心霊物件に住む幼馴染と暮らしたら、幽霊が俺たちの恋愛応援団になった件


 家に帰った俺は、それはもう暗い表情だったようで、大学から帰宅した大地に目に見えて心配された。
 スーツから普段着に着替え、俺はリビングのソファに座り、ぼんやりと虚空を見つめていた。それが怖かったのか、幽霊の入ったぬいぐるみたちはローテーブルの上で黙って俺を眺めている。
「……面接、うまくいかなかったのか?」
 彼の言葉に俺はゆっくりと顔を上げた。
「……そうかも」
 それ以上話が続けられない。大地も今俺に変に何かを言ったら余計落ち込ませるかもしれないと思っているのか、そっと俺にコーヒーを淹れてくれて、それ以降はひたすらミシンをかけ続けていた。
 彼が作れば作るだけ、多くの人の手にぬいぐるみが届く。それだけ彼のものが求められているということだ。
 俺のクッキーは十人並みって言われたのに。
 よくないと思いつつも、大地に対して劣等感が湧いてきてしまう。そして、そんな気持ちを抱えている自分に対する自己嫌悪で、ますます俺は落ち込んだ。

 翌日、夕方に受け取ったメールでもう合否がわかってしまった。
 不採用通知に俺はスマホを抱えたまま部屋の隅で蹲る。
「……駄目だったのか?」
 大学から帰ってきていた大地が眉尻を下げて問いかけてきた。俺はコクリと頷く。
 貯金残高も心もとない。
 いつまでここで就職活動が続けられるのだろう。
 考えれば考えるほど腹の中が黒く塗りつぶされていくような感じがする。自分が誰からも求められていないように思えて苦しかった。
 大地はそっと俺の隣に座る。
「たまたまその企業とは縁がなかっただけだ。俺は、颯太の作るお菓子が一番おいしいと思っている。あきらめずに行けば、颯太ならきっとどこかと縁がつながるはずだ」
 彼の優しい言葉に、俺はぐっと唇をかんだ。
 そうは言っても、エントリーだけならもう四十社くらいにしているのだ。そして、面接にこぎつけられたのはたったの二社で、そのどちらも不採用である。
 心が折れるなという方が無理だ。
 ぬいぐるみ達も俺のそばに来て、がんばれとでも言うように両手を振っている。
 かわいい、となるところなのだろうが、今の俺には鼻についてしまった。何かを愛でるということは、心に余裕がなければできないのだと今更知った。
 俺はのそのそと立ち上がる。
「あ……、ほら、ぬいぐるみ達も、颯太に元気になってほしいとダンスを踊り始めているし」
 大地が無理に明るい声を作ってぬいぐるみ達を指さす。彼らはクマの子をセンターにして、ダンスの姿勢に入っていた。
「……いいよ別に」
 ぽつりと呟く。
 しかし、彼らはまるで『そんなこと言わないで』とでも言いたげに小さな手足をばたばた動かして元気よく踊り始めた。
 こういう健気なところが、バズった要因なんだろうな。
 なのに、今の俺はそんな冷めた視線で見てしまっている。
「いらない」
 ぴたっとぬいぐるみ達が動きを止めた。
 俺はスマホと財布を持って玄関へ向かう。一人になって頭を冷やしたかった。
「おい……、颯太、どこに行くんだ?」
 大地が追ってくる。彼は靴を履いた俺の腕をつかんだ。
「……ごめんけど、少し一人にしてくれる? 今、本当に余裕ないから」
 俺の声は地を這うようだった。
「いや……、でも……」
 俺は無理やり彼の手を振り払う。
「……今、大地と一緒にいたら、嫌なこと言っちゃいそうだから、少し距離を取らせて」
 それだけ言うと、扉を開けて外へ出る。温かい家の中の空気が逆に冷たくて、一刻も早くこの場を逃げ去りたかった。