「ルアール騎士団到着されました!」
「つづいてムキタ騎士団も到着! おっと馬車はこちらへ!」
「あれ、名簿では10名のはずでは?」
「ちがうちがう、こっちのリストを見ろ! 直前で追加5名になってる」
朝からグルト辺境騎士団の正門前は、かつてないほどの活気に包まれていた。
今日はいよいよ交流会の第1日目。王国各地から集結する騎士団が、続々とこの辺境の地に足を踏み入れているのだ。 普段は門番のあくびぐらいしか聞こえない静かな正門まえが、今は鎧の擦れる音と馬のいななき、そして大勢の話し声で溢れかえっている。
「ふあぁ……凄いことになってますね、先輩。本当にここ、私たちの騎士団ですか?」
隣でミーシャが、呆然とした様子で正門を見つめている。
「ああ、こりゃ完全にお祭り状態だな。三等騎士団始まって以来の盛況ぶりだぞ」
俺は肩をぐりんと回し、深く一呼吸ついた。
……正直、アッと言う間の10日間だった。開催地がここに決定してからというもの、食堂課はずっと準備準備準備だ。
だが、ここからが本当の本番だ。
まずは午後一番から始まる全騎士団代表による全体会議。各騎士団の有力者が一堂に会するこの場が、今回のおもてなしミッションの初戦となる。
「さて、やるかミーシャ。気合入れろよ」
「はい、先輩! 私の本気を見せてやりますよ♪」
◇◇◇
俺たちが向かったのはいつもの会議室……ではなく、別棟にある室内練習場だ。
今回の会議に参加するのは各騎士団から1~2名程度だが、いかんせん50以上の騎士団が参加している。総勢100名を超える幹部クラスを収容するには、いつもの部屋では完全にキャパオーバーなのだ。
板張りの床には急造の長い会議テーブルが並べられ、そこには王国騎士団の重鎮たちがずらりと顔を連ねていた。
「コホン。では、これより全体会議を始めますわ」
上座で凛とした声を響かせたのは、ステア王女だ。その横には艶やかな笑みを浮かべるフルノラ団長。さらに本部の総騎士団長、参謀長、そして剣姫シュトリアーナ。
まさにそうそうたる顔ぶれだ。本部での事務方時代、俺はこういうお偉方たちの提出する書類処理に追われていたっけ。懐かしいな……。
俺は会議室の全容を素早く確認し、音を立てずに部屋を出た。
向かったのは室内練習場のすぐ隣に設置した急造の給仕室だ。そこではじいさんがせっせとカップやソーサーのセットを並べていた。
「よし、会議は始まった。予定通り1時間後に休憩を挟んでお茶出しだ。それまでに準備するぞ、じいさん」
じいさんがピンと跳ねた髭を揺らし、無言で深く頷いた。
ミーシャはルリアとともに着替えに行ったようだな。
ルリアは魔法課所属だが、今回は臨時でサポートに回ってくれることになった。
ぶっちゃけ人手不足すぎるので、団長も快諾してくれたのだ。
さてと、俺もそろそろ魔力を練り始めるか。
会議開始から1時間。議論が白熱し、室内には重苦しい空気と疲れが漂い始めた頃。絶妙なタイミングでフルノラ団長がパンと手を叩いた。
「さあ~~みなさ~~ん! 少し頭も疲れたことでしょうし、ここでお茶の時間にしますよ~~♡」
「まあ! フルノラ団長、それは素敵ですわ。わたくしも喉がカラカラでしたの♪」
ステア王女が待ってましたとばかりに声をあげる。
それを合図に、俺は会議室のドアをあけた。
「失礼いたします。食堂課です。お飲み物をお持ちしました」
俺が先導し、その後ろから給仕用のワゴンが2台続く。
次の瞬間、会議室の重苦しい空気が一気に変わった。
「まあ~~なんて可愛らしいのかしら!」
