左遷された転生おっさん三等騎士、【現代フード召喚】でうまうま辺境スローライフ勤務を冷酷剣姫やポンコツ美少女精霊使いたちと謳歌する~食文化の遅れた異世界で現代フード出しまくり~

 「……熱い。秋晴れなんてレベルじゃないぞ、これは」

 俺は額の汗を拭いながら演習場の隅で天を仰いだ。
 今日はいよいよ、グルト辺境騎士団始まって以来のビッグイベント騎士団合同交流会―――平たく言えば異世界大運動会の当日だ。

 空は雲一つない快晴。だが秋の爽やかさなどどこへやら、照りつける太陽は真夏のような凶悪な熱を放っている。おまけに演習場には千人以上の騎士たちが集結しており、彼らが発する熱気と闘志がさらに気温を押し上げていた。

 そんな中、会場のボルテージが一気に最高潮に達する瞬間が訪れる。

 「みな様ぁ~~! 本日は存分に、日頃の鍛錬の成果を見せちゃってくださ~~い♪」

 開会式の壇上に現れたのはステア王女だ。
 しかもいつもの豪華なドレス姿ではない。彼女が纏っていたのは、この日のためにあつらえられたであろう特製の「かわいい鎧姿」じゃないか。

 白銀に輝く軽量のドレスアーマー。随所にピンクのラインが走り、マントの裏地には可憐な刺繍が施されている。武具としての機能美と、少女らしい愛らしさが奇跡的なバランスで融合していた。

 ていうか、かわいい。

 これは反則だわ。

 「「「「「「「「うおおおおおおおっ!! ステア王女殿下ぁああああ!!」」」」」」」」

 野太い、地響きのような歓声が演習場を揺らす。
 屈強な騎士たちが、まるでアイドルのライブに来たファンさながらに拳を突き上げ熱狂している。

 いや、このままいくとみんでオタ芸はじまりそうな勢いだ。

 「オウ、オウ、オウオウオウ!」

 俺は騎士と一緒に拳を突き上げているミーシャを引っ張りながら食堂に戻った。
 なにかの芸に目覚めてるんじゃないよ。



 ◇◇◇



 開会式の熱狂そのままに競技がスタートした。交流会とは名ばかりの、ガチの模擬戦や魔法披露会が次々と行われていく。

 「―――はぁああああっ!」

 演習場の中央では我が団の誇る剣姫シュトリアーナが、他団の猛者たちを次々と木刀一本でなぎ倒していた。その動きは速すぎてもはや残像しかない。さらに美しくかつ鋭い剣閃に観戦席からは溜息が漏れる。

 一方で力自慢の競技ではゴンスが大活躍だ。 巨大な岩を担いで走るという、もはや人間業とは思えない競技で、圧倒的なパフォーマンを見せつけていた。

 「ふんぬぅう! 俺っちの牛丼で鍛えられた筋肉をみろぉ!」

 牛丼で筋肉が鍛えられるのかはわからんが、とにかく頑張っていることには変わりない。

 さらに魔法課のルリアも、魔法披露のセクションで注目を浴びていた。
 サラが調子に乗りすぎて炎を大主力で吐いたっぽい。訓練場の一部が焦げている。
 多数の団員からは凄い!と賞賛を浴び、同じサラマンダー使いたちからは、ちょっと引かれていた。

 やっぱサラって普通のサラマンダーと違うのかもしれない。

 にしても熱いな……

 競技が白熱すればするほど、騎士たちの体は水分を欲する。
 気がつけば、グルト騎士団が用意していたいつもの給水所である井戸の周りには、地獄のような長蛇の列が出来上がっていた。

 「先輩、大変です~~予想以上の白熱ぶりで、水の供給が全く間に合いませんよぉ!」

 ミーシャが顔を真っ赤にして駆け寄ってきた。
 井戸の汲み上げも限界だし、食堂に保存している水を合わせて出しているが、これも底を尽きかけている。

 「並んでいる騎士さんたちもイライラしはじめてますよぉ」

 マズいな……このままでは交流会が乱闘会になってしまう。
 ルリアに頼んで水の精霊ディーネを呼んでもらうか? いや、あいつは分量を誤って演習場を泥遊び会場に変えかねない。それにこの猛暑で失われているのは「水」だけじゃないんだ。

 よし、であれば!

 「―――現代フード召喚!」

 「よし、こいつをバンバン配っていくぞ、ミーシャ!」

 俺の目の前に現れたのは、キンキンに冷えた大量のペットボトル。
 そう、現代が誇る脱水症・熱中症対策の切り札―――スポーツドリンクだ。

 「せ、先輩……なんですか、この透明な膜に覆われた水は!?」

 ミーシャが驚愕の声を上げる。
 あ、そういえばそこまでペットボトルを召喚してなかったな。異世界の住人にとってプラスチック素材は未知の物質だ。もしかしたら、水そのものが薄い魔力の膜で形を保っているように見えてるのかもしれない。

 「いいから配るぞ! キャップをひねるだけで飲める。ほら、そこの騎士さんこれを!」

 俺たちは台車に召喚したペットボトルを重ねて、列をなす騎士たちにスポーツドリンクを配り歩いた。

 「……なんだこれは?」

 「水分補給とちょっとした体力回復ドリンクだ」

 「この透明な入れ物、ガラスじゃないのか?」 
 「うおっ、柔らかいぞ!」

 キャップをひねりおそるおそる一口含んだ騎士の目が、カッと見開かれた。

 「な……なんだこれ! ポーションみたいな嫌な味がしないぞ! いや、むしろ美味い!」

 この世界にはポーションと呼ばれる体力回復薬が存在する。
 だがこいつがもう絶望的に不味いのだ。泥水に錆びた鉄を混ぜて煮詰めたような、飲んだ瞬間に逆に吐き気を催すような激マズ飲料。そう、ポーションは不味い。それがこの世界の常識だ。

