最寄り駅で白井と別れ、大地の家にたどりつき、俺は荷物をしまっていく。
大地は俺の隣に来てスーツケースを開け、ぬいぐるみを解放した。いつもの五体のぬいぐるみ以外動いていないようだった。
「……一応、送る前にお祓いはしてもらうか」
ぽつりと大地が呟く。
「確かにそれは大事だよな」
俺は苦笑を漏らした。助けてくれた幽霊たちがどこに行ったのかはわからなかった。
この部屋に囚われていたというらしいし、あの集会所の後はぬいぐるみに戻らず、皆悠々自適にそこら辺をさ迷っていることも考えられた。
まんじゅうをお供えすると、ぬいぐるみがその周りに集まって嬉しそうにぴょんぴょん跳ねている。
大地はというと、スーツケースの中のぬいぐるみが汚れていないかどうか一つ一つ入念にチェックし始めていた。
またこの日常が戻ってきたのだ。それも、今後は大地の恋人として暮らしていける。
彼らの様子を見て、俺は口角をあげた。伸びをすると、再び机の前に座る。持って帰ったノートパソコンを開いて電源をつけた。
「よし! また就活頑張るか」
そうは言っても、未だに内定は一つも出ていないし、エントリーしても履歴書で落とされる。面接してもらえても、うまく受け答えが出来ない。
けれど、今の俺と以前の俺は違う。少なくとも、なぜ実家を継がないかという質問に対して、胸を張って答えられる。
さっそく俺は製菓学校の先生に通話アプリを使って面接対策をしてもらえるようにと連絡をした。
その後、就活用のメールを確認する。気が付けば一週間くらい放置していた。
そうは言っても、届いているのはたいていお祈りメールかダイレクトメールで、これと言って目新しいものもない。
ため息をつきながら一つ一つダイレクトメールを消していく途中、俺はふいに手を止めた。
「……逆オファーのお知らせ?」
何の事だろうと一瞬考え、そういえば、と思い出す。
就活サイトには『逆オファー』という、企業の方が就活生のプロフィールを見て自分の会社で働いてほしい人材には連絡をすることができるという機能がある。その機能を使い、俺に就職先からのお誘いが来ているということだった。
どうせ俺が希望していない業種の会社が、少しでも新卒を採用しようと一斉送信しているだけだろう。
今までも何度かあった事例に、少しうんざりとした気持ちでメールを開く。
しかし、そこに書かれていた名前に目を見開いた。
「クッキーファクトリー……?」
長い間憧れ続けた会社の名前に、俺はぽかんと口を開ける。
サイトに飛び、メールの詳細を確認した。確かあの会社は新卒採用をしていなかったはずなのに。しかし、やはり何度見てもクッキーファクトリーからの通知だった。
震える手でメッセージを開く。
松崎颯太様。
このたびは、配信サイトにてあなたがぬいぐるみと一緒にクッキーを作っている動画を拝見し、就活中とのことから就活サイトにてあなたのプロフィールを確認しました。
動画の中であなたはそれぞれのぬいぐるみの好みを観察し、好きな味を作ってあげていました。
我々は長年『お客様を笑顔にするクッキー』を心がけて製作を続けてまいりました。そこで必要なのは、製菓の腕前はもちろんですが、それ以上にお客様は何をすれば喜んでいただけるのかと常に考え続けることだと思っております。
ぬいぐるみ自体はきっと特殊技術にて撮影したものかと存じておりますが、そこで松崎様が相手のことを思ってクッキーを作っていた気持ちは本物だと信じております。
まずは一度、弊社を訪れていただき、軽い面談などを行っていただけないでしょうか?
俺はその文面を何度も読み返す。
クッキーファクトリーの採用担当者からの言葉である。
俺はメッセージに送付されているリンクを辿るが、やはり俺の知っているクッキーファクトリーからのものだった。
「だ……、大地! 大地!」
ぬいぐるみのさし目の位置を調整していた大地に視線を移す。
彼は俺の必死な顔を見て目を丸くし、首を傾げた。
「なんだ?」
俺はノートパソコンの画面を大地に見せる。
「こ……、これ、なぁ、これ、クッキーファクトリーからの逆オファーが来てる!」
俺の声がひどく動揺していることに、自分でも気が付いていた。仕方がないことだと思う。大地の目も見開かれた。
「……クッキーファクトリーって、あの……?」
「うん、あの……」
大地の顔が嬉しそうに輝く。その表情を見てようやく実感が湧いてきた俺は、勢いよく彼に抱き着いたのだった。

