心霊物件に住む幼馴染と暮らしたら、幽霊が俺たちの恋愛応援団になった件


 実家の最寄りの駅に降り立つと、母さんが車で迎えに来てくれていた。
「軽い心筋梗塞だって。ちゃんと手術したら、一週間くらいで戻れるってお医者様が言ってた」
「……そっか」
 ホッとして吐息を漏らす。正直苦手な両親だが、死ぬとなると寝覚めが悪い。
 母さんは慣れた手つきで薄暗く細い道を曲がっていく。街灯の数も、自然の多さも東京とは比べ物にならないな、と内心で思っていた。
「あんた、就活の方はどう? うまくいってる?」
 母さんの声が硬い。彼女たちは俺に実家を継いでもらいたがっていて、都会での就活もギリギリまで反対されていた。
「……ぼちぼち」
 素直に言うのは気まずかったので適当に返す。
「何社通ってるの?」
 言葉に詰まる。
 彼女はふぅ、と吐息をこぼした。
「やっぱり、家を継がない? 父さんが働けなくなったら、せっかくおじいさんの代から続いている店がなくなっちゃう」
 もしも二人が変な宗教にハマってなければ、喜んで継いでいたよ。
 そんな言葉を喉の奥に押し込め、俺は窓の外を向いた。
「……うん、でも、やっぱり、東京で働いてみたいしさ」
 結局、相手が親でも、――親だからこそ話せない本音もある。言ってしまえば、きっと修復不可能な亀裂が入ってしまうだろう予感もあった。
「そう……」
 それ以来、母さんは何も言わずに運転に集中した。沈黙が気まずくてラジオをつける。やたら明るい音楽が流れ、何故かホッとした。
 今日は見舞いに行けないという話なので、そのまま家に帰る。
 リビングにある祭壇を見て辟易した気持ちになった。教祖の写真と花、ペットボトルに入った水が白い布の上に飾られており、塵一つ落ちていない。
 あえて反応を示さず、自分の部屋へ戻った。二週間ぶりの自室は特に変わってなくて、小学校のころから使っている勉強机には少しだけ埃が溜まっていた。

 翌日、朝一番に俺は父さんの入院している病院へと急ぐ。
 父さんは俺を見るなり、嬉しそうに目を細めた。
「あー、颯太! 帰ってきてくれたのか! 悪いなぁ、こんなことで呼び出して!」
 病院の白いベッドの上で患者服を着て横たわっていた彼は上半身を起こす。
「……思ったより元気そうじゃん」
 母さんが椅子を持ってきてくれたので二人ともそれぞれ丸椅子に座った。父さんは大げさに手を振る。
「まさかまさか! ほら見て、これ、点滴。父さん、生まれて初めて点滴なんて打たれちゃったよ」
 言いながらもどこか嬉しそうである。
「看護師さんに聞いたら、あと五日ほどで退院だって。よかったなぁー、保険入ってて」
「まったくねぇ……。はい、父さん。これ」
 そう言って母さんが手渡したのは教祖の顔がでかでかとプリントされたペットボトルだった。
「おぉ、ありがとな。きっとこれを飲んでいたから、この程度の症状で終わったんだろうな」
 けらけらと笑う顔はなんとも能天気だ、と俺はため息をつく。
「いや……、気をつけてよ。父さんも母さんも、もう若くはないんだからさ」
 ぐったりと肩を落とすと、父さんははっはっは、と入院患者とは思えない快活な笑い声をあげた。
「颯太は、どうだ? 東京で彼女はできたか?」
 俺は顔をしかめてしまった。中学生の頃から、除霊に成功したと見せかけるために俺は両親の前で異性愛者のフリをし続けたのだ。
 俺の表情を見て、父さんは更に笑みを濃くした。
「ま、まだ行って二週間くらいだもんな。それじゃ、就活は、うまくいってるか?」
 う、と唇を引き結ぶ。母さんが悩ましげに返した。
「それが、今のところ全滅みたい。父さんからも言ってよ。実家を継いだ方がいいって」
 遠慮のない母さんの言葉に、父さんは困ったように眉尻を下げた。
「そうだなぁ。颯太が戻ってきてくれたら、色々教えられることもあると思うんだけどな」
 どんどん苦いものが腹の奥からせりあがってくる。
「……うん、でも」
 面接に落ちたばかりの俺は両親の説得を受け入れそうになってしまった。それでも、すぐに返事はしたくなくて、言葉を濁し続けたのだった。