梅雨の朝。
目覚ましを止めた記憶だけがあって、気づけば時計はとっくに始業時間を過ぎていた。
傘置き場から適当に傘を手に取ると、玄関の扉を開けた。
瞬間、しっとりとした雨の香りが肺の中を満たした。
雨の日は嫌いじゃない。
湿った土の匂いに傘を叩く、細かな雨音。世界が薄い膜に包まれたみたいに静かになる。
自分だけの、静かで美しい時間。
こんな日は、何かが起きる気がする。理由もなく、ただ何となく胸がざわついた。
田んぼ道を抜けると、いつもの通学路を通らず、小さな雑木林に出た。
向かっている場所は駅ではない。
軽い足取りで石段を上がる。
周りには一面に青と紫色のアジサイが鮮やかで幻想的な景色を作り出していた。霧で囲まれた丘への道は、まるで異世界への入り口のようだった。
誰か、いるといいな。そんな淡い期待を胸に、歩いていく。
見晴らしのいい、小さな広場。
その奥。古びたベンチに、同じ制服の少年が座っていた。
思わず、口の端が上がる。
濡れた黒髪が、額に貼りつき、白いシャツがうっすらと透けている。
雨に濡れたのか、泣いたのか。
頬には雫が流れ落ちていて、屋根からも雨粒が、ぽたりと華奢な肩を打っていた。
触れたら壊れそうで、目を離せば消えてしまいそうな——綺麗だ、すごく。
その華奢な肩はわずかに震えていて、初めて見たのに、守りたいだなんて思った。
どうして寂しそうなのか、どうしてそんな顔をしているのか。
その綺麗な顔で、笑うところを見てみたい。
音をたてないように、鞄の奥そこから、真っ白のハンカチを取り出した。
一歩、一歩、静かに近づく。
濡れた木の匂いが、強くなった。
目覚ましを止めた記憶だけがあって、気づけば時計はとっくに始業時間を過ぎていた。
傘置き場から適当に傘を手に取ると、玄関の扉を開けた。
瞬間、しっとりとした雨の香りが肺の中を満たした。
雨の日は嫌いじゃない。
湿った土の匂いに傘を叩く、細かな雨音。世界が薄い膜に包まれたみたいに静かになる。
自分だけの、静かで美しい時間。
こんな日は、何かが起きる気がする。理由もなく、ただ何となく胸がざわついた。
田んぼ道を抜けると、いつもの通学路を通らず、小さな雑木林に出た。
向かっている場所は駅ではない。
軽い足取りで石段を上がる。
周りには一面に青と紫色のアジサイが鮮やかで幻想的な景色を作り出していた。霧で囲まれた丘への道は、まるで異世界への入り口のようだった。
誰か、いるといいな。そんな淡い期待を胸に、歩いていく。
見晴らしのいい、小さな広場。
その奥。古びたベンチに、同じ制服の少年が座っていた。
思わず、口の端が上がる。
濡れた黒髪が、額に貼りつき、白いシャツがうっすらと透けている。
雨に濡れたのか、泣いたのか。
頬には雫が流れ落ちていて、屋根からも雨粒が、ぽたりと華奢な肩を打っていた。
触れたら壊れそうで、目を離せば消えてしまいそうな——綺麗だ、すごく。
その華奢な肩はわずかに震えていて、初めて見たのに、守りたいだなんて思った。
どうして寂しそうなのか、どうしてそんな顔をしているのか。
その綺麗な顔で、笑うところを見てみたい。
音をたてないように、鞄の奥そこから、真っ白のハンカチを取り出した。
一歩、一歩、静かに近づく。
濡れた木の匂いが、強くなった。
