硝煙の匂いと鉄錆に似た血の香りが灰色の路地裏に溶けていく
青年――零(れい)は手慣れた手つきで愛銃のサプレッサーを外した
足元に転がっているのはこの街の裏社会を牛耳っていた組織の幹部だ
だが零の瞳には達成感も高揚感も宿っていない
ただ淡々と掃除を終えた後のような静寂だけがあった
「終わったか」
背後からかけられた低い声に零の肩が微かに跳ねた
振り返るとそこには黒のロングコートを纏った男、進藤(しんどう)が立っていた
零をこの「殺しの世界」へと引きずり込み、生きる術を叩き込んだ師であり、育ての親であり……そして零が生まれて初めて恋をした男だった
「……はい これで、ようやく一つ目です」
「そうか お前らしくないな、いつもならもっと早く終わらせるはずだが」
進藤が煙草をくわえ、ライターの火を灯す
その横顔を盗み見ながら零は胸の奥が熱くなるのを感じた
零にとってこの世界は決して「普通」ではなかった
だが進藤がいる場所だけが彼にとって唯一の居場所であり、そこにある感情だけが彼にとっての「普通」になりつつあった
「進藤さん …話があります」
「報告なら後で聞く」
「そうじゃありません …個人的な、約束の話です」
進藤は煙を吐き出し、怪訝そうに眉を寄せた
零は真っ直ぐに自分よりも一回り大きな男の瞳を見つめた
心臓がうるさいほどに脈打っている
引き金を引き、標的の命を奪う時よりもずっと緊張していた
「あと六つ 組織から命じられている、難易度SSの極秘任務があります それを全部無事に終わらせたら……」
零は一度言葉を切った
震えそうになる唇を噛み締め、覚悟を決めて告げる
「僕と、結婚してください」
夜の静寂がより一層深まったような気がした
進藤の口から煙草が落ちそうになる
彼は珍しく、その鋭い目を見開いて零を凝視した
いつも沈着冷静で何事にも動じない彼が一瞬だけ「ただの人間」のような隙を見せた
「……結婚、だと?」
「はい 殺し屋の僕が言うのはおかしいかもしれません でも全部終わらせたら僕は『普通』になりたい 進藤さんと一緒に」
進藤は黙り込み、落ちそうになった煙草を指先で整えた
沈黙が永遠のように感じられ、零の背中を冷たい汗が流れる
やがて進藤は短く溜息をつくと零の頭に無造作に手を置いた
「勝手にしろ …ただし、生き残るのが条件だ」
「……! それって」
「七つの任務を完遂しろ そうしたら考えてやらんでもない」
それは、彼なりの承諾だった
零の視界がパッと明るくなったような気がした
血生臭い路地裏で死体に囲まれながら少年のように無邪気な笑みを浮かべる
「はい! 必ず、必ずやり遂げます!」
零の初恋が今、最悪で最高の形で幕を開けた
だがこの時の彼はまだ知らなかった
「普通」の幸せを願うことがこの世界ではどれほど贅沢でそして残酷な代償を伴うものなのかを
青年――零(れい)は手慣れた手つきで愛銃のサプレッサーを外した
足元に転がっているのはこの街の裏社会を牛耳っていた組織の幹部だ
だが零の瞳には達成感も高揚感も宿っていない
ただ淡々と掃除を終えた後のような静寂だけがあった
「終わったか」
背後からかけられた低い声に零の肩が微かに跳ねた
振り返るとそこには黒のロングコートを纏った男、進藤(しんどう)が立っていた
零をこの「殺しの世界」へと引きずり込み、生きる術を叩き込んだ師であり、育ての親であり……そして零が生まれて初めて恋をした男だった
「……はい これで、ようやく一つ目です」
「そうか お前らしくないな、いつもならもっと早く終わらせるはずだが」
進藤が煙草をくわえ、ライターの火を灯す
その横顔を盗み見ながら零は胸の奥が熱くなるのを感じた
零にとってこの世界は決して「普通」ではなかった
だが進藤がいる場所だけが彼にとって唯一の居場所であり、そこにある感情だけが彼にとっての「普通」になりつつあった
「進藤さん …話があります」
「報告なら後で聞く」
「そうじゃありません …個人的な、約束の話です」
進藤は煙を吐き出し、怪訝そうに眉を寄せた
零は真っ直ぐに自分よりも一回り大きな男の瞳を見つめた
心臓がうるさいほどに脈打っている
引き金を引き、標的の命を奪う時よりもずっと緊張していた
「あと六つ 組織から命じられている、難易度SSの極秘任務があります それを全部無事に終わらせたら……」
零は一度言葉を切った
震えそうになる唇を噛み締め、覚悟を決めて告げる
「僕と、結婚してください」
夜の静寂がより一層深まったような気がした
進藤の口から煙草が落ちそうになる
彼は珍しく、その鋭い目を見開いて零を凝視した
いつも沈着冷静で何事にも動じない彼が一瞬だけ「ただの人間」のような隙を見せた
「……結婚、だと?」
「はい 殺し屋の僕が言うのはおかしいかもしれません でも全部終わらせたら僕は『普通』になりたい 進藤さんと一緒に」
進藤は黙り込み、落ちそうになった煙草を指先で整えた
沈黙が永遠のように感じられ、零の背中を冷たい汗が流れる
やがて進藤は短く溜息をつくと零の頭に無造作に手を置いた
「勝手にしろ …ただし、生き残るのが条件だ」
「……! それって」
「七つの任務を完遂しろ そうしたら考えてやらんでもない」
それは、彼なりの承諾だった
零の視界がパッと明るくなったような気がした
血生臭い路地裏で死体に囲まれながら少年のように無邪気な笑みを浮かべる
「はい! 必ず、必ずやり遂げます!」
零の初恋が今、最悪で最高の形で幕を開けた
だがこの時の彼はまだ知らなかった
「普通」の幸せを願うことがこの世界ではどれほど贅沢でそして残酷な代償を伴うものなのかを

