左遷された転生おっさん三等騎士、【現代フード召喚】でうまうま辺境スローライフ勤務を冷酷剣姫やポンコツ美少女精霊使いたちと謳歌する~食文化の遅れた異世界で現代フード出しまくり~

 「ずずぅ……ふう、やっぱり食後の熱茶は五臓六腑に染みるな……」

 演習場の喧騒を遠くに聞きながら、俺は一人湯呑みをすすっていた。
 激闘だった。午前のリレー飛び入り参加、そしてあの昼弁当おかわりパニックからの魔力ドーピング召喚。ぶっちゃけ今の俺は出がらしの茶葉よりもカスカスだ。魔力は徐々に自然回復しているものの、正直このまま夜の準備時間まで泥のように眠っていたい。

 あとは、晩飯だな。

 ここが踏ん張りどころなのだ。

 ぼんやりと晩飯献立プランを復習していると、会場から一段と高いそれでいて鈴を転がすような愛らしい声が響いてきた。

 「はぁ~~い、みなさ~ん! 盛り上がってますかぁ? 交流会もいよいよ大詰め、泣いても笑ってもこれが最後の競技となりま〜す♪」

 アナウンスの主は、我らが騎士団のアイドル(?)ステア王女だ。彼女の声に応えるように、演習場を埋め尽くした騎士たちが再び拳を突き上げ地鳴りのような歓声を上げる。

 「最後はおまちかねのこれでぇ~~す! 騎士団対抗、騎馬戦大会ですよぉ~~! みなさん、最後の一絞りまで力を出し切ってくださいねっ♡」

 王女のキュートな叱咤激励に野郎たちのテンションは最高潮に。演習場の中央には、出場選手たちが続々と集まり出していた。

 ふむ、騎馬戦か。

 運動会の締めくくりぽい競技だ。
 さすがに組体操とかはやらんが、騎馬戦の方が騎士っぽくていい。

 俺は高みの見物とばかりに茶をすすりながら、わがグルト辺境騎士団の陣容を眺めた。

 ……おっ、剣姫シュトリアーナが出るのか。

 彼女が上に乗り、下を支える馬は……騎士課の若いやつらが2人か。

 んん? ちょっと待て。

 周りのチームを見れば、どこも四人一組(下が三人、上が一人)で組んでいる。だが、シュトリアーナのところは下が二人しかいない。これじゃバランスが悪すぎるだろう。

 剣姫の騎馬は特殊なのか? 

 そんな俺の疑問に答えるように、凛々しくそしてどこか冷徹なまでに通った声が俺の耳を突き刺した。


 「タケオ! そこにいたか。こっちに来い!」


 ウソだろ……

 嫌な予感しかしない。

 俺は置いた湯呑みを持とうとしたが、その前にシュトリアーナが風のような速度で俺の眼前に現れ、その細い指先で俺の襟首を掴んでいた。


 「ちょ、シュトリアーナさん!? 俺は今、お茶を……」
 「欠員が出た。お前が入れ」

 はい?

 「いやいやいや! 見てくださいよ、この虚弱な事務系おっさんの体! 騎士団にはもっと岩みたいな体格の連中がゴロゴロいるでしょ!」

 「ダメだ。他の連中はお前が作った弁当を食いすぎて、全員トイレだ」

 マジかぁ。

 満足してくれたのは嬉しい。
 でもな、美味かったからって限界まで詰め込むのは騎士としてどうかと思うぞ。

 「それに」

 シュトリアーナは少しだけ声を潜め、だが有無を言わせぬ圧力で俺を睨んだ。

 「私の前は、信頼できるやつにしか任せられない。お前がもっとも信頼できる馬だからな」

 うん、ちょっと良く分からない。

 「……それ、褒めてます?」

 「最大級の賛辞だ。さあ、行くぞ!」

 こうして俺は断る間もなく演習場のど真ん中、全軍の注目の的に引きずり出された。



 ◇◇◇


 「タケオっち、筋肉を信じろ~~」
 「タケ、他団のやつらになんかに負けんなよ!」
 「タケオさん、頑張ってくださ~~い」

 「うわぁ……先輩また出てる……」

 俺が騎馬戦に出ると分かって声援を送ってくれる仲間たち。
 1名声援ではない気がするが、元はと言えばリレーはおまえの飲みすぎで俺が出たんだがな……ミーシャ。

 とまあ、いつまでもグチグチするのも性に合わん。

 出る以上は、おっさん騎士の意地をみせてやるか。

 「タケオ、いそげ」

 おっと、剣姫さまがお呼びだ。
 俺は騎馬メンバーの元へと急いだ。

 さっそく騎馬を組む俺たち。

 剣姫シュトリアーナ騎馬の布陣は以下の通り。

 騎乗:剣姫シュトリアーナ(鉢巻を締めて気合十分。オーラがすでに怖い)
 前馬:タケオ(内勤騎士のおっさん。騎馬を組んだ瞬間、ちょっと膝が笑っている)
 左馬・右馬:若手騎士コンビ(ごめん、ちょっと名前おぼえとらんので通称:左騎士くん、右騎士くん)

 この4人でひとつの騎馬である。

 騎馬を組んでみて思ったが、けっこう剣姫おもい……。
 いや、これは贅肉とかではなくなんかこう質量が凝縮されているみたいな。

 「なんだタケオ」

 ヤバイ、速攻で感ずかれそうになる。
 剣姫の鋭さはやはりすごい。それもそうか。実戦ともなれば、ひとつの読みが命のやり取りに直結するだろうし。

 「はぁはぁ……」
 「はぁはぁ……」

 ちなみにこの息は俺じゃない。
 剣姫が重いからって、おっさんが息を切らしているわけじゃないぞ。

 「……なぁ、お前ら。そんなに息荒くして大丈夫か?」

 俺の左右を固める二人の若い騎士は、すでに「はぁはぁ」と荒い息をついていた。
 まさかの、すでに体力が削られたとかじゃないだろうな。

 「タ、タケオさん……分からないんですか、この状況が……はぁはぁ!」
 「じ、じぶんらの肩に、あの剣姫様の太ももが……てか至近距離に……はぁはぁ!」

 なるほど、そのはぁはぁか……

 剣姫シュトリアーナは絶世の美女でスタイルも抜群だ。そんな彼女に跨がれ、密着しているのだから、多感な若手騎士が興奮しちゃうのは分からんでもない。
 はたして、その興奮のリミッターを外したまま戦場に出るのが吉と出るか凶と出るか。

 「うおおおおお! 俺は今、人生で一番生きてる実感があるぞぉお!!」
 「け、けんきさまのうまうま、うまぁ~~!」

 ……ダメだこいつら。

 興奮しすぎだ。
 ちなみに俺は剣姫とは長い付き合いだし、彼女のキャラも分かっているのでそんなに興奮はしない。

 「タケオ、前を向け。始まるぞ」

 俺の頭上で、シュトリアーナが冷ややかに言い放つ。同時に彼女のふとももが俺の顔をギュッと締め付けた。
 ……痛い。遠慮なしの、まさしく馬扱いやないか。信頼の結果がこの握力(膝力)とは。


 「でわでわ、みなさ~~ん、騎馬戦バトルロイヤルはじめぇ~~です♪」


 ステア王女の可愛い声と共に王国騎士団交流会最大のイベント、騎馬戦(なんでもアリ)の火蓋が切って落とされた。