次の日。
昼休みになると、自然と足はいつもの場所へ向かっていた。
アーチェリー場の端、少しだけ人目から外れたあの場所。秋の空気はひんやりしていて、陽の光だけがやけにやわらかい。
すでにそこにいた湊が、こちらに気づいて顔を上げる。
「……先輩」
その声が、ほんの少しだけ緊張しているように聞こえた。
何も言わずに、鞄からノートを取り出して差し出す。
「湊。これ、読んだ」
「……はい、」
短い返事。それだけで、湊がどれだけこの瞬間を待っていたか分かる。
そのまま、ノートを少し乱暴に手渡す。
「読んで」
「え、いま、?」
「はやく」
逃がさないように、言葉を重ねる。
湊が、少しだけ息を飲んでからノートを開いた。ページをめくる手が、わずかに震えている。
そこにあるのは、昨日書いた自分の字。
——直接言え。
沈黙が落ちる。風の音だけが、やけに大きく感じた。
「……言うことないの」
「え?」
「だから、ちゃんと言って。湊の言葉で、直接聞きたいの」
逃げ場を与えないように、まっすぐに目を見つめる。
一瞬、視線が揺れた。
でも、すぐに覚悟を決めたみたいに、湊がこちらを見返す。
「……好き。先輩が、大好き、です」
かすかに震える声。それだけで、胸がいっぱいになる。
「だから、その……」
湊の言葉が続かない。
こういうところ、本当に不器用だと思う。思わず、ふっと笑ってしまった。
その瞬間、湊が驚いたように目を見開く。けれどすぐに、困ったように笑った。
「俺と……付き合って、ください」
「ばーか。言うの遅すぎ。俺の気持ち、知ってるくせに」
「先輩だから、ちゃんと考えてたんですよ……」
次の瞬間、ぐっと抱き寄せられる。
強くて、でも壊れ物を扱うみたいにやさしい腕。その温度に、自然と力が抜ける。
「……俺も」
短く、それだけ返す。それで、湊には全部伝わる気がした。
「はい。もう絶対、一人で泣かせません」
「泣かないし」
「はい」
湊が、ふわっと笑う。その顔が、やけに穏やかで。
「俺、先輩と一緒に、0と100の間を作りたいです。いろんなところ行って、写真撮って、くだらないことで笑って……そういうの、全部」
湊が言うと、その一つひとつが、やけに現実味を持って胸に落ちてきた。
0でも100でもない、その間。曖昧で、不完全で、それでも確かに続いていく時間。
きっとそれが、自分たちなんだと思う。
完璧じゃなくていい。迷ってもいい。
それでも、隣にいられるなら。
「……じゃあ、さ」
少しだけ視線を逸らしてから、もう一度見上げる。
「その“0と100のあいだ”、ちゃんと全部付き合えよ」
一瞬、きょとんとした顔をして。それから、くしゃっと笑った。
「はい。ずっと、一緒にいます」
昼休みになると、自然と足はいつもの場所へ向かっていた。
アーチェリー場の端、少しだけ人目から外れたあの場所。秋の空気はひんやりしていて、陽の光だけがやけにやわらかい。
すでにそこにいた湊が、こちらに気づいて顔を上げる。
「……先輩」
その声が、ほんの少しだけ緊張しているように聞こえた。
何も言わずに、鞄からノートを取り出して差し出す。
「湊。これ、読んだ」
「……はい、」
短い返事。それだけで、湊がどれだけこの瞬間を待っていたか分かる。
そのまま、ノートを少し乱暴に手渡す。
「読んで」
「え、いま、?」
「はやく」
逃がさないように、言葉を重ねる。
湊が、少しだけ息を飲んでからノートを開いた。ページをめくる手が、わずかに震えている。
そこにあるのは、昨日書いた自分の字。
——直接言え。
沈黙が落ちる。風の音だけが、やけに大きく感じた。
「……言うことないの」
「え?」
「だから、ちゃんと言って。湊の言葉で、直接聞きたいの」
逃げ場を与えないように、まっすぐに目を見つめる。
一瞬、視線が揺れた。
でも、すぐに覚悟を決めたみたいに、湊がこちらを見返す。
「……好き。先輩が、大好き、です」
かすかに震える声。それだけで、胸がいっぱいになる。
「だから、その……」
湊の言葉が続かない。
こういうところ、本当に不器用だと思う。思わず、ふっと笑ってしまった。
その瞬間、湊が驚いたように目を見開く。けれどすぐに、困ったように笑った。
「俺と……付き合って、ください」
「ばーか。言うの遅すぎ。俺の気持ち、知ってるくせに」
「先輩だから、ちゃんと考えてたんですよ……」
次の瞬間、ぐっと抱き寄せられる。
強くて、でも壊れ物を扱うみたいにやさしい腕。その温度に、自然と力が抜ける。
「……俺も」
短く、それだけ返す。それで、湊には全部伝わる気がした。
「はい。もう絶対、一人で泣かせません」
「泣かないし」
「はい」
湊が、ふわっと笑う。その顔が、やけに穏やかで。
「俺、先輩と一緒に、0と100の間を作りたいです。いろんなところ行って、写真撮って、くだらないことで笑って……そういうの、全部」
湊が言うと、その一つひとつが、やけに現実味を持って胸に落ちてきた。
0でも100でもない、その間。曖昧で、不完全で、それでも確かに続いていく時間。
きっとそれが、自分たちなんだと思う。
完璧じゃなくていい。迷ってもいい。
それでも、隣にいられるなら。
「……じゃあ、さ」
少しだけ視線を逸らしてから、もう一度見上げる。
「その“0と100のあいだ”、ちゃんと全部付き合えよ」
一瞬、きょとんとした顔をして。それから、くしゃっと笑った。
「はい。ずっと、一緒にいます」
