0と100のあいだ

 夏休み前、最後の登校日。
 軽く一時間だけ、担任が宿題やら、持ち物やらを話して、あっという間に終わった。来る意味なかったのでは、と思ってしまう程あっさりしていた。
 本当なら、少しは特別な日になるはずだったのに。湊は部活で忙しくて、結局今日は一度も顔を合わせられていない。このまま、まともに話せないまま夏休みに入るのかと思うと、なんとなく落ち着かなかった。
「あっついなーほんま、夏いややわ。なー紫藤、あつい~なんとかして」
「お前は存在が暑い」
「ひどない?!」
 来人が大げさに肩を落とす。でもその顔は火照っていて、自分たちより確かに暑そうだ。
「とうまー、どうよこれ。最近扱い酷くね?」
「……まあ、いつも通りじゃない?」
「え、フォローしてくれへんの?!」
 そんなことを言いながら、紫藤は無言で小型の扇風機を来人の方に向けてやっている。文句を言いつつもちゃんと世話を焼いているあたり、この二人らしい。
 ちらっとその様子を見て、なんとなく思う。やっぱり、こいつらはバランスがいい。
「あ、そうや」
 来人がぱっと顔を上げた。
「俺夏休み、実家帰んねん。だから、夏休みは会えへんわ」
「え、来人って一人暮らしなの?」
「ちゃうちゃう、俺が一人暮らしできるわけないやん」
 手をひらひらと振って、笑った。
「おばあちゃん家が大阪やねん。毎年帰っててさ」
「へえ……」
「せやから、ちゃんとLINEしてや?寂しがるから」
「誰が?」
「俺がや!」
 即答されて、少しだけ笑ってしまう。
 こんなふうに軽く言えるのが、こいつの強さなんだろう。
 その横で、ふとスマホを見た。通知は、来ていない。分かってる。湊は忙しい。部活だって、簡単に抜けられるものじゃない。それでも、最後の日くらい、少しだけ顔を見たかった。
 
 夏休みが始まる。
 嬉しいはずなのに、どこかで引っかかるものがあった。