 「なんだこれ、ただの水より力が湧いてくる気がするぞ!」
 「ふはぁ~~っ! 冷たくて、喉にスッと入ってくる。なんだ、このさっぱりした甘みは!」
 「おい、俺にもその不思議な水をくれ!」
 「おれもおれも!」

 口コミは一瞬で広がった。
 ポーションのような即効性の体力回復効果はないが、電解質と糖分を完璧に配合した現代の結晶は水分が枯渇した騎士たちの体に染み渡っていく。

 俺も合間に一口グイッと……うむ、生き返るな。
 素早い水分補給に少しばかりの疲労回復。久々に飲んだけど、いいなこれ。

 「わぁ~先輩~~これ美味しいしスルスル飲めちゃいますね♪」

 ミーシャも自分の分をラッパ飲みで豪快に流し込んでいる。

 「ああ、だがミーシャ。飲み過ぎには注意しろよ? 糖分を摂りすぎると、後で体が重くなるからな」

 「……クプッ。子供じゃあるまいし、だいじょ~ぶですよぉ~~」

 ミーシャのおなかから不穏な水音が聞こえた気がしたが、忙しすぎてそれ以上追求できなかった。
 俺は注意事項として一度に飲みすぎないことを触れ回りながら、スポドリを渡して回る。

 そんなこんなで慌ただしい午前もそろそろ終わりに差し掛かった頃。
 ステア王女の声が演習場に響き渡った。

 「はぁ~~い! みな様~~午前の部は楽しんでいただけてますかしら? それでは、恒例の騎士団対抗リレーのお時間ですわ~~!」

 いよいよ午前のしめイベントだな。
 各騎士団から4名を選出し、プライドを賭けて演習場を駆け抜ける対抗リレー。

 「おい、ミーシャ。そろそろ出番だぞ。食堂課代表として、お前の足を見せてやれ」

 俺は台車を片付けながら、ミーシャを振り返った。
 食堂課からは、もっとも若いミーシャが出場することになっていたのだ。
 おっさんやじいさんが走るよりは全然いいからな。

 だが……。

 「せ、せんぱぃ……お腹が……クプゥ」

 見ればミーシャが台車の脇で、タプタプに膨らんだ腹をさすってへたり込んでいた。

 「……お前、飲みすぎるなって言ったろ」
 「だってぇ……美味しかったんですもん……先輩、あとは、頼みました……バタン」

 ベタすぎる倒れ方をして、白目を剥くミーシャ。その手にはグルト辺境騎士団の鉢巻がしっかりと握られていた。


 「……嘘だろ。俺が出るのかよ」


 ミーシャを柔らかい芝生へ寝かせると、一呼吸いれた。

 しゃ~ないな。

 じいさんを走らせるわけにはいかないし、俺が代走を務めるしかない。
 俺はミーシャから鉢巻をひったくり、集合場所へと急いだ。そこにはグルト騎士団の他のリレーメンバーが集まっていた。

 「よ、タケ。あんたが出るの?」

 第2走者のスレーナが、少し意外そうに俺を見た。

 「ああ、ミーシャがスポドリの誘惑に負けたからな」
 「なんそれ? ま、とにかくあたしが稼いだリードをしっかり守りなよ」

 二ッと白い歯をみせるスリーナ。たしか俺は第3走者だったか。

 「タケオさん、一緒に頑張りましょうね」
 「ああ、そうだなルリア」

 第1走者であるルリアが小さな腕に力こぶをつくってみせた。

 グルト辺境騎士団のメンバーは、俺と騎士課のスレーナに魔法課のルリア。そしてアンカーは、我が辺境騎士団の騎士課、スレイ隊長殿……なのだが。

 「ぬぉおおおおお…………っ! げ、ゲプゥ」

 「……スレイ隊長?」

 そこにはミーシャ以上にポンポンに膨れ上がったお腹を抱えて、脂汗を流しているスレイ隊長の姿があった。

 いや……あんたもかい!

 「ぬぅ……不覚! この魔法の水が美味すぎるのが罪なのだ……! 走ろうとすると、腹の中で波が逆巻く……ぶはぁっ!」

 「スレイ隊長! 何か出てる! 口から出てますよ!」

 どうやら隊長もスポーツドリンクの魅力にやられたらしい。状況は最悪だぞ、アンカーが走れないって。

 「これどうするんだ?  代わりの代走……今からゴンスを引っ張ってくるか?」

 俺が周囲を見渡した、その時だった。

 「あらあら~~♪ もしかして、どなたか体調不良ですの?」

 鈴を転がすような声と共に、いつの間にかあの可愛い鎧姿のステア王女が俺たちの目の前に立っていた。

 「王女殿下!? いや、その、アンカーの隊長がちょっと水分補給に失敗しまして。すぐに代走を立てますので!」

 俺が慌てて弁明しようとすると、王女はフフンと鼻を鳴らした。

 「それには及びませんわ……ちょうど、わたくしも体が鈍っていたところですもの」

 「……はい?」

 気がつけばステア王女の手には、スレイ隊長が握っていたはずのアンカー用の鉢巻が握られていた。彼女はそれを自分の額にキリリと巻き直す。

 え? なにやってんの?

 「わたくしが、グルト辺境騎士団のアンカーとして出ますわ♪」

 ……マジかよ