心霊物件に住む幼馴染と暮らしたら、幽霊が俺たちの恋愛応援団になった件


 白井達はリビングに移動し、さっそくPVの撮影に入る。台所で一人で作っていると、隣に大地が立った。
「お疲れ様。案外普通に対応していたな」
 大地の言葉に、俺は頬を緩める。
「うん……、緊張したけど、大地達が近くにいるから」
 横目で大地を見ると、彼はどこか照れくさそうに口のあたりをもぞもぞさせていた。
「そういえば、大地がぬいぐるみ作家っていうのは言ってよかった? 俺、つい言っちゃったけど」
「まぁ、言わないとなんで部屋に大量にぬいぐるみがあるか説明がつかないしな」
 大地は苦笑する。そのあたりはあらかじめ了承済みだったのだろう。
 彼がそわそわとリビングの方を見つめている。そちらからは白井の『いいね、いいね~! 目線こっち!』というなんとも調子のいい声が聞こえてきていた。
「PV形式で撮ると言っていなかったからな……。踊っている途中で止められるのはあの子たち的には大丈夫なんだろうか……」
 大地の小さな呟き声に苦笑が漏れる。
「大地、みんなのお父さんみたい」
 う、と彼は唇を尖らせ、視線を外した。
「……颯太の枕もとでみんな、毎日練習していたんだろう?」
「え? 知ってるの?」
「前に、夜中にトイレに行った時に明かりがついて、あの子達の影が見えたから。……俺もつい応援のつもりで新衣装を作ってしまった」
 彼がどこか気恥ずかしそうにしている。
「新衣装?」
 俺は手を止めてリビングへ見に行く。ぬいぐるみ達は元々の動画のダンサーがそれぞれ持っているモチーフにちなんだ洋服を身に着けていた。
 かわいい……!
 俺は音が入らないようにこっそりと口を押さえた。ぬいぐるみ達が生き生きとして見えるのは気のせいだろうか。
 俺は急いで大地の方へと移動した。
「いいね! てか、結構衣装細かいけど、よく今日までに間に合ったね」
 ひそり、と話しかけると、大地は得意げに口角を上げた。
「ああ……。おかげで普段の分の制作が滞っているけどな」
 夜、大地は勉強を終えると夜な夜なミシンを使っていた。なので、俺はてっきり新作のぬいぐるみを作っていると思っていたのだ。
「へぇ……。いいな。大地なりのエールなんだ」
「……そんないいものじゃないけどな。……まぁ、あれだけがんばっていたら応援したくなるよな」
 彼の目が優しく細められ、リビングへと向けられる。
 その横顔を見て、俺はやっぱり大地の事が好きだなぁと実感していた。
 相手が幽霊とはいえ、努力を見せる相手にきちんと彼に出来る精いっぱいのエールを送っている。相手の属性ではなく、相手の行動に敬意を示す。
 俺の両親がおかしくなった時も、『それでも、颯太は颯太で、今までの颯太から変わったわけじゃないだろう?』と言ってそばにいてくれた。それがどんなに嬉しかったことか。
 俺はクッキーをオーブンへ入れると、手を洗ってリビングへ行く。白井は持ってきた撮影用ライトを駆使して画面を盛り上げてくれていたし、対するぬいぐるみ達も一生懸命踊っているのが見て取れた。
 転ばないようにと祈りながらそれを眺めていると、クッキーが焼け、粗熱が取れた頃になってようやく撮影が終わる。
「いや~! いい絵が撮れたよ! 編集はまかせてね!」
 意気揚々としている白井とは反対に、ぬいぐるみたちはどこかぐったりしているようだった。幽霊でも疲れるのか、と俺は苦笑を浮かべながら、クッキーの上にアイシングを施していく。
「こちらでは、クッキー作りも終盤に差し掛かっているようですね」
 カメラを持った白井が近寄ってくる。俺はぎこちない笑みを浮かべ、手元を見せた。
「えっと……、ぬいぐるみ達のアイシングクッキーを作ります。みんな頑張っていたので、とびきり美味しくてかわいいのを作りたいと思います」
「いいですね! あれ? ぬいぐるみによってデコレーションするものが違うんですか?」
 すでに三つほど終えていたので、白井は微妙な差異が気になったのだろう。
「はい。コツメカワウソと羊の子はチョコレートが好きだから、星形のチョコレートをつけてあげるんです。クマの子は柑橘系が好きみたいなので、オレンジピールを少しまぶして、ネコの子はキラキラしたものを好んで食べているので、アラザンを……。ウサギの子はシンプルなのが好きなようなので、ホワイトチョコで少し花を描き添えてあげるという感じです」
 どれも大地が作った衣装を着ているバージョンで作ってある。
 白井は目を瞬かせた。
「へぇ……! 幽霊の好みをわかっているんですか?」
「俺、製菓業界志望なので、東京のいろんなお菓子を買ってきて食べ比べするんです。で、その時にぬいぐるみの子にもお供えしてっておねだりされるので……。それを見ていたら大体わかったという感じです」
 以前、白井と偶然会った日に購入したお菓子はその後五日かけて大地と一緒に食べていった。もともとマドレーヌなどを作ってあげた時に何となく感じていたが、その際にぬいぐるみたちが近寄ってくるお菓子を見てさらに傾向を把握していったのだ。
「すごい……、見てください、視聴者さん! 幽霊の味の好みを把握している男がここにいます!」
 笑い交じりに言われるが、からかっているという感じではないので腹は立たない。
 無事にクッキーのデコレーションを終え、雑談をしながら乾くまで待つ。
 出来上がったクッキーをぐったりしている幽霊たちに見せ、神棚にお供えすると、彼らはシャキっと起き上がり、クッキーの方へと集まってきた。
「本当に颯太君が言ったとおりに、それぞれの好みにあっているようですね」
 クマ、羊、ネコ、ウサギが魂が抜けたようにその場に倒れる。そうしてお供えされたクッキーをどうにかして腹に収めているのだろう。最後のコツメカワウソはというと、自分と同じ姿のクッキーを嬉しそうに眺めた後、すり、と頬を摺り寄せていた。
「……かわいいっ」
 口の中で呟く。彼は俺の方を見て、ぺこりと頭を下げると他の子たちと同様にその場に倒れた。
 ふと隣を見ると、大地も微笑ましそうな、それでいて複雑そうな表情で口を押さえてその様子を見守っている。キス未遂事件から、彼は俺とコツメカワウソが仲良くしていると、そわそわとするようになっていた。
 いまだに俺と幽霊の道ならぬ恋を心配しているのだろうか。彼は単に俺になついてくれているだけだし、俺の方もそういうのじゃないのだけれど。
 ふいに、彼の目が俺の方を向き、細められる。その顔のあまりのかっこよさに、相変わらず俺の胸はきゅんと高鳴ったのだった。