ステア王女がキャッキャと声を上げる。
もちろん、彼女が心躍らせているのはおっさんの俺じゃない。俺の後ろでワゴンを押すミーシャと、臨時サポートとして手伝ってもらっているルリアだ。
今回俺は二人にお願いしてメイド服を着てもらった。フリルたっぷりのエプロンに、かわいらしげなカチューシャ。露出は控えめだが、もともと美少女の二人がこの勝負服(?)をまとって微笑めば、会議室に並ぶおっさん……もとい、屈強な騎士団幹部たちの視線が微笑ましくなるのも自明の理だ。
騎士団にも女性団員はいるが、いうて基本的には男所帯であることに変わりはない。
ましてやこんなフリフリで勤務している団員はおらんだろうし。
「……ほう。グルトの給仕係は随分と趣向を凝らしているな」
「うむ、あの服装……妙に目を引く。悪くない……いや、非常に良いな」
おっさんたちが理屈をつけては、チラチラと二人を見ている。
よし、評判は上々だ。
メイド服を調達する費用は結構高かったが、投資した甲斐があったというものだ。
2人ともかわいいと喜んで着てくれたのもありがたい。
俺たちは、あらかじめ裏方でポットに入れたドリンクをワゴンに乗せて配り始めた。
「こちらはカフェオレ、こちらは抹茶オレです。お好みのものをお申し付けください」
ミーシャとルリアが、ドリンクの簡単な説明と共に一人一人に丁寧にカップを差し出していく。
だが、そんな和やかな空気の中に水を差す声が響いた。
「……ふん。相変わらずだな、貴様」
声の主はテーブルの中ほどに座っていた。丸い口髭に、分厚い眼鏡。 俺を無能と決めつけ、辺境へと左遷した張本人―――騎士団本部庶務課団長、ゼクスだ。
「これはゼクス団長、ご無沙汰してます」
「ふむ、事務仕事から逃げ出したかと思えば、今度は給仕係か。相変わらず泥臭い仕事をしているな」
ゼクスが鼻で笑い、嫌味を投げつけてくる。
やれやれ、このおっさんは変わらんな。
周囲の幹部たちも、その言葉を聞いて「ああ、こいつが噂の……」という目で俺を見てきた。さらに見たこともない飲み物に対して、警戒して手を伸ばさない者も多い。
こういうことも予想して、ミーシャたちにコスプレで場を和ませてもらったのだが。ゼクスのおっさんが変な空気に変えてしまった。
飲む飲まないは個人の自由だ。強制はできない。
だが、そんな停滞した空気を一人の少女が軽やかに打ち破った。
「うわぁああ~~! これ、とっても美味しいですわぁ~~♪」
ステア王女だ。
彼女は俺が差し出したカフェオレを迷わず手に取り、ごくごくと幸せそうに喉を鳴らした。
「これがカフェオレですのね! わずかな苦味のコクとミルクが混ざり合って、んん~~、甘くていいですわ♪」
「ステア王女殿下ぁ~~こちらもおススメですよぉ♡」
フルノラ団長が、鮮やかな緑色の抹茶オレを王女に勧める。
「ふああぁ~~フルノラ団長。これ見事なグリーンですわね……あ、これは濃厚でお上品な味! 不思議な香りが鼻から抜けますわ♪」
「でしょでしょ~~? これ、異国の特別な茶葉を使っているんですのよ♡」
さらに隣でシュトリアーナが黙々とブラックコーヒーを飲んでいるのを見て、王女が身を乗り出す。
「シュトリアーナが飲んでいる、その真っ黒なのはなんですの?」
「あ、それは姫様には、少し刺激が強いかと……」
俺の制止も聞かず、王女はブラックコーヒーをクッとひとくち。
「……まあ! なんて刺激的なお味でしょう! 目がシャキッとしますわ~~これはこれで、仕事中にはいいかもしれませんわ♪」
かわいい瞳を大きく見開いて、キャッキャするステア王女。
それに応えて、フルノラ団長がウフフと会話を弾ませる。
完全に一部のみ女子会みたいになってるな……。
そんなキャッキャウフフの空気が会議室の一部から広がり始まる。王家の人間が美味しいと太鼓判を押し、楽しそうに飲んでいるのだ。
ここは俺もと一人、また一人、他の騎士団長たちもカップを手に取り始めた。
よっしゃ、王女様。ナイスアシストだ。
「……ほう。これは確かに、頭の疲れが取れますな」
「この抹茶というやつ、不思議な味わいだが存外わるくないぞ」
はじめはこの世界において一般的な紅茶類で攻めようかとも思ったんだが。
やはり現代フードらしいもので勝負したくなってしまった。
俺の選択は間違ってなかったようだ。
一度口に入れれば、たいていはクセになるものばかりだからな。
さてさて。
場が温まってきたところで、俺はさらにお茶の種類を追加した。
緑茶、ほうじ茶、ウーロン茶。ペットボトル召喚ではなく、茶葉を召喚して丁寧にいれた本格派だ。
俺にミーシャとルリアでせっせとみんなにお茶を入れていく。
「おお、これは落ち着く味だ……」
「香ばしさが主張しすぎず……よい」
「ふはぁ……」
うむ、異世界と言えどもやはりお茶はいける。
とくにおっさん連中にかなりの好評だな。
いかつかった団長たちの顔が緩んでいる。
「うむ、タケオ殿であったか? この緑茶をもう一杯頂きたい」
「わしも! おかわりを!」
「それがしも、頼む!」
おっさん連中からバンバン手が上がり始めた。
まあわかる。俺も無性に熱茶を飲みたくなる時があるし、飲んで心からほっとするからな。
「ふう……」
王女さまのパフォーマンスから一気にこの場を現代フードラブの状態に持ってこれたことで、少しばかり肩の荷が下りた。
まわりを見渡しても、不満はほとんど出ていない様子だ。一人を除いては。
この状況をゼクス一人だけが「ぬぐぐ……」と顔をしかめて見ていた。彼は頑なに何も飲まず、テーブルを指でトントンと叩いている。
あまり気にしないようにしよう。と思っていたら……
「あらあら~~ゼクスさんは飲まないのかしら~~? タケオちゃんたちが用意してくれたお茶美味しいのにぃ♡」
フルノラ団長が、意地悪な笑みを浮かべてゼクスを覗き込む。
「ゼクス庶務団長。いまはお茶を楽しむ時間ですわよ。そんなに怖い顔をしていては、良い案も浮かびませんわ……さあ、冷めないうちに」
ステア王女が、満面の笑みでゼクスの前にカップを置いた。
王女殿下直々のお勧めだ。これを拒否することは、王家への不敬に等しい。ましてや騎士団本部に身を置くゼクスにとってはよりその重みが深いことは理解しているだろう。
「ぐっ……。ステア王女殿下、頂戴いたします」
ゼクスは苦虫を噛み潰したような顔で、抹茶オレを一口すすった。
「……どうですか?」
「むっ……うま……いや、変わった味ですな」
「美味しいですか?」
ステア王女が、逃がさないと言わんばかりに顔を近づける。
「……いや、その……うまいと言えば、うまいような気もするような……」
「ですわよね~~! こんなに素敵なお茶ははじめてですわ~~タケオさん率いる食堂課のみなさんには本当に感謝ですわね~~ゼクス庶務団長?」
「……ぬ……む……ま、まあ、そうですかな」
ゼクスがついに力なく視線を逸らした。さすが王女様、あの偏屈なゼクスを笑顔の圧力だけで黙らせるとは。
さて飲み物で喉が潤い、場が十分に温まってきた。
頃合いだな……
「皆様。喉が潤ったところで、お茶に合うお菓子もお持ちしました」
そう、俺たちのおもてなしはこれだけじゃ終わらない。
