと言っているように見えた。
 暖房のタイマーをセットし、スマートフォンのアラームも再度確認。勝負は明日。
 どうしてだろうか、スーと眠りにつくことが出来た。私の部屋で一緒に勉強している、違う、教えてもらっている。距離が段々と近くなってきた。
 ドキドキしてきた。鼓動が、ドクンドクンと、同時にスマートフォンのバイブレーションが左手の中で動く。スマートフォンに目を向けると
 起きなくては、音量が無かった。起きれたのは良かった。着替えて、やる事がある。アラームを予定より三〇分早くして良かった。
 袋に箱を詰めて、手紙もいれた。お母さんはすべてお見通しのようであった
「行ってきまーす」

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 今朝は昨日より暖かく感じたが、寒い事には変わらない。スマートフォンに目を向けると、最低気温は二度。音楽を聴きながら学校に向かった。
 今日の曲はハイテンション。アップテンポ。学校が近くなってきたので、イヤホンを外し、再生を止めた。

 ――――

 一日の授業は、あっという間に、寝ている間に過ぎて行った。チャイムがなると、誰よりも先に、昇降口に向かった。
 作戦は立てた、下駄箱に入れておくことも考えたが、他の子、考えるのはやめよう。直接
 まだ来ない、続々とすれ違っていく。おかしい、もう来ても良いはずなのに、もしかして、嫌な予感が脳内で大戦争を起こしていた。
 それはすぐに、終戦した。来たのである。日本中の酸素が私の元にあつまった、深呼吸。
 一歩、また、一歩、前に、「塚本君」と声をかけた。僕と自ら指を指して、「はい」と答えた。回りの男子は冷やかしていた。
「校舎の裏にお願いできますか」一緒に、ゆっくりと歩き出す。しまったあれ程練った作戦が、指揮官がどこかにいってしまい、パニック状態である。
 校舎の裏のこの木よね。ついてしまった。作戦参謀はどこにいったのよ。
 何も言わず、頭をさげて、両手は痛いほど上に、紙袋を差し出した。受け取ってくれた。総司令部は撤退の指示が脳を駆け巡る。

 ――――

 待って、彼は袋を開けた、手紙が入っていることに気が付いたようで、その場で手紙読んでいる。奇襲攻撃を食らった私は、頭の整理が出来ていない。「え!」
 塚本君は、「手を出して」と言った。言われるがままに、片方の手をさげて、左手を出した。私の視線は、アスファルトしか見えていない。指先は震えていた。
 そっと手を握られた。全身に電気が走るというのはこういう事? 雷が、落ちたように。手を握られている。恐る恐る顔をあげて、視線を塚本君に
「お互を知るところから、だね」瞳の奥が熱くなった。溢れそうになっている「それは、付き合ってくれる……ということ?」
「もちろん」即答だった。

 ――――

 そのまま手を放さずに、校門を出て、自宅近くで手を振った。

 だだだだっだっだだだだ、玄関を開けた私は、そのまま、ベッドにダイビング
 手紙読んでくれた。誤字脱字無いよね、写メを確認。大丈夫。伝えちゃった、「もちろん」だって
 手を繋いで、一緒に帰ってきた。ベッドの上で足をバタバタしていると、LINEだ。
 塚本君だ。「ありがとう、ところで、最後の文字小文字なのだけれど?」

 ――――

「え?」写メを見直すと……やってしまったLOVe。塚本君は、「来年は大文字でね」