白井が来た翌日、俺は面接へと向かう。多くの会社にエントリー段階で落とされる中、唯一面接へと進んだパティスリーだった。
スーツを着て、今回こそはきっとうまくいく、と自分に強く暗示をかける。
そして、面接本番。
「あ、もしかして、あのバズってる幽霊動画の颯太君? やっぱり? 名前でまさかって思っていたんだよね」
四十代くらいの面接官の男性は俺を見てにっこりとした笑みを浮かべた。彼と他にもう一人女性がいて、この二人で対応してくれるようだった。今回はホテルのビュッフェの面接で、ここのアフタヌーンティーのために東京の外からも訪れる人がいるのだとか。
「そ、そうです……! 見てくださっていて光栄です……!」
男性は苦笑を漏らす。
「まぁまぁ、緊張しないで。あの動画って、モキュメンタリー? ぬいぐるみのダンスはAI? それともコマ撮り?」
そりゃ、何も知らない人からするとそう見えるよな。とはいえ、馬鹿正直に『いえ、あれは本当にぬいぐるみが動いていて……』などと言うと変な目で見られるだろうということくらいは想像がつく。俺はあいまいに笑って返した。
「ご想像におまかせします……。とはいえ、作った『レン』は編集頑張ったって言っていました」
レンは白井の配信者としての名前である。間違ったことは言っていないし、こう言っておけばいい具合に勘違いしてくれるだろう。
面接は和やかに進んだ。特に男性の方が会話をうまく回してくれて、俺は終始落ち着いた気持ちで受け答えができたのだった。
今回の面接はきっとうまくいった。
そんな感触に、俺は胸を撫でおろしながら帰っていく。ホテルのすぐ近くの喫茶店に入り、就活中は一時中断していた学校の課題をこなすことにした。
大地の家でやってもいいのだが、たまに幽霊たちがお菓子を作ってとねだってくるので、集中したい作業はカフェでするようになっていた。
カウンターの近くでありながら、カウンターとはパーテーションで区切られたボックス席に腰掛け、ノートパソコンに向かってタイピングする。
入って一時間半ほどした頃だろうか。のびをしていると、ふと聞き覚えのある声がしてそちらを見る。今日の面接官の男性と知らない男性が二人でコーヒーのテイクアウト待ちをしていた。
「そういえば、今日バズってる動画に出ていた子が来てたよ。ほら、ぬいぐるみ心霊動画の」
面接官の方が告げる。自分の話題だ、と気まずくなり、慌てて俺は彼らから見えないように俺と彼らを隔てているパーテーションの影に隠れた。
「ああ……、あの動画。ぬいぐるみ可愛いよな。俺の彼女もあれを見てさっそく注文したんだって」
「でもどうせAIだろ? 面接の子もそんな感じで言ってたし」
「そりゃそうだろ。てか、あの颯太って子来てたんだ? どうだった?」
「んー……、微妙。結構緊張していたみたいだけど……、まぁ、長くは勤めなさそうだよな。実家も菓子屋なんだって。数年で帰りそう。」
「あー……、そりゃ、うーん……」
う、と唇を引き結ぶ。東京で研鑽を積みたいと一応言っていたが、やはりこの一流ホテルの場合はそれだと弱いのだろうか。
「中にはそのうち独立する人もいるけど、最初から長く勤めてくれなさそうな子を採る理由もないよな」
「動画がバズったって言っても、別にあの子自身がすごいわけじゃないしな。クッキーも、新卒ならまぁそれくらい……って出来だったし」
ぐさぐさと言葉が俺の胸を刺していく。項垂れたところで、コーヒーが出来たらしく、彼らは俺に気付くことなく店を出ていった。
やば……。
残された俺は針を刺されたような心の痛みに耐える。
わかっていた。
あの動画は白井がいままで築き上げてきた登録者数や、ぬいぐるみに入った幽霊が人気を博しているだけで、俺自身はこれといった特徴もない十人並みの就活生ということに。
それでも、やはり他人から言われると心が痛い。
「……クッキー、いい出来だと思ってたんだけどな」
ぽつりと、口の中だけで呟く。瞼の裏に頬ずりをしたコツメカワウソの顔が浮かび、消えた。