「つづいてムキタ騎士団も到着! おっと馬車はこちらへ!」
「あれ、名簿では10名のはずでは?」
「ちがうちがう、こっちのリストを見ろ! 直前で追加5名になってる」
朝からグルト辺境騎士団の正門前は、かつてないほどの活気に包まれていた。
今日はいよいよ交流会の第1日目。王国各地から集結する騎士団が、続々とこの辺境の地に足を踏み入れているのだ。 普段は門番のあくびぐらいしか聞こえない静かな正門まえが、今は鎧の擦れる音と馬のいななき、そして大勢の話し声で溢れかえっている。
「ふあぁ……凄いことになってますね、先輩。本当にここ、私たちの騎士団ですか?」
隣でミーシャが、呆然とした様子で正門を見つめている。
「ああ、こりゃ完全にお祭り状態だな。三等騎士団始まって以来の盛況ぶりだぞ」
俺は肩をぐりんと回し、深く一呼吸ついた。
……正直、アッと言う間の10日間だった。開催地がここに決定してからというもの、食堂課はずっと準備準備準備だ。
だが、ここからが本当の本番だ。
まずは午後一番から始まる全騎士団代表による全体会議。各騎士団の有力者が一堂に会するこの場が、今回のおもてなしミッションの初戦となる。
「さて、やるかミーシャ。気合入れろよ」
「はい、先輩! 私の本気を見せてやりますよ♪」
◇◇◇
俺たちが向かったのはいつもの会議室……ではなく、別棟にある室内練習場だ。
今回の会議に参加するのは各騎士団から1~2名程度だが、いかんせん50以上の騎士団が参加している。総勢100名を超える幹部クラスを収容するには、いつもの部屋では完全にキャパオーバーなのだ。
板張りの床には急造の長い会議テーブルが並べられ、そこには王国騎士団の重鎮たちがずらりと顔を連ねていた。
「コホン。では、これより全体会議を始めますわ」
上座で凛とした声を響かせたのは、ステア王女だ。その横には艶やかな笑みを浮かべるフルノラ団長。さらに本部の総騎士団長、参謀長、そして剣姫シュトリアーナ。
まさにそうそうたる顔ぶれだ。本部での事務方時代、俺はこういうお偉方たちの提出する書類処理に追われていたっけ。懐かしいな……。
俺は会議室の全容を素早く確認し、音を立てずに部屋を出た。
向かったのは室内練習場のすぐ隣に設置した急造の給仕室だ。そこではじいさんがせっせとカップやソーサーのセットを並べていた。
「よし、会議は始まった。予定通り1時間後に休憩を挟んでお茶出しだ。それまでに準備するぞ、じいさん」
じいさんがピンと跳ねた髭を揺らし、無言で深く頷いた。
ミーシャはルリアとともに着替えに行ったようだな。
ルリアは魔法課所属だが、今回は臨時でサポートに回ってくれることになった。
ぶっちゃけ人手不足すぎるので、団長も快諾してくれたのだ。
さてと、俺もそろそろ魔力を練り始めるか。
会議開始から1時間。議論が白熱し、室内には重苦しい空気と疲れが漂い始めた頃。絶妙なタイミングでフルノラ団長がパンと手を叩いた。
「さあ~~みなさ~~ん! 少し頭も疲れたことでしょうし、ここでお茶の時間にしますよ~~♡」
「まあ! フルノラ団長、それは素敵ですわ。わたくしも喉がカラカラでしたの♪」
ステア王女が待ってましたとばかりに声をあげる。
それを合図に、俺は会議室のドアをあけた。
「失礼いたします。食堂課です。お飲み物をお持ちしました」
俺が先導し、その後ろから給仕用のワゴンが2台続く。
次の瞬間、会議室の重苦しい空気が一気に変わった。
「まあ~~なんて可愛らしいのかしら!」
ステア王女がキャッキャと声を上げる。
もちろん、彼女が心躍らせているのはおっさんの俺じゃない。俺の後ろでワゴンを押すミーシャと、臨時サポートとして手伝ってもらっているルリアだ。
今回俺は二人にお願いしてメイド服を着てもらった。フリルたっぷりのエプロンに、かわいらしげなカチューシャ。露出は控えめだが、もともと美少女の二人がこの勝負服(?)をまとって微笑めば、会議室に並ぶおっさん……もとい、屈強な騎士団幹部たちの視線が微笑ましくなるのも自明の理だ。
騎士団にも女性団員はいるが、いうて基本的には男所帯であることに変わりはない。
ましてやこんなフリフリで勤務している団員はおらんだろうし。
「……ほう。グルトの給仕係は随分と趣向を凝らしているな」
「うむ、あの服装……妙に目を引く。悪くない……いや、非常に良いな」
おっさんたちが理屈をつけては、チラチラと二人を見ている。
よし、評判は上々だ。
メイド服を調達する費用は結構高かったが、投資した甲斐があったというものだ。
2人ともかわいいと喜んで着てくれたのもありがたい。
俺たちは、あらかじめ裏方でポットに入れたドリンクをワゴンに乗せて配り始めた。
「こちらはカフェオレ、こちらは抹茶オレです。お好みのものをお申し付けください」
ミーシャとルリアが、ドリンクの簡単な説明と共に一人一人に丁寧にカップを差し出していく。
だが、そんな和やかな空気の中に水を差す声が響いた。
「……ふん。相変わらずだな、貴様」
声の主はテーブルの中ほどに座っていた。丸い口髭に、分厚い眼鏡。 俺を無能と決めつけ、辺境へと左遷した張本人―――騎士団本部庶務課団長、ゼクスだ。
「これはゼクス団長、ご無沙汰してます」
「ふむ、事務仕事から逃げ出したかと思えば、今度は給仕係か。相変わらず泥臭い仕事をしているな」
ゼクスが鼻で笑い、嫌味を投げつけてくる。
やれやれ、このおっさんは変わらんな。
周囲の幹部たちも、その言葉を聞いて「ああ、こいつが噂の……」という目で俺を見てきた。さらに見たこともない飲み物に対して、警戒して手を伸ばさない者も多い。
こういうことも予想して、ミーシャたちにコスプレで場を和ませてもらったのだが。ゼクスのおっさんが変な空気に変えてしまった。
飲む飲まないは個人の自由だ。強制はできない。
だが、そんな停滞した空気を一人の少女が軽やかに打ち破った。
「うわぁああ~~! これ、とっても美味しいですわぁ~~♪」
ステア王女だ。
彼女は俺が差し出したカフェオレを迷わず手に取り、ごくごくと幸せそうに喉を鳴らした。
「これがカフェオレですのね! わずかな苦味のコクとミルクが混ざり合って、んん~~、甘くていいですわ♪」
「ステア王女殿下ぁ~~こちらもおススメですよぉ♡」
フルノラ団長が、鮮やかな緑色の抹茶オレを王女に勧める。
「ふああぁ~~フルノラ団長。これ見事なグリーンですわね……あ、これは濃厚でお上品な味! 不思議な香りが鼻から抜けますわ♪」
「でしょでしょ~~? これ、異国の特別な茶葉を使っているんですのよ♡」
さらに隣でシュトリアーナが黙々とブラックコーヒーを飲んでいるのを見て、王女が身を乗り出す。
「シュトリアーナが飲んでいる、その真っ黒なのはなんですの?」
「あ、それは姫様には、少し刺激が強いかと……」
俺の制止も聞かず、王女はブラックコーヒーをクッとひとくち。
「……まあ! なんて刺激的なお味でしょう! 目がシャキッとしますわ~~これはこれで、仕事中にはいいかもしれませんわ♪」
かわいい瞳を大きく見開いて、キャッキャするステア王女。
それに応えて、フルノラ団長がウフフと会話を弾ませる。
完全に一部のみ女子会みたいになってるな……。
そんなキャッキャウフフの空気が会議室の一部から広がり始まる。王家の人間が美味しいと太鼓判を押し、楽しそうに飲んでいるのだ。
ここは俺もと一人、また一人、他の騎士団長たちもカップを手に取り始めた。
よっしゃ、王女様。ナイスアシストだ。
「……ほう。これは確かに、頭の疲れが取れますな」
「この抹茶というやつ、不思議な味わいだが存外わるくないぞ」
はじめはこの世界において一般的な紅茶類で攻めようかとも思ったんだが。
やはり現代フードらしいもので勝負したくなってしまった。
俺の選択は間違ってなかったようだ。
一度口に入れれば、たいていはクセになるものばかりだからな。
さてさて。
場が温まってきたところで、俺はさらにお茶の種類を追加した。
緑茶、ほうじ茶、ウーロン茶。ペットボトル召喚ではなく、茶葉を召喚して丁寧にいれた本格派だ。
俺にミーシャとルリアでせっせとみんなにお茶を入れていく。
「おお、これは落ち着く味だ……」
「香ばしさが主張しすぎず……よい」
「ふはぁ……」
うむ、異世界と言えどもやはりお茶はいける。
とくにおっさん連中にかなりの好評だな。
いかつかった団長たちの顔が緩んでいる。
「うむ、タケオ殿であったか? この緑茶をもう一杯頂きたい」
「わしも! おかわりを!」
「それがしも、頼む!」
おっさん連中からバンバン手が上がり始めた。
まあわかる。俺も無性に熱茶を飲みたくなる時があるし、飲んで心からほっとするからな。
「ふう……」
王女さまのパフォーマンスから一気にこの場を現代フードラブの状態に持ってこれたことで、少しばかり肩の荷が下りた。
まわりを見渡しても、不満はほとんど出ていない様子だ。一人を除いては。
この状況をゼクス一人だけが「ぬぐぐ……」と顔をしかめて見ていた。彼は頑なに何も飲まず、テーブルを指でトントンと叩いている。
あまり気にしないようにしよう。と思っていたら……
「あらあら~~ゼクスさんは飲まないのかしら~~? タケオちゃんたちが用意してくれたお茶美味しいのにぃ♡」
フルノラ団長が、意地悪な笑みを浮かべてゼクスを覗き込む。
「ゼクス庶務団長。いまはお茶を楽しむ時間ですわよ。そんなに怖い顔をしていては、良い案も浮かびませんわ……さあ、冷めないうちに」
ステア王女が、満面の笑みでゼクスの前にカップを置いた。
王女殿下直々のお勧めだ。これを拒否することは、王家への不敬に等しい。ましてや騎士団本部に身を置くゼクスにとってはよりその重みが深いことは理解しているだろう。
「ぐっ……。ステア王女殿下、頂戴いたします」
ゼクスは苦虫を噛み潰したような顔で、抹茶オレを一口すすった。
「……どうですか?」
「むっ……うま……いや、変わった味ですな」
「美味しいですか?」
ステア王女が、逃がさないと言わんばかりに顔を近づける。
「……いや、その……うまいと言えば、うまいような気もするような……」
「ですわよね~~! こんなに素敵なお茶ははじめてですわ~~タケオさん率いる食堂課のみなさんには本当に感謝ですわね~~ゼクス庶務団長?」
「……ぬ……む……ま、まあ、そうですかな」
ゼクスがついに力なく視線を逸らした。さすが王女様、あの偏屈なゼクスを笑顔の圧力だけで黙らせるとは。
さて飲み物で喉が潤い、場が十分に温まってきた。
頃合いだな……
「皆様。喉が潤ったところで、お茶に合うお菓子もお持ちしました」
そう、俺たちのおもてなしはこれだけじゃ終わらない